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12:魔王の覇気

 魔法の一族。


 貴族の中には、その財力と受け継がれてきた知識によって、魔法の才能と知識に優れた一族が存在する。


 火、水、風、土、光、闇、この六種類の魔法。光は世界規模の勢力を持つ教会が優れ、闇は世界の裏に存在する闇の組織が研究しているという。

 その力のあり方も特殊な光と闇は対象とせず、破壊を主とする四大魔法を研究し、その力でのし上がってきた貴族のことを魔法の一族と呼び、火、水、風、土の各魔法に秀でた一族をそれぞれ、火の一族、水の一族、風の一族、土の一族と呼び、力の象徴として恐れられてきた。


 ある時、火の一族が、新たな研究素材の候補として一人の冒険者に手を出した。

 ここまではよくある話。普通は火の一族の力に簡単に膝を屈し、不必要な手足をもがれ、才能ある火の一族の次世代を生み出す素体として活用されるはずであった。


 普通ならばだ。

 野には手を出してはいけないバケモノと呼ばれる存在が、極稀(ごくまれ)にいる。


 手を出した者達の死、それだけならば好しとするような事態。

 火の一族が手を出したそれは、バケモノと呼ばれる規格の外の力を有していた。


 火の一族は滅びず。しかし、滅びた。






スキルの迷宮入り口:

 お嬢様、と満面の笑みで近付いてくる。火の一族フレイアのメイド長さん。

 彼女は手を出してはいけない人達まで巻き込んで私を脅してきたので、百回死んでもらった。比喩でなく本当に百回だ。

 彼女が持っていたスキルもステータスもその死によって全て無くなったはずだけど、鑑定してみるとまた強くなっている、びっくりだ。

 (リン、あれは洗脳したやつらか?)

 (うん、私のことを火の一族のお嬢様と認識して尽くす様にしてある)

 (そうか、まあ、お姫様とお嬢様の違いなら問題なかろう)

 (まあね、けど凄いね、彼女達、私にちょっかい掛けてきたころの強さにまで戻ってるよ)

 (おおぅ、頑張ったな)


 メイド長さんが、スカート端を摘まみ礼をする。

 「お久しぶりですお嬢様。今日はこのような所に、どのようなご用件で来られましたのでしょうか?」

 「うん、スキルの迷宮に潜ろうと思ってね」

 「まあ、そうでございますか、では、私どもがご案内いたします」


 私を囲むメイドさん達。

 ドンッと弾き飛ばされる、セザールさんとゴルジフさん達。

 「まてぃ! いきなり出てきてなんだお前達は」

 セザールさんが啖呵(たんか)を切る。


 「さ、まいりましょうお嬢様」

 華麗にセザールさんの存在自体を無視するメイドさん達。


 「うぉーぃ! 無視するなー!」


 「待ちたまへ、迷宮の管理は先日、火の一族から我等ゴルジフに移ったはずだが?」

 なにそれ、迷宮の管理は冒険者ギルドがやるんじゃないの? セザールさんをみるけど、特に反応は無い。なんか特殊なルールでもあるのかな。

 「関係ありません。お嬢様をお守りするのは我等メイドの役目です」

 「そうはいかない。リン様をお守りするのはローランの騎士である我等ゴルジフの役目だ」

 「邪魔をするなら殺しますよ?」

 その言葉に騎士達が剣に手を掛け、メイドさん達が一定の距離を開けて散らばる。


 相変わらず過激なメイドさんだなあ。おそらく、戦闘が始まれば騎士さん達は簡単に殺される。彼女達は対人に特化したといっていい殺人マシーンだ。

 メイドさん達のさり気なく垂らされた手や、後ろに回された手には暗器(あんき)が握られている。間合いの取り方も慣れたものだ、騎士一人に対して複数で対応できるように絶妙な間隔を保っている。等間隔で散らばった時に何人かは隠密を発動し騎士の背後に移動し、いつでも殺せる体勢のメイドさんもいる。数が減っている事に気付いていない騎士達は既に勝てる要素が無い。


 ぷにぷに、とクロが背中を押してくる。

 (リン、早く迷宮いくのだ! どうせボス部屋には一人しかは入れんのだから何人ついてきても問題ないのだ)

 (んー、そうだね。けど、一人で入れてくれるかなあ?)

 (メイド達はリンに絶対服従だから、問題ないだろう。丁度良いから邪魔する奴等を取り押さえさせておこう)

 (そっか、メイドさん達はそういう風にしておいたんだったね)

 (うむ)

 少し考え...



 パンッと手を叩き、ニッコリ微笑み。

 「じゃあ、皆で仲良く行きましょう」

 皆で仲良く行くことにする。



 騎士二人を先頭にスキルの迷宮に入る。

 セザールさんとゴルジフさんが、私の少し前を歩き、私の直ぐ後ろにメイド長さん、その後ろにメイド軍団の順。

 「お嬢様の前を歩くなんて下種共め、後で殺します」

 なんか、直ぐ後ろで不穏当な発言が聞こえた。いや、聞こえなかった。


 しばらく歩くと行列が見えてくる。

 「なにこれ?」

 (何か美味いものでも売っているのか?)

 (いや、さすがにそれは無いでしょ!)


 「お嬢様、これはボス部屋挑戦者の列です」

 「へぇ、ああ、ここのボス部屋でもスキルの巻物が出るから?」

 「はい、さすがお嬢様、聡明であらせられます。低い階層のボスは雑魚にも容易に倒せますので、このように群れております」

 うーむ、本人達皆が聞こえる声で雑魚って言っちゃってるよ。

 (ねえ、メイド長さんって口悪いよね)

 (うむ、こいつの思考はお嬢様以外はゴミという認識なんじゃないか?)

 (あー、そうかも)


 列に並んでいる冒険者諸君にじろじろ見られながら進む。

 (恥かしいんだけど! ていうか皆でゾロゾロ来たの大失敗だったよね!)

 (位置的にリンが一番偉いのがわかるしな!)

 (嫌なんだけど!)

 (時既に遅し、明日からリンは有名人だ!)

 (じゃあ、今日で終わらせちゃおう!)

 このまま最下層まで攻略してしまえば今日で全てが終わる!

 (超忍術だな!)

 (えー、そんなの無いってば)


 注目を浴びながら、二層三層四層と降りる。この間戦闘一切なし!

 「平和な迷宮ですね」

 「さすがにここら辺は、掃除されていて魔物も出ないな、しかし深層に行くほど一気に危険度が増すぞ」

 「無能なギルド長様、気安くお嬢様に話しかけないで下さい。殺しますよ?」

 「ひぃぃ!」

 平和じゃない会話が繰り広げられる。



五階ボス部屋:

 ここは虚ろな影という敵が出る。

 最下層の真のボスの形態を決める情報を、挑戦者本人から解析するためのいわば鑑定装置。


 ここのボスと戦闘をしなければ、最下層で真のボスが出現することが無いらしい。


 「じゃあ、私が戦いますね」

 「お嬢様、ご武運を」

 「ぬ、ここなら問題ないか」

 「リン様、お気をつけて」


 皆ここのボスは、攻撃してこないとわかっている。さすがにセザールさんとゴルジフさんも反対はしない。






 ボス部屋の扉を(くぐ)り部屋に立つ。


 背後で扉が閉まり。


 部屋の奥が淡く輝き。


 魔物が一匹出現する!


 さて、と。

 虚ろな影を魔眼で鑑定する。

 私の魔眼スキルは、鑑定スキルの上位版というか、魔眼というスキルを手に入れたとき魔眼によって鑑定も行えるため鑑定スキルが魔眼に吸収されたものです。


 「我のえ、も、の!」

 飛びかかろうと楽しそうに尻尾をふりふりしていたクロをガシッと捕まえる。

 「むむむ?」

 「ここでは戦闘しないよ」

 「なんで?」

 「最下層のボスが色々面倒になるから」

 「そうなの?」

 「うん、下手すると私とクロの力を持った魔物が出るかも」

 「燃える!」

 「えー、燃えないよ、面倒くさい」

 「じゃあ、どうするのだ?」

 「こうするの」


 灰色だった魔王のローブが漆黒に染まる。

 「おおぅ! イカス!」


 ゆるゆると溢れ出す魔王の覇気。


 それは、生きとし生ける者、全てに与えられる平等な福音(ふくいん)


 死の波動により、虚ろな影が朽ち果てる。


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