11:戦闘メイド
私の名前はニア。
火の一族に生まれたが一族としては出来損ないだ。出来損ないの理由は簡単、単純に生まれた時点で火魔法の才能が無かったからだ。だけど、スキル製造結果としては当たりだといわれている。
火の一族では才能のある女を素体として子供を創る技術がある。素体が火の一族ならば種は一族に限られず才能のある者を外から招き入れる場合もあると言う。私の場合は素体と種両方に暗殺のスキルが有った為なのか、所持スキルに暗殺弐という特殊なユニークスキルが発現したのだという。
暗殺というスキルはユニークスキルながら持ってない者でも比較的簡単に発現できるスキルだと言われている。
まず、どう発現するかの前に暗殺スキルの効果について説明しよう。
人型の生物に対して攻撃した時のダメージが倍になる。
この破格ともいえる効果は対魔物ではなく対人間に対してとても有効な効果なのだ。ここまで聞けばスキルの発現条件も予想がつくだろうが、人を一方的に殺すこと。その数は少なければ五十人、多ければ数百人で発現するといわれている。
人を一方的に殺すこと。つまりは暗殺を繰り返していれば自ずと暗殺スキルが発現するという事だ。人を効率的に殺す技術が磨かれ、その結果が暗殺スキルという結晶になるともいわれている。
実証されていないが殺す数に差があるのは、あくまで噂としてだが殺す相手の力量が総合的に上でなければ、殺した数としてカウントされないのではないかともいわれている。よって生まれながらの強者には暗殺スキルを発現することは難しいともいわれ、事実貴族の方々で暗殺スキルを発現された方は少ないといわれている。
生まれながらに火魔法スキルを持ってない者は火の一族、ひいては魔法の一族とは認められない。一族の血を引いて出来た失敗作は高貴な血が外に漏れないため殺処分されるが、役に立つ者は下男下女として生きることを許される。
私はこの特殊なスキルから将来一族の役に立つためメイド長を筆頭に組織されている戦闘メイドの一員として訓練されてきた。
戦闘メイドとは、無手又は暗器による戦闘を主とした戦闘集団であり、一見無害なただのメイドとして主に付き従い、武装が不可能な場であっても遜色ない戦闘力を発揮する懐刀として存在している。
一度、現御当主に付き従う美しい白金の胸当てと剣を装備したメイドを見た事があり、メイド長様に質問した事がある。
「メイド長様、あのお方も戦闘メイドなのですか?」
蔑んだ目でそれを見つめていたメイド長様。
「あれは、元女騎士です。今では御当主様の側妻として付き従っているだけです」
「そうなのですか...あの」
「なぜ、私達も武装しないのか、ですか?」
「あ、はい。なぜでしょうか?」
一見地味なメイド服の上に光り輝く白金の鎧というのは何より見た目が恰好良い。
「……ふぅ、あのように鎧を着て帯刀したものが正式な場に同行をゆるされると思いますか?」
「あっ」
そうだ、私達は武装が不可能な場でも武装した者以上の働きをすることを前提としている。
「武装して良いのならば、メイドでなく騎士をつけたほうが効率的です。それにあの様な見栄えだけの装備など...ニア、何手で殺せますか?」
「そうですね、あれならば一撃で、あ!」
あの鎧は、急所を守るというよりも、なんていうか。
「あれは御当主様の趣味です。殿方はああいう趣向が性的に興奮するようです」
「え、あの、」
「一部の貴族の間であのような戦闘メイドのコスチュームプレイが流行っているようです」
「え、それって、」
「殿方の下の世話もメイドの役目のひとつです。彼女達にはお似合いの仕事でしょう」
「え、」
「安心なさい、私達には関係の無い話です」
「そうなの、ですか?」
「ええ、本当の意味での戦闘メイドの価値は性欲の捌け口などに使えるものではありません、彼女はその代わりに雇われているようなものです」
そういえば、彼女の顔はメイド長様に何となく似ている。
「あの、」
「行きましょう、フレイア様お嬢様がお待ちです」
「あ、はい」
今日私は、次代の当主と名高いフレイア様に戦闘メイド見習いとして拝謁する。
フレイア様はこれからしばらく冒険者としてローラン王都の管理迷宮に潜り火の一族の目標である火魔法の上位である炎魔法習得を目指す。見習いの私は同行を許されていないが、しばらく留守にする前にお目通りだけ済ませてしまうと言う話しになっている。
フレイア様。
お若くして火魔法を極めつつある素晴らしいお方。
…………
……
しばらくして、戻ってきたメイド長様は...何をどうやったとしても有効打の一撃も入れることさえできなかったメイド長様。今は一撃で簡単に殺すことさえ出来てしまう、そう思えるほど隙だらけのメイド長様。一体何があったのか?
フレイア様が次期当主から次期当主を製造する素体としてお隠れになった。
メイド長様を筆頭に、壊滅的だった主力戦闘メイドの方達が驚異的なスピードで力を取り戻しつつある。
「このままでは、お嬢様のお役に立てません!」
フレイアお嬢様はもう人でさえないのに、メイド長様達は何を言っているのだろうか?
最近様子のおかしい御当主様が何を血迷ったかメイド長様に襲い掛かり九割殺しにされていた。半殺しを超えている。
「お前はもっとお嬢様のお役に立てるように生きろ、解ったか?」
「はひぃぃ!」
御当主様をお前呼ばわりしているメイド長様。恰好良い。しかし、お嬢様というのはいったい誰なんだろう?
「このままでは、お嬢様のお役に立てません。スキルの迷宮で必要なスキルを手に入れましょう」
実質的に火の一族を支配している戦闘メイドの一員としてスキルの迷宮に行くこととなった。言っている事は理解出来ないけど理不尽な当主の支配が無くなって清々している。私も会ったことの無いお嬢様のために頑張ろう。
スキルの迷宮に潜る日々。
暗殺弐だけであった私のスキル。今はその他に二個、剣術と火魔法のひとつファイアアローの魔法が増えた。
この迷宮のボス部屋でのソロ戦闘は、人型の魔物に限るが戦闘メイドとの相性が良い。
今日も迷宮攻略の一日が始まる。
迷宮の入り口が騒がしい。一体何があったのか?
周囲の冒険者や場違いな騎士達の会話に耳を澄ます。
「お姫様が来ているらしいぜ」
「お姫様って、今ローランには姫はいないだろ?」
「いや、だから、どっかの貴族のお姫様だろ、さすがに本物はこんな所に来ないだろ」
「それを言うなら、貴族のお姫様も来ないだろ」
「けど見ろよ、あいつら礼装だぜ。あれって正式な場に着ていく装備だろ?」
「確かに、一体どうなってんだ?」
「俺に聞くなよ」
ざわつく場にゴルジフ卿とあれはたしか冒険者ギルドの長を引き連れて、綺麗な女の人が現れる。
先輩方が、メイド長様までもが真剣な眼差しでその女の人を見つめている。
「あの、メイド長様」
聞こえてないようだ。
あ、女の人が私達に気付いた。
え、逃げ出した?
「え、あの、メイド長様?」
一糸乱れぬ隊列で、女の人の前に立ち塞がる。目の前で見るとその美しさに見惚れてしまう。ああ、命懸けで磨いてきたこの技術、どうせならこんな綺麗な人の為に...
「お嬢様!」
え? この方が、お嬢様?




