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09:ゴルジフ

 スキルの迷宮。

 迷宮では極稀にスキルの巻物がドロップする。

 スキルの巻物には二種類存在し、ひとつは開封すると巻物に封印されているスキルが発動するスキル自体が封印されている巻物。そしてもうひとつが巻物に封印されたスキルを自身の所持スキルとして取得できる巻物だ。

 巻物の取引価格は、封印されているスキルによって値段がピンキリだが、同じスキルだとしても後者は前者よりゼロの数字が確実に二つ以上多い。


 そのスキルの巻物が高確率でドロップする迷宮がスキルの迷宮だ。


 もしそれが冒険者ギルドの管理する管理迷宮だとしても、そのようなオイシイ物件を貴族や商人が放って置く訳が無い。


 商人はドロップ品のアタリハズレに係わらず継続的な高給を約束する事で直接冒険者を雇いスキルの巻物の現物獲得と迷宮内での最新のドロップ情報獲得に商魂を燃やし、他の冒険者のレア巻物獲得の情報を仕入れれば市場へ流れる前の直接交渉を持ちかける。


 貴族はその特権を使い、自らの騎士達を迷宮攻略に差し向け巻物の取得に精を燃やす。



 ここでひとつ問題が発生する。

 巻物がドロップするのがはぼ各層のボス部屋のみという点と、ボス部屋にはソロでしか挑戦出来ないという点だ。一度攻略されたボス部屋は一定時間経過しなければ再度ボスが出現せず、次層への階段が出現した状態のままとなる。安全を優先する冒険者は低層階のボス部屋を繰り返し攻略する事で一日の迷宮探索を終える。それでもドロップしたスキルの巻物を売れば十二分の稼ぎとなる。

 そのような冒険者達と商人が雇った冒険者達、これも挑戦できる安全ギリギリの階層で繰り返し挑戦する者達。それに貴族が派遣した騎士達。下手をすると一層目などはボス待ちの列が迷宮入り口に達してしまう事さえある。

 

 協議が行われ、特別な紹介や特権の無い新規の挑戦者は試験を受けなければ迷宮への挑戦を許可しない事となる。当初は冒険者ギルドで行うはずだった試験だがそれでは冒険者のみに有利になると貴族が横槍をいれ、冒険者ギルドが管理する迷宮なのだから冒険者が有利になるのは当然のことなのだが、利権を独占したい複数の有力貴族が絡んだ事もあり試験は貴族が管理することとなった。


 当然、貴族が管理するようになってからその試験に合格した冒険者はほぼいない。


 持ち回りで担当する試験の管理は現在ゴルジフ家が担当している。ブオトの町には、ゴルジフ家の次期当主である嫡男が滞在しゴルジフ卿として指揮管理を執り行っている。




 書類に目を通しているゴルジフ卿に執事が声をかける。

 「若、」

 書類に目を向けたまま返事をする。

 「なんだい?」

 「試験に関してなのですが...」

 執事が言い淀む。

 「ガロッチか?」

 合格者の出ない試験として、確実に冒険者を殺す手段として雇っている者の名だ。炎の魔剣を操る狂人、魔剣の炎により相手を蘇生不能にまで燃やし尽くしてしまう殺人狂。

 「そろそろ手放すべきかと」

 「……たしかにやりすぎなところもあるが、相手は冒険者風情だ。いくら殺しても問題ないだろう?」

 確実に死ぬと解って挑戦してくる愚か者共だ、試験の前にその旨の説明も必ずしている。いくら死んでも問題ない。ただ、確かに毎回蘇生不能にされるのは問題だ。役に立ちそうなスキルを持っている冒険者は子飼いとして手に入れたい、それを毎回蘇生不能では使える人材を手に入れることも目的として試験を担当している意味が薄れる。

 「しかしあの様な狂人を雇っている事が広まりますと体裁が、」

 「そうだな、そろそろ切り時か、次、忠告しても同じようなら処分を考えよう」

 執事が頭を下げる。



 コンコン!



 伝言を受けた執事の足音が珍しく乱れている。

 「若、」

 「お前が慌てるなど珍しいな、話題のガロッチが何かしでかしたか?」

 「いえ、いえ」

 「どうした?」


 「王族の方が冒険者ギルドにお越しになっております」

 「な!!!」

 思わず立ち上がる。扉のほうを見ると報告者の顔が見える。あれは確か冒険者ギルドに潜り込ませている者だったか。

 「お前、詳しく説明しろ」

 「ハ、ハイッ!」


 説明を聞けば、冒険者としてお忍びで供の者も連れずスキルの迷宮に挑戦するために来たと言う。いや、王族がお忍びといっても供がいない事はありえない、何か特別な理由が?

 問題は、ローラン家を名乗っているという事だ。王家筋ならば名家が複数存在する。筆頭はズヴァール家だったがその場合はズヴァールを名乗りローランを名乗ることは有り得ない。つまりローラン家を名乗れる正統な血筋ということになる。

 「まさかエリック殿下が?」

 「いえ、そのお方は女性でした」

 「なに!? では、イレーヌ姫か? いや、姫様は現在はカーライルに...」

 「お名前は、リン様と言う事でしたが」

 「リン様?」

 聞いた事がない。どういうことだ?

 「もしかしましたら、あの、落とし子という事では?」

 む、ありえない話ではない。それならば、冒険者としてお忍びの行動も納得がいく。

 「王族というのは間違いないのだな?」

 「はい、ギルドカードに偽の情報を書き込むことはほぼ不可能ですので、王家の御血筋というのは間違いないかと、」

 「他に何か情報はあるか?」

 「あの、なにか英雄殿がどうとか」

 「なに!? ラムダ殿が来ているのか?」

 「いえ、あの、その、詳しくは、もしかしたら後から来るのかもしれません」

 む、そういうことか、スキルの迷宮には英雄であるラムダ殿が挑戦するということか、まさか! ラムダ殿の...? いや、英雄を王家に迎え入れるというのはありえる話だ。いままで秘密にしてきた王家の血筋の方をこの時期に公にしたのもそのような目的があってのことか?


 英雄殿の花嫁候補、しかも王家の血筋。ハッ! ラムダ殿が到着するまで御守り致さねば!


 「騎士達を招集しろ」

 「ハッ!」

 「迷宮へ潜る可能性もある。装備は戦闘用の礼装だ」

 「ハッ!」

 「いそげ!」


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