プロローグ
―「ワシが異世界にお邪魔して勇者達を現実世界に戻してやろう!」
間違えて現実世界で死んでしまった一般人を、お詫びに異世界へ
間違えてないけど現実世界で死んだ一般人を、何となく異世界へ
別に問題なんてないじゃろう、そう思っていたある日の事。
「最近色んなアニメあるよね」
「私あんまりアニメ見ないけど『事故で家族失った翌日に目が覚めたら異世界に!』っていうアニメに最近はまってる」
そんな会話をしているのは若く可愛らしい女子学生達。お弁当の匂いが漂う教室で机を合わせて仲良さげに会話を進めている。
「異世界に行って死んだ家族と再会する為に旅をするアニメだっけ?」
「そうそう。主人公は間違えて転生されたみたいで、神様から加護?っていうの貰って、1日に1度だけなら死ねる能力を持ってるんだ。仲間も女の子ばっかで可愛いの」
「へー面白そうだね」
「うん。家に帰ったら見てみて」
そうじゃろそうじゃろと、盗み聞きをしながら首を上下に振るこのお爺さんは、その主人公を異世界に転生させた神の父であった。
普段はあまり現実世界に降りる事のないお爺さんだが、我が子である神達の間で『異世界転生』が流行っており、誰が一番強い転生者を生み出せるかなどどいう勝負をしていると聞き、その反響を聞きに現実世界へと降りてきたのだ。
―現実世界から異世界へと転生された人間は、現実世界での小説や漫画、アニメなどに投影される。
勿論そんな事実は現実世界で知られていない。異世界で活動する人の行動を、神達が現実世界の小説家や漫画家などに『妄想』として見せつけ、それを作品として造らせているからだ。
女子達の会話に満足し、他の意見を聞くべく場所を変えようとした時
「お前らそんなの見てんの?だっせー」
教室にいた男子がさっきの女子の会話に横槍を入れてきた
「なによ、面白いじゃない」
「どこが面白いんだよ。あんなありきたりの設定のアニメ、よく見れるよな」
「家族を探す旅なんてかっこいいじゃん」
「そこじゃねーよ。異世界転生ってのがだっせーっの。ネットで見てみろよ、めっちゃ叩かれてるぜそのアニメ」
スマホを取り出し、その男子はそのアニメについて書かれているコメントを見せる。
『みんな大好き異世界www』『まーた転生されちゃったのか』『どうせ俺つえー展開でしょ』『でもヒロインはいける』『俺も異世界に転生したら強くなれるの?』『>>677 お前は一生引きこもり』『異世界やめてくれー』『これ系ほんと飽きた』
そこに書かれていたのは衝撃的な内容ばかり。
想像とは真逆なコメントにお爺さんは唖然とした。
「ほらな」
「本当だ。何で異世界って嫌われてるの?」
「別に全部が全部嫌われてるわけじゃねーよ。ちゃんとストーリーが練られていたり、世界観を大事にしている作品は最初叩かれていてもちゃんと評価されていくんだよ。でも主人公に厨二病だった頃の自分を投影してただ無双したり、これっておかしくない?って所に『異世界だから』って言い訳して何でもありな世界作ったりとか、色々と雑な所が多くて嫌われるんだよ」
「でも無双とかかっこいいじゃん」
「ゲームで例えると始めた瞬間に高レベルになって、レベル上げとか一切にせずにボス倒せたりするんだぞ?それはそれでありなのかも知れないけど、大抵の人は嫌だったり納得出来なくてイライラすると思わない?」
「うーん。少し分かる気はするけど、じゃあ強い主人公は嫌われるってこと?」
「努力してる描写があったり、制約があって一時的に強いとかなら好かれる事多いイメージはあるよ。後は仲間と力を合わすと強いとか」
「そういうことね!分かってきたよ」
「そもそも設定が『普通』とか『落ちこぼれ』の主人公が多いからね。なのにいきなり強くなったりすると違和感がどうしても出ちゃうんだよ。強くなっただけなのにコミュ力も上がったりもするし。ひと昔前はそれでも良かったんだけど、今はありふれてるから変に悪目立ちしちゃうのさ」
「なるほどね」
…信じられん。青ざめた顔でお爺さんは言う。
「あの坊主の言っていた事、信じたくはないが理解出来る所もあった。それに冗談ではなくあれは本当の事を言っておろう…」
年の功というやつか、お爺さんには人の発言が嘘か真かを見分ける事が得意であった。そして顎に手を当て考え込んだ。
現実世界では神達がしている『異世界転生』が嫌われつつある。これを神達に伝えるべきかどうか。
10秒、20秒と時は少しずつ流れ、そして
「よし」
お爺さんは決めた。
「言わぬ事にしよう」
「こんな事言ったらワシが子供達に嫌われかねんしの。子供達に嫌われず、現実世界の人にも納得出来るようにすればええんじゃろ?」
「ワシが異世界にお邪魔して勇者達を現実世界に戻してやろう!」
そう言ったお爺さんの目は本気であった。
お爺さん
○強さ/不明
○使える特技/嘘を見抜く
○使える呪文/5種の初級魔法、世界移動
強く…はない?お爺さんの物語が始まる。