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qoltの読書ノート  作者: qolt
1/5

贈り物

 私は「広辞苑(机上版)」を贈った。

 重さ約5kgもある「辞書」を、「SEシステムエンジニア」の「新郎」に「結婚式場」で手渡した。



 ・・・説明が必要だと思う。



 まず重さだが、水 1Lリットル≒1kgなので、ペットボトル 1.5Lリットル×3本+500ml×1本か、スーパーのお米売場で一袋5kgのお米を買う振りをして持ってみる、などするとより実感を得やすいだろう。



 ・・・。



 一般的に、男性は女性に比べ贈り物が得意ではない。

 その理由は以下の通り、

 ①男性の本懐(のひとつ)は「狩り」で、

 ②筋肉の付きやすいその身体を鍛え、最大値を拡大させ、

 ③「いま」この瞬間ときに最大の成果(=獲物)を希求する。


 よって、①~③より、余計なもの=「荷物」であり、ムダのない「シンプル」を好みつつ、「集める」ことそれ自体に夢中になりやすい。このことは、特に本能に忠実な若い「男子」に強く現れる。そのシンプルな言動・思考は「瞬発力」である。しかし、それは同時に、言動・思考の「深さ」「拡がり」の「限界」を示すものであり、時にそれは「制限」にすらなる。


 ゆえに、「母」の子を想い「与える」「贈る」気持ちとその価値の理解は、「女性」よりも多く時間を要する。それはまさに「深さ」+「持続性」であり、(集めたものが)「減る」と「与える」「贈る」は、いったいどう違うというのか?理解に手が届かない為である。(道理で女性の方が贈り物上手で先に「大人」になる訳だ。)


 しかし、人生は必要な情報がいつも開示された「足し算」「引き算」だけで成り立ち答えがでる様な、シンプルなものではない。シンプルなだけで得てきたのもを武器に社会に出て就職するのは、(私に云わせれば)「毛皮の服」「石をくくり付けた槍」装備で会社に行く様なものだ。その装備で現代の戦場に鼻唄気分で出かけるのは・・・控え目に言っても「困ったことに」なる!w いつも受付のお姉さんが優しくたしなめてくれるとは思わないことだ。少なくとも配属先の上司は怒り荒ぶり、採用した人事担当の責任者は別室に呼ばれ、社長以下役員たちは「会社に人気がないから良い新人が集まらなかったのか?」と悩み、連日会議が行われることになるだろう。・・・そのひとり善がりな装備は早急に見直すことを強く推奨する。そして、私がアドバイスするなら、


「人は一人ひとりでは生きていけない。」(=人生論)とは、現時点ですでに様々な人たちと関わって生きているということを理解するのだ。


 いま周りを見渡せ。私たちは人の手が入ったものに囲まれ生活している。そのうちの何か1つを手に取りその成り立ちをより広く想像せよ───それには、とても多くの様々な職能を持つ人たちが、「複雑」に関わっている。そして、私たちもそのうちの一人なのだ。(だから、この「複雑」な関係(=つながり)を壊す「いじめ」「犯罪」は決定的に嫌われ排除される。)私はいま君の「隣りの隣りの・・・隣り」=「隣り」にいる。そして、私は君のシンプルな問い掛けににいつも同じ答えを返すとは限らない。意地悪しているつもりはないよ?w 人は「機械」ではないから、いつも同じ答えを返せないのだ。私以外の人たちも程度の差こそあれ同様だろう。私たちは単純でもあり複雑でもあるそんななかで生きている。シンプルなものさしでは測れないものがあるのだ。その言動・思考の限界を「深く」「拡げる」とは、シンプル(=狭い)から複雑な世界へ踏み出すことであり、その「関係性」に注意・注目せよ。


 つまりは、社交的でなく拡がりが小さい独身(男性)の私は、誠に遺憾ながら贈り物下手なのだ! ・・・自覚はしている。だが、そんな友達 甲斐がいのない私でも、友人で新郎である彼には何か価値あるものを贈りたかった。彼には、学生時代にとても世話になったのだ。そう───


 彼は、学生時分よりパソコンの扱いに詳しく、かつ面倒見もよく、人を笑わすことの好きな気のいい性格をしていた。私にとってそれは高価で謎の箱でしかなく、そして周りの友人たちも彼を頼っていた。


 勿論、卒業論文にもパソコンはおおいに活躍した。

 特に、ワープロソフトの表記───分数が「 a/b 」など───が我慢ならない私たちは、学会の論文に使う組版ソフトを使用した。見た目は劇的に向上した。彼の負担も増大したw しかし、それ以上に劇的に制作速度が低下した。(苦笑)


 私たちの目標は、所属するゼミ室の本棚の最上段に誇らしく並ぶ歴代のどの卒業論文よりも、分厚く、丁寧・親切で、以降のゼミ生たちに最も引用・利用される、より教科書的なものを作ろう───その為の読みやすさは重要な要素!で、かつその理想を形にするには時間はいくらあっても足りなかったのだ。


 私たちは焦った。結局、締め切りの何ヵ月も前から大学にしょっちゅう寝泊まりする羽目におちいった。

 嘘やごまかしが混ざらぬよう何度も議論を交わした。

 ゼミ室にはカップラーメンが箱で山積みされた。

 廊下に段ボールを敷いて寝た。(暖かくて痛くなくなる!必須!)

 コーヒーメイカーは1台クラッシュさせた。

 寝不足でフラフラしながらギリギリ完成させたそれを抱え、原付で暗い夜の道をドキドキしながら帰ったのを覚えている。

 いま思えば、それは後輩たちへの贈り物と言えなくもない───自分たちのために夢中で作ったそれは、彼らの役に立っただろうか?

 私は多くのことを彼らと共に学ぶことができた。勿論、関係性ついての理解もそこに含まれる。


 私が大学生活で得た関係性とは、「悪いもの」は渡さず「良いもの」を渡す。「良いもの」を渡されたのなら「良いもの」を返す。(人を傷付ける)嘘やごまかしを行わない。そんな関係を築ける人を友に選び、同時にそんな友として選ばれる自分になる。そしてその繋がりを拡大・強化していく──その為には「良いもの」をストックし、あるいは作り出す──は決して特別でも難しいことでもないはずだ。


 例えば、良い本を読んで良い知識・知恵を手に入る。または良いと思う物語を作る。それを回す。(「小説家になろう」のマナーの良さは、この辺りにあると思うのだがどう「なろう」?(*≧艸≦)・・・ごめんなさい)私たちの場合は、それが参考書と理論だった。そう考えれば方法はたくさんあって誰にでも出来て、日々の生活のなかでも手に入る。よく足りないと言われる「イノベーション」も「最終的には、人々を幸せにするもの」と定義すれば、「君の瞳は素敵だね。」と言って相手をときめかせたなら、それは小さく些細ささいなものだが確かな「イノベーション」だ。私たちは元気よく言われた「おはよう!」に込められたエネルギーに対して、さらに元気よく「おはよう!!」と返し合っていただけだ。たぶんw


 そんな友人が結婚するというのだ。

 私はない知恵を絞った。これから先も多くのものを贈られるであろう彼に相応しい、①'他の誰の贈り物とも被らず、②'長く使え、③'品位を貶めないもの───


 ・・・間違っていないはずだ(震え声)


 だがそれは周りの友人たちにも、いつもの私の少しズレた悪ふざけと思わせたかもしれない。実際、私も冗談めかして渡すつもりだった──きっと、君も苦笑いするだろうと。

 式はなごやかに進み、君はご自慢の花嫁さんを連れ、私たちが座る席に来た。私は「おめでとう」という言葉とともにそれを手渡し、君は本当に心の底から嬉しそうに笑ってくれ──私は冗談を言えず言葉を失った。そして会話はすぐ隣の友人に移ってしまった。



 あの時、君はなぜそんなに嬉しそうに笑ってくれたんだい?



 ああ、でも、友よ。私は、君に謝らなければならない。

 その「広辞苑(机上版)」は君にあげたのではない。

 いや勿論、君も使ってくれるなら嬉しい。でも、

 本当の贈り先は君の「子」だ。

 その子にやがて訪れる少し背伸びをして難しい言葉を使いたくなるその時、本棚にずっと昔からあり存在感を主張するそれを、子供心に興味を持たないはずはない。

 ふふ、友よ。君はその時なんと言うだろうか?

 だから、君の手でその子に渡して欲しい。

 落としても、汚しても、破けてしまってもいい。その為に私が贈ったのだ。

 どんどんページを開いて、たくさんの沢山の「言葉」を見つけ触れてくれ!

 言葉にならない感情で苦しむなんて事がないように!

 君の言葉でみんなが笑顔になるように!


 私の実家にあった古い広辞苑の───もう緑とは言えない布張りの硬い表紙をめくった最初の一ページの言葉を懐かしく想い出す。

 そこには、こう記されているのだ。



「求めよ、さらば与えられん。

 尋ねよ、さらば見出さん。

 門を叩け、さらば開かれん」

 ───マタイによる福音書第7章7節




 君の人生にいっぱいの祝福を!!



「自己紹介」回の

届いた親バカ年賀状を読みながら、でした(笑)

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