表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/273

休息の日々

 ランドベルサの中心地区。そこはフリフォニア王国の貴族や有権者らが居を構える場所である。国を支える者が多く住まうこの地区は、許可がある者でなければ立ち入る事すら許されない。


 そんな中心地区を、少々速足(はやあし)で歩く少女がいた。周りの目が気になるのか、顔自体は正面を向いているものの、視線はあちこちに飛んでいる。


「何度も来てるはずなのに、全然慣れないわね……」


 愚痴を零しながら進む少女。その先に見えてきたのは一軒の家。その玄関まで進み、ドアノッカーを鳴らす。身分の高い者しか住まない中心地区に家があるということは、当然、そこに住むのも相当な身分の人物に違いない。


「はーい」


 だが、家の中から聞こえてきたのは女性の声。しかも、声音からしてまだ年端もいかない少女のものだ。恐らく、ドアの前にいる彼女とあまり年は離れていないだろう。


 そして、ガチャリと開いた扉の先には――。


「あ、いらっしゃいー」


 笑顔で出迎える恵菜の姿があった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 第四魔術師団団長ワストークの裏切りは、フリフォニア王国に大打撃を与えかねないものだった。強力な魔物を多数召喚し、国の王都であるランドベルサを奇襲させる計画。軍の半数が不在で防衛能力が半減している隙を狙って実行されたそれは、成功していれば王都を壊滅させ、国の要人を数多く失わせていたことだろう。最悪、国の存続が危ぶまれていたかもしれない。

 さらに、ワストークは王女であるエリステリアに呪いをかけ、解呪を条件に自らが即座に処刑されるのを避けようとした。もっとも、彼は自分ひとりだけ生き残りたかったわけではない。憎き国王が泣いて懇願し、この国が滅びゆく惨劇を目に焼き付けるために、ほんの少しの間だけ死を遅らせたかっただけだ。最後には王女もろとも自分の命は捨てるつもりだった。


 だが、その計画は一人の魔術師――恵菜によって防がれた。大精霊の水華と共に、ランドベルサに近づく魔物の大群を一掃。ワストークが取り押さえられる際に王女へ放った高度な呪いすらも一瞬で解いてしまった。

 結果として王都は無傷。ワストークの計画はフリフォニア王国にほとんどダメージを与えることなく終わることとなった。


 恵菜はその功績を称えられ、国王のルーガンスからは公爵の爵位と中心地区に住まう権利(家付き)を、ギルド長のシステシアからは白金の冒険者ランクを、それぞれ与えられた。だが、恵菜は別に活躍したかったわけではない。自らの本能でやったことが、結果的に国を救うという結果になっただけだ。

 そんな感じで意図せず貴族の仲間入りを果たし、公式に人外認定を受けることになってしまった恵菜。だが、幸いにも生活が劇的に変化することはなく、今でも旅は続けられている。


 そして、つい先日、恵菜はランドベルサに戻ってきた。ここ数日は貰った家でのんびりと羽を休めている。しかし、一人静かな時間というのは思ったより少ない。今も恵菜の家には、二人の客人が訪れていた。


「やっぱりこの家に来ると癒されるわぁ~……。中心地区になかったら居候したいぐらい」


「あ、分かる気がします。なんと言いますか、こう、全てから解放された感じがしますよね」


「そう、まさにそうなの! 普段から荒々しい冒険者生活してるせいかもしれないけど、こういったひと時ってすっごい新鮮で」


「言わば息抜きですよね。堅苦しい生活を忘れて、ゆっくりできます」


「さすがエリス、よく分かってるわね」


 だらーっとソファで横になって思いっきり(くつろ)ぎながらウンウンと頷くリアナと、きちんと座りながらもリラックス状態のエリス。対極的な生活を送るはずの彼女達だが、どこか共感するものがあるらしい。

 彼女達は恵菜が戻ってきている間、こうしてよく遊びに来る。最初は別々に訪れていたのだが、偶然にも二人が同時に訪ねてきたことがあり、それがきっかけで仲良くなっていった。最初こそぎこちない関係だった(エリスが気を使い過ぎ、リアナが慣れない敬語で話していた)ものの、今ではお互い親しくなり、気楽に話せるようになっている。


「お茶が入ったよー。って、リアナちゃんもエリスちゃんも、まるで自分の家にいるみたいだね……」


 三人分の紅茶とお菓子を持った恵菜が現れ、呆れるように笑う。だが、彼女達を責めている様子はない。


「リアナちゃんはいつも通りだけど、エリスちゃんがそんなのになってるのはちょっと意外だよ」


「ふっふっふ、いつもどこかしら堅いエリスに、適度に力を抜くよう教えた成果よ」


「リアナちゃんのせいだったんだ……。変なこと教えて国王様に怒られても知らないよ?」


「大丈夫よ。ねー、エリス?」


「はい。リアナちゃん曰く、『バレなきゃ大丈夫』ですから」


 どうやら既に手遅れだったようだ。二人の仲が良くなることは恵菜にとっても嬉しい限りだが、エリスがさらに変な知識を得てしまわないか心配にもなってくる。

 ちなみに、恵菜がリアナに「さん」ではなく「ちゃん」を付けるようになり、口調が砕けたものになったのは、リアナがエリスと会った時からだ。というのも、恵菜とエリスが仲良く話しているのを見て、自分もより親しくなりたいがために、リアナ自身が恵菜にそうするよう頼んだのである。恵菜もそれに快諾し、以来、ずっとこの話し方だ。


「それにしても、いつ見ても立派な家よね。ていうか、冒険者の拠点にしては立派すぎるぐらい」


「そうなのですか? 私はもっと広くても良いと思うのですが」


 全く意見が異なる両者。だが、リアナの意見もエリスの意見も、どちらも理解できるものだ。


 冒険者基準で考えれば、これほどの家に住んでいる者などまずいない。居住空間など冒険者にとっては、二どころか三、四の次。中には雨風さえ凌げれば馬小屋でも何でもいいという猛者もいるぐらいだ。そうでなくとも、自分の装備や食事にお金を使った方がいいという思考の者が多い。

 その一方、貴族からすれば、この家は少々手狭であると感じるだろう。彼らは自らの威厳を示すために、他者の目に触れるものには質の良さを追求する傾向にある。その傾向は住居にも濃く表れており、中心地区に建ち並ぶのは倍以上もある大きさの屋敷ばかり。間違いなく、この家はここで最小だろう。


 冒険者にとっては大きく、貴族にとっては小さく感じる恵菜の家。こうなってしまったのには理由がある。


「リアナちゃんの言う通り、私はもう少し質素な造りで良かったんだけど。ただ、国王様から拒否されちゃって」


 まず、中心地区に家を建てることになった際、恵菜は中心地区の外にある庶民達の家のような普通の家を望んだ。しかし、「国の救世主、ましてや公爵の住居がそれは駄目だろう」と、国王からは他の貴族達の家に引けを取らない住居を推奨された。そのまま話し合い、お互いが妥協点を探しあった結果、このような家になったというわけだ。

 ちなみに余談だが、この家、建築までに要した時間はなんと数日。屋敷ほど大きくないとはいえ、家が建つにしては早過ぎる。完成したときには、思わず恵菜も耐震強度は大丈夫なのかと不安になったぐらいだ。この世界の職人達の本気は恐ろしい。


「それでも、自分専用の拠点を持つっていいわねー。羨ましいわ」


「確かに家を持てたのは、結果的にいいことなんだけど。でも、貴族になって良い事ばっかりじゃなかったよ」


 そう言って、数か月前の過去を懐かしむ恵菜。


 図らずも貴族となった恵菜を待っていたのは、貴族として必要なスキルを身に着けるための特訓の日々だった。礼儀作法から歩き方まで、国の要人と会う機会の多い貴族が身に着けていて当然というものは多い。


 その中でも特に苦労したのはダンスである。叙任式の後にはパーティーが開かれ、そこでは交流を深めるためのダンスも行われる予定だった。そのため、絶対にそれまでに覚えておく必要があったのだが、知識も経験も全くない恵菜にそれは鬼門でしかなかった。

 腕の形やステップ、ターンのタイミングなど、頭に入ってはいるのだが、思うように体を動かせない。どれかを意識しすぎるあまり、バランスを崩して倒れてしまう。


 魔力で身体能力を向上させれば、ちょっと姿勢を崩した程度なら無理やり体勢を維持することは可能だっただろう。だが、一人ならまだしも、ダンスは二人で踊るものだ。共に踊る方にしてみれば、倒れそうで倒れないパートナーに気が気ではない。それに、元々の力もそこそこな恵菜が魔力強化などした場合、力加減を間違えれば相手が吹っ飛ぶ。いくらダンスといっても、人間が宙を舞うのはいただけない。

 結局、自力で踊れるようにならなければならず、パーティーまでの期間のうち、半分以上をダンスのみに費やした。その結果、何とか様になった動きをできるようにはなれた。それ以外のスキルもギリギリ習得が間に合い、叙任式とパーティーの両方とも無難に乗り切ることができたのだった。


「叙任式まで十日しかなくて。エリスちゃんがいなかったら、今頃どうなってたんだろう」


「私はエナちゃんのお手伝いをしただけですよ。あの短期間で全部を覚えられたのは、エナちゃん自身の力です」


「お手伝いどころか、最初から最後まで世話になってたと思うよ。ほんとにありがとう」


「いえいえ、どういたしまして」


 二人の会話から察しの通り、貴族のマナーを恵菜に教える講師となったのはエリスだ。なんでも、自分から恵菜に教えるのだと、国王に直訴(お願い)したらしい。

 恵菜としては、知り合いで良かったというのが第一の感想だった。鬼教官のような厳しい講師が呼ばれ、ちょっとしたことでどやされるのではないかと危惧していたからだ。


 だが、エリスから学び始めた初日、恵菜は自らの考えが間違いだったと悟った。


 何かを間違えれば事細かく指摘され、最初からやり直し。完璧にできるまでずっと繰り返す。どやされることはないものの、妥協を許さない姿勢はまさに鬼教官のそれだった。

 しかし、恵菜にとって最も辛いのは、エリスから向けられる視線だった。何度も同じ失敗をすると、まるで出来の悪い生徒を哀れむかのような目になるのだ。その瞬間においては講師と生徒であるのだが、一応、二人は友達でもある。あれは普段、友達である者がする目ではない。そして、友達であるがゆえに、精神的にくる。


 これならば、まだ鬼教官の方が良かったかもしれない。そう思う恵菜だが、エリスの優しさを無下にできるわけもなかった。結局、十日間、連日連夜に及ぶエリスとのマンツーマンの特訓を耐え続けた。


「へー、大変だったのね」


「うん。それでも、貴族になったからこそできた経験だと思うと、悪くはないかな」


 過去を懐かしみながら、紅茶のカップを手に取る恵菜。当時は辛かった思い出も、時間が過ぎれば良い思い出だ。失敗談も時間が過ぎれば笑い話にできるように。


「貴族、ねぇ……」


 と、今までの話を聞いていたリアナが何やら思案顔になる。しばらくそうしていたが、ふと何かを思いついたらしく、口を開いた。


「そういえば、エナって結婚はしないの?」


「っ!? ゲホッ! ゲホッ!」


 突拍子もなく飛び出してきた言葉に、カップに口を付けていた恵菜が盛大に(むせ)る。口に含んでいた紅茶はどうにか飲み込むことができたようで、周囲が紅茶まみれになるという大惨事は免れたが、原因となる発言をしたリアナも心配になるぐらい苦しそうだ。


「だ、大丈夫?」


「こ、紅茶が、気管に……突然、何言い出すの」


「ごめんごめん。ただ、エナって貴族になったんでしょ? だから、縁談もたくさん来てるんじゃないかなーって思って」


「あ、私も気になります! エナちゃん、どうなのですか?」


 リアナの疑問に、エリスも興味津々で乗っかってくる。恵菜は彼女らが何故そこまで聞きたがるのか疑問に思ったが、学校でコイバナをしてはしゃいでいた女子グループがいたことを思い出し、そんなものかと納得してしまう。


「き、来たことは来たけど、でも、たくさんって程じゃ……」


 認めながらも否定する恵菜。だが、それは真実半分、嘘半分だ。実際、正式に貴族となった恵菜のもとには、今までに様々な貴族からそういった申込みが来たことがある。だが、それは一つや二つどころではなかった。


流石リアナさん、躊躇いがない。


更新が遅れて申し訳ありませんでした。

色々と言うべきことがあるのは承知していますが、ここで長々書くのもあれなので、活動報告に自身の報告(?)を載せておきます。


これからも更新頑張っていきますので、今後もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ