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エリスの正体

「ん~、結構遊んだね」


 恵菜が空を見上げながら呟く。


 空の色は既に青から赤へと変化している。エリスと約束した時間までは残り僅かしかない。


「エリスちゃん、もうそろそろ時間だよ」


「そうですね。今から戻れば夜になる前に着くと思います」


 エリスに家へ戻る事に対して躊躇う素振りは見られない。「もう一日だけ」と駄々を捏ねようものなら、恵菜は引き摺ってでも送り届けていたところだったが、約束した事ははちゃんと守る子だった。


「それなら、これで街の散策はおしまいかな。家まで送るよ。ここから自分の家までの道のりって分かる?」


「はい。この大通りを街の中心に向かって歩いていけばいいだけです」


「思ったより簡単な道のりだね。じゃあ、行こっか」


 エリスの説明を聞くに、エリスの家はこの大通りに面しているか、もしくは近くにあるということになるだろうか。昨日の様な入り組んだ路地裏を行かなければならないとなれば、恵菜は完全にエリス頼みになるところだった。

 それに、路地裏は再び襲撃される危険性が高まる。人目の多い大通りならその心配も少ない。


 もっとも、万が一ということもあり得る。そのため、恵菜はエリスの横を歩いている間も注意を周囲に向けてはいたが、やはり襲撃されることはなかった。


「あの、エナちゃん……」


「ん?」


 大通りをしばらく歩いていると、エリスが話しかけてきた。


「変な事を尋ねるかもしれませんが……もしも私が普通の子ではないとしたら、エナちゃんはどう思いますか?」


「と、突然どうしたの?」


 突拍子もない事を訊かれた恵菜が戸惑う。


「あ、いえ、別に深い意味は無いのです! ……ただ、私がどういう人間なのか知っていくと、エナちゃんは今みたいに接してくれなくなるのかなと思っただけです」


「? つまり、エリスちゃんの隠れた内面を知っちゃった時に、私が友達をやめないか心配ってこと?」


「は、はい……」


 友達同士の付き合いを続けていくうちに、相手の意外な一面を知ることは何度もある。そういった時でも友達でいてくれるのか、エリスは心配なのだろう。


「ん~、程度によるけど、嫌う事はないと思うなぁ。実はこれから私を騙して命を取ろうと企んでます、とか言われたら分かんないけど……もしかして?」


「か、考えていませんよ!」


「それなら大丈夫かな。どんなに変だとしても、エリスちゃんがエリスちゃんのままなら、私は絶交しようとは思わないよ」


 そもそも、今の恵菜の周りには普通じゃない友達が多い。エリスが人間じゃないなどというカミングアウトをしたところで、驚きはしても友達をやめようとまでは思わない。ただし、害意がなければの話だが。


「むしろ、私はエリスちゃんが友達でいたくないと思わないかが心配だよ」


 何だかんだ、恵菜も普通の人間とは言い難い。本人は自分の事を普通の女の子だと思っているが、周りからの評価がそうなのだから仕方がない。

 その評価をエリスが知った時にどう思うか。友達をやめると言い出さないか。恵菜はそっちの方が不安だった。


「え? それはどういう……?」


「ふふふ~、秘密。まあ、友達でいれば、いずれバレる気もするけどね」


 恵菜とエリスはまだ友達になったばかりだ。その友情は厚いと言えず、小さな事でも簡単にひびが入り得る。

 幸いなことに、エリスの方も今は自分と友達でいたいと思っている。意外な一面を知る前に、お互い相手の人間性を知って友情を深めた方が良い。そういった理由から、不発の可能性があるとしても、恵菜はこの場で友情破壊爆弾発言をするのは控えた。


「とにかく、傷つけようとしてこない限り、私とエリスちゃんは友達だよ。今もこれからもね」


「……その言葉が聞けて、本当に良かったです」


 エリスの表情から暗さが消えていく。そこにはさっきまでの不安の色は一切なかった。


「これで安心した?」


「はい。突然、変な話をしてしまってごめんなさい」


「別にいいよ。で、一つエリスちゃんに確認したいんだけど」


 話の流れをぶった切るように、今度は恵菜がエリスに尋ねる。


「何でしょうか?」


「エリスちゃんの家、通り過ぎてない?」


 恵菜とエリスが今歩いているのは、既に大通りの終盤というところまで迫っていた。前方には、以前、恵菜が行くのを諦めた街の中心部への入口であるアーチが見える。


「いえ、通り過ぎていませんよ」


「でも、これより先って確か、貴族の人達が住んでる中心地区……」


「はい。私の家があるのは、その中心地区ですよ」


 当然のようにそう答えるエリス。それを聞いた恵菜の表情が段々と強張っていく。


「……ね、ねぇ、エリスちゃん? まさかとは思うけど、エリスちゃんって……貴族の人?」


「い、一応、そういったものです、かね?」


「ちょっ、流石にそれは前もって言ってよー!」


 衝撃の事実を知り、恵菜が抗議の声を上げる。貴族の子を親に無断で一日中連れて歩いていたなど大問題だ。いくらこの世界の事情に疎い恵菜であっても、それぐらいは簡単に想像できる。


「あ! さてはエリスちゃん、さっき言ってた普通の子じゃないと知ったらうんぬんって、この事だったんでしょ!?」


「ご、ごめんなさい! 言おうとは思ったのですが、どうしても最後の一歩を踏め出せなかったもので……」


 恵菜が怒っていると思ったのか、エリスが慌てて頭を下げる。貴族の子だというのに、エリスは何故か頭が低い。そういう性格なのだろうか。


「待って! ここで謝られると色々とマズイから!」


 中心地区への入口には兵士が立っている。恵菜達がいる場所からその姿が見えるということは、当然ながら兵士からも恵菜達が見えている。貴族の子に頭を下げさせている場面を見られれば、不敬な態度を取っていると勘違いされかねない。


「ですが、悪い事をしたのは私――」


「全然っ、悪くないよ! ちょっと驚いちゃっただけでエリスちゃんが身分を隠さないと駄目なことぐらい分かってるから! それに私達は友達なんだからこれぐらいのことでそんなに重く謝る必要なんかないよ!」


 これ以上状況をややこしくさせまいと、恵菜が早口で捲し立てる。


 何かあるとすぐ謝ってしまうエリスのことだ。このままにしておくと、この場で昨日みたいな土下座をしかねない。そんな所を発見されてしまえば確実にアウトだ。


「エナちゃんが言ってくれた通りですね」


 そんなあたふたとしている恵菜とは対称的に、エリスは何故か嬉しそうだった。


「? 何が?」


「私が普通の子じゃないって知っても、友達と言ってくれました」


 先程の答えを間違えてなくて本当に良かった。恵菜はそう思わずにはいられなかった。


「……当然だよ。エリスちゃんは悪意があったわけじゃないんだから。ただ言えなかっただけ。それなら友達のままだよ」


「エナちゃん、ありがとうございます」


「お礼を言われるような事じゃないよ。むしろ、その言葉はエリスちゃんをちゃんと家に送り届けてから聞かせてほしいな」


「そうですね……では、早くお礼を言うためにも行きましょうか」


 止めていた足を再び動かし始めた二人。

 その足取りは先程と何ら変わらなかった。


「そこの二人、止まりなさい」


「ここを通れるのは、身分が保証されている者、もしくは許可がある者だけとなっている。通りたければ、自らの名を名乗ることだ」


 恵菜とエリスがアーチへと近づいたところで、二人の兵士に引き留められる。しかも、女の子二人だけだからか、片方の態度は少々高圧的だ。


「ねえ、エリスちゃん。これ私が何か言ったところで通してくれると思う?」


「いえ、流石に駄目だと思いますよ……」


 ひそひそ声で恵菜がエリスに問うと、同じ様にエリスから答えが返ってくる。

 貴族どころかこの国の人間ですらない恵菜一人では、ほぼ間違いなくここを通れない。


「大丈夫です。ここは私に任せてください」


「何をこそこそと話している。言えぬのであれば――」


 二人が顔を寄せ合って相談している様子を見て、兵士が訝しそうな声を上げる。

 それを遮るように、エリスは変装用の眼鏡と帽子を取ってから口を開いた。


 そこから紡ぎだされた言葉は、その場にいる三人全員が予想していなかったものだった。


「フリフォニア王国第二王女、フリフォニア=エリステリアです。お城へ帰りたいので、ここを通してください」


「「なっ!?」」


「へ?」


 それを聞いた兵士の二人ともが驚きの声を、そして恵菜が呆けた声を上げる。


「お、王女様であらせられましたか! これはとんだご無礼をいたしました!」


「構いません。それで、通していただけるのでしょうか?」


「も、勿論でございます!」


 先程まで高圧的だった兵士は態度を一変させ、慌ててそこを退こうとする。自らの軽率な行為がどれ程マズイことだったのか理解したようだ。


「お待ちください、王女様」


 だが、道が開いて進もうとするエリスを、今度はもう一人の兵士が止める。


「一体、何故この様な場所に? 特にそのような話は伺っておりませんが」


 エリスが困ったような表情を浮かべる。昨日と今日で、エリスが家出のように抜け出してきたことは薄々察しがついている。一人で街にいたということは、コッソリと抜け出してきたのだろう。無断で街へと飛び出してきたのだから、話などいっているはずがない。


「え~、その、色々あったのです。何がどうとは言えませんが」


 エリスが物凄く曖昧な返答を返す。やはり、説明する勇気はないのか。


 しかし、その曖昧な返答が誤解を生む。


「さ、さては貴様が何かしたのだろう!?」


「は、はい?」


 突然、道を開けた方の兵士から指を突き付けられて、恵菜が目を点にする。先程から何かと早とちりしてしまっているこの兵士は、自分の欠点に気付いているのだろうか。


「いいえ、この方は関係ありません」


 恵菜に向いてしまった疑惑の目を逸らさせるために、エリスが間に割って入ってきた。


「王女様!? ですが――」


「私の言葉は信じられませんか?」


「い、いえ、決してそのようなことは……」


「それなら、信じていただけますよね?」


 微笑みながら問いかけるエリス。これが計算ずくなら末恐ろしいが、彼女は自然にそうしているだけだろう。


「は、はっ! 申し訳ありませんでした!」


 出過ぎた真似をした事を詫びながら、兵士が大きく後ろに下がる。


 すると、今度はもう一人の兵士が王女の前へと出てきた。


「王女様。ただ今王城に迎えを呼びに参りますので、ここでお待ちを――」


「迎えは必要ありません。帰り道は分かりますから」


「ですが、護衛も無しに王女様一人で歩くのは……」


「そ、その通りです! もしよろしければ我々がご一緒に――」


「あなた方はここでやらねばならない仕事があるはずです。私の事よりもそちらを優先してください」


 彼らの仕事は中心地区へ出入りする者をチェックすることだ。王女の護衛に就けば、見張りをする者がいなくなってしまう。それは防犯上よろしくない。


「中心地区ならあまり危険もないでしょう。何より、彼女もいることですから、問題はありません」


 チラッと恵菜の方を見ながらエリスが付け加える。本人としては兵士達を安心させたかったのだろう。これ以上変な事に巻き込まないでと心の中で祈っていた恵菜にとっては、エリスに裏切られた気持ちだろうが……


「先程からそちらの者を気にかけておられるようですが、その者は一体何者なのですか?」


「そうですね……私の護衛でもあり、恩人でもあり、そして友達でもあります」


「は? と、友達……?」


「はい。友達です」


 自信満々の王女様の答えを聞き、ポカンと口を開ける兵士。もはや何が何だか分からないといった様子だ。


「とにかく、信頼できる方なのです。それは私が保証します。ですから、安心してください」


「…………承知いたしました。それでは、どうぞお通りください」


 兵士達からすれば、恵菜のことは身元不明の不審人物にしか見えない。


 だが、この国の王女が信頼できると口にしたのだ。それ以上疑えるはずもなかった。

あれ、恵菜の友達の中で一番普通なのって……?

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