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慰め

「良かった。それじゃあ、よろしくお願いね。私はしばらく外に出ているから」


 自分がここにいると邪魔になると判断したのか、システシアが後を恵菜に任せて部屋から出て行く。間違ってはいないのだが、ギルド長室にギルド長以外の人物だけしか残っていないというのは違和感がある。まるで校長室に校長が不在で、生徒だけが残っている感じに近い。といっても、恵菜はそんな状況を経験したことはないので実際どのような感じなのかは不明だ。


 託された使命を果たすため、恵菜が恐る恐るリアナに近づく。そのリアナはといえば、システシアが出て行った扉を凝視し続けており、恵菜が視界に入っても気づかない。


「リ、リアナさん~? 大丈夫ですか~……」


 友達だから大丈夫だとは思っていても、先程の様子から考えれば、近づいて来る者全てを拒絶しないとも限らない。

 信じて手を差し伸べたら噛まれましたなどという事になれば、友情にヒビが入るとまではいかなくとも、しばらく立ち直れなくなるだろう。恵菜は手を伸ばしてもギリギリ届かないような距離を維持しつつ、リアナに声をかける。


「ぁ……ェ、ナ……?」


 声をかけられたことで、リアナの意識がやっと扉から恵菜の方へと向く。最初こそ警戒するような目をしていたが、目の前にいるのがシステシアでないと分かって、それも薄れていく。


「そうですよ~。あぁ、良かった。ちゃんと私が誰か分かっ――」


 これなら攻撃される心配はない。そう思って恵菜はホッとするが――


「エ゛ナ゛あああああ」


「えぇっ!? ちょっ、リアナさ――ぐぇ」


 突然、リアナが恵菜のことを大声で呼びながら飛び掛かってくる。完全に気を抜いていたせいで、恵菜はそれを避けることが出来ない。そのままタックルを食らい、女の子らしからぬ呻き声を出しながら盛大に仰向けに倒れ込んだ。


「痛ったたぁ……もう少し距離を取っておけばよか……あれ?」


 恵菜が起き上がろうとするが、思うように体を起こせない。何故か体の下側に重みを感じるのだ。

 恵菜は一先ず上半身だけを起こし、状況がどうなっているのか確認する。


「うぅ~~~……」


 そんな恵菜の目に入ってきたのは、自分の体に抱きつくリアナの姿だった。号泣しながら恵菜の体に顔を(うず)めている。


「あ、あの、リアナさん? 本当に大丈夫ですか?」


「だいじょうぶ……だげど、もうずごじ、ごのままで……」


「…………」


 全然大丈夫じゃなさそうだった。どうやら、リアナの心にできた傷は想像していたよりも大きいらしい。

 システシアという恐怖の対象がいなくなったことで緊張がなくなったのか、彼女からは堰を切ったかのように感情が溢れて出ていた。


(重傷だなぁ……そういえば、あの時もこんな感じだったっけ)


 恵菜は日本でまだ学校に通っていた時にも同じ様な状況を経験していた。少しシチュエーションは異なるが、告白に失敗した友達が今のリアナと似たような状態になっていた。

 その時の経験上、こういう時は相手がすぐに立ち直らないことも、変に声をかけるよりは黙ってそのままにしておく方が良いことも分かっている。あの時も一人で根気強く友達を慰めていたものだ。


 しかし、一歳差とはいえリアナの方が年上である。何故、年下の自分が慰める側なのか。恵菜としては立場が逆な気がしてならない。


(まあ、いっか。とりあえず、しばらくはこのままかなぁ)


 早期解決を諦めた恵菜は、そっとリアナを抱き返して頭を撫で始める。

 それはリアナが落ち着くまでの間、ずっと続いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁ? 指名依頼? さては、またランドベルサ周辺の探索を頼む気ね」


 リアナがうんざりした表情になる。

 恵菜が辛抱強く頑張った甲斐もあって、リアナにはいつも通りの気の強さが戻ってきていた。


「いいえ。今回の依頼内容は、レッサードラゴンの討伐よ。依頼主もギルドじゃないわ」


「え、何でこの時期なの? ガーゴイルの件って解決した?」


 あの事件の原因究明にはギルドも大きく関わっており、冒険者にもギルドが調査のための指名依頼を出していた。

 リアナ――正確にはケインスのパーティもその冒険者の一部である。今まで何度か周辺を見回ったことがあったため、今回の指名依頼もそれかと思っていたのだが、予想外の依頼内容に軽く驚いている。


「なんでも街中のお店でレッサードラゴンの素材が在庫切れ、もしくはそれに近い状態なんですって。このままだと街の経済に悪影響が出るから、数頭狩ってきてほしいみたいよ。ガーゴイルの問題は早く解決したいところではあるけど、こっちもそれなりに重要な問題なの。だけど、解決の糸口すら掴めていないガーゴイルと違って、こっちの解決方法は単純明快。リアナちゃん達なら簡単に解決できるわ」


 ドラゴンの素材というのは、他の魔物に比べて需要が高い。頑丈な部位は冒険者向けの武器や防具に、魔力を多く含む部位は万人向けの薬の材料となるからである。


 レッサードラゴンは下位のドラゴンとされているが、それはあくまでドラゴンの中での話だ。腐ってもドラゴンであることに変わりなく、どの部分も使い道の多い素材となる。それどころか、金ランクの冒険者ですら全く歯が立たず、出回る事すらほとんどない上位のドラゴンの素材よりも、討伐が比較的容易なレッサードラゴンの素材は、ドラゴンの物としてはお手軽な素材として人気が高い。


「そういったことなら、確かにさっさと解決したくなるわね。で、何で私達なの?」


「それについては依頼主も詳しく話さなかったわ。けど、商会の人間だったから、前の護衛依頼でリアナちゃん達の実力を見て、「この人達なら頼める」って思ったとかじゃないかしら」


「実力を評価してくれるのは嬉しいけど……私達が街にいない間、調査はどうするのよ?」


 ランドベルサからレッサードラゴンが生息する地域までは、片道だけで最低五日はかかる。

 現在の状況下で、実力的にランドベルサ周辺の調査ができる冒険者は限られている。金ランクの冒険者パーティが十日以上もいないのは問題なのではないか。リアナはそう思っているのだ。


 しかし、システシアは「大丈夫」と言って首を横に振る。


「その辺は問題ないわ。だって、エナちゃんがいるじゃない」


「わ、私ですか?」


 突然、自分の名前が出てきたことに恵菜が驚く。システシアとリアナの会話は恵菜にほとんど関係の無いものであったため、邪魔にならぬよう空気となることに徹していた。そのため、自分に飛び火するとは微塵も思っていなかったのだ。


 ちなみに、恵菜がここに呼ばれた原因――依頼受注禁止令の発令は既に済んでいるため、彼女がここにもういる必要はない。にもかかわらず、恵菜が未だにここにいる理由は、単純にリアナの発狂防止である。


 リアナが落ち着きを取り戻した後、システシアが話をしようと戻ってきたのだが、その姿を見た瞬間、リアナがガタガタと震えだしてしまった。

 もし、システシアとリアナの二人を残して恵菜が帰ってしまうと、またリアナが落ち着かなくなってしまう可能性が高い。それ故に恵菜は帰ることが出来ず、今も彼女の腕はリアナに抱きしめられている。


「そう言われればそうね」


「いやいやいや、何でそんな簡単に納得できるんですか」


「え? だって、エナだし」


「その理屈はおかしいと思うんですけど」


 当たり前だろうと言わんばかりの表情で答えたリアナに対して恵菜がツッコむ。だが、リアナの言う通り、恵菜の実力があれば街の周辺調査程度なら充分可能であった。


「そもそも、私はまだ銅ランクですから、そんな依頼受けられ――」


「あら、それは大丈夫よ。ギルドから冒険者に直接指名依頼を出す時は、ランクじゃなくて今までの実績や信頼で判断するもの」


 指名依頼は、その依頼主がギルドかそうでないかによって少し制度が異なる。


 ギルド以外が依頼主の場合、一旦その依頼を受けるに相応しいランクをギルド側が見積もり、そのランク以上の冒険者を依頼主が指名する決まりとなっている。これは依頼主が明らかに実力不足の冒険者を指名するのを防ぐためだ。過去に気に入らない冒険者の評価を下げようと、何度も難しい依頼をその冒険者に指名するという事件があって以来、この制度ができた。


 その一方で、ギルドが依頼主の場合は、ギルドが相応しいと判断する冒険者を直接指名する。冒険者の管理を行うギルドは冒険者の実力を一番知っている存在であり、正確な判断を下すことが出来るからだ。そのため、依頼達成に必要な実力が充分あると判断されれば、ランクが低くても指名される可能性がある。もっとも、大抵の冒険者には実力に見合ったランクが与えられているため、そういった事例は少ない。


「ガーゴイルに襲われた時、エナちゃん一人で大群を無力化したのでしょう? それぐらいの実力があるのなら、ギルドが指名するには充分よ」


「そうよ。あたしでも出来た依頼なんだし、あたしより強いエナが出来ないわけないじゃない」


「えぇー……」


 ギルド長から認められ、自分のことを信じて疑わない眼差しを友人から向けられたとなれば、恵菜も流石に断りづらい。しかし、納得できるようでできない理屈が相まって、恵菜は言葉が出てこなかった。


「エナに任せられるって分かったなら、そっちの依頼を受けるのに心配はいらなさそうね」


「それじゃあ、受けてもらえるのかしら?」


「いや、一旦保留。あたし達のパーティって今お金ないし、多分受けるとは思うけど、やっぱり全員に相談してみないと分からないわ。あたし一人で決めると、後でクレリアに怒られちゃうし。いい?」


「構わないわよ。ただ、依頼主側も急いでいるようだから、受ける受けないの返事は今日中に、受けるのなら明日までに出発できるようにしてね?」


「分かったわ」


 リアナとシステシアの間でサクサクと話が進む。恵菜がキッパリと拒絶してこない様子を肯定と捉えたのだろう。もはや彼女たちの間では、リアナ達が不在の間、恵菜に周辺の調査を任せられるものとなっていた。


「……ちなみに、その指名依頼が出るのは――「当然、三日後以降よ」――ですよね」


 もしかすると今すぐ依頼を受けて街の外へ行けるのではないか。期待した恵菜がシステシアに尋ねるが、返ってきたのは夢も希望もない無慈悲な宣告。やはりそう都合良くはいかないものである。


 結局、恵菜は後日、ギルドから指名依頼で街の周辺調査を任されることに決まった。また、リアナもケインスらパーティ仲間との相談の結果、レッサードラゴンの討伐依頼を受けることに決め、その日の午後には街を出発したのだった。


新しい依頼を受けられるようになった(ただし三日後)と思えば、そう悲観することでも……

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