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進行する計画

 ギルドに賑やかさは付き物である。


 朝は多くの冒険者が仕事を求めてやって来て、昼から夕方にかけては依頼を達成した冒険者が戻ってくる。さらに夕方以降は、仕事を終えた冒険者がギルド内で依頼の達成を祝って飲み食いする。それがギルドの日常であり、良くも悪くも毎日が賑やかだ。

 だが、いくらギルドが騒がしいとはいっても、それがいつまでも続くわけではない。今の時間帯は夜が完全に明けるよりも前であり、冒険者がやってくる時間帯のピークよりも早い。そのため、ギルドの中に冒険者はほとんどおらず、とても静かだった。


「おーい! ギルド長さんよー! いるかー!?」


 そんな朝早くから、野太い大きな声が響くギルドの受付に響く。朝の静かな空気をぶち壊す声の主――第一騎士団団長のステンに、批難がましい視線がいくつか向けられるが、本人は全然気にしていないようだ。


「朝早くから騒がしい団長様ね」


 ギルド全体に響き渡る様な大声を聞きつけてギルド長のシステシアがやってくる。そのシステシアの目にも、どことなくステンを批難する色が見える。


「大声の方があんたの部屋まで聞こえるだろ?」


「部屋まで声が届いても、私の耳に入るとは限らないわよ? 外に出ているかもしれないんだから。これからは近くの職員に声をかけることをお勧めするわ」


「あー……分かった、今度から気を付ける」


 システシアから注意を受けたステンが頭を掻きながら目を逸らす。分かったと口では言っているが、その彼の仕草は注意を受けても直らない冒険者がよくやるものだ。その場で反省はするが、数日後に忘れてしまう。


 恐らく今後も似たような事をしでかすだろう。システシアもそう思ったらしく、軽くため息を吐いている。


「で、ギルドに来たってことは……」


「ああ、ガーゴイルの件についてだ」


「それなら私の部屋で話を聞くわ」


 自分の部屋へと戻っていくシステシアの後を追うように、ステンもギルド長室へと向かう。部屋に入ってすぐ「どうぞ」と促されたステンは、備え付けられたソファにドカッと腰掛けた。


「それじゃ、早速だけど報告を聞かせていただけるかしら。団長様?」


「だから、団長様はやめろって言ってんだろ。ったく……」


 ステンが不満そうに顔を顰める。団長様と呼ばれることにこそばゆさを感じているのかもしれない。

 しかし、既にシステシアの頭の中ではステンの呼び名が団長様に固定化されている。それに、先程の大声の件も考えると、彼女の呼び方は簡単には変わりそうになかった。


「とりあえず結論から言うと、聞いた通りの場所にわんさかガーゴイルがいやがった。討伐隊が近づいたところで襲い掛かってきやがったが、こっちの戦力が過剰だったみたいでよ。思ったよりも早く殲滅できちまった。そんなわけで、予定よりも早く王都へ帰還してきたってとこだ」


 淡々とガーゴイルの討伐がどうだったかを語るステン。その報告を聞いていたシステシアの眉が僅かに動く。


「殲滅したの? ケインス君の報告だと、ガーゴイルは倒しても倒しても湧いてくるって言ってたけど?」


「そのことなんだが、その情報と違って新しく湧いてくるガーゴイルはいなかったぞ」


 新たなガーゴイルが出現しなかった。


 その予想外な報告を聞き、システシアの目が先程に比べて大きく見開かれる。


「本当に?」


「おいおい、疑ってんのかよ」


「だって、団長様が出現を見逃していただけってことも考えられるじゃない? 討伐隊が発見した時は、その場に大量のガーゴイルがいたんでしょう? ガーゴイルで視界が遮られて見えなくなっている場所もあるはずよ」


「やっぱり疑ってんじゃねえか……でもまぁ、たしかにガーゴイルが出現する瞬間を俺が見ていなかったって可能性はある。もしかすると、俺が知らねえ間にその辺でちらほら湧いてたかもしれん。それでも結局殲滅できたってことは、今は新しいガーゴイルが湧いてきてねえってことだろ? つまりはそういうこった」


 過程がどうであれ、殲滅できたという結果は、新たに出現するガーゴイルがいないということを意味している。ステンの報告が間違っているというのであれば話は別だが、討伐隊に同行した冒険者に(たず)ねれば、真実かどうかは分かることである。それに、嘘を吐く理由もなければ、フリフォニアを護る騎士団の団長ともあろう人物が国に損となる嘘を吐くはずがない。


「……そう言われると、確かにその通りね」


 得られた情報を整理していたシステシアも即座にその判断に行きつき、一先ずはガーゴイルがいなくなったことに安堵する。だが、それとは対照的に、表情は険しいままだった。


「殲滅できたのは嬉しい事だけど、かといって安全だと判断するのもまだ早いのよね。そういえば、ガーゴイルが大量発生した原因について何か分かったことはないの?」


「いや、サッパリだ。一応、現場に兵士を残らせて調査させてはいるが、これといった手掛かりは見つかってねえ」


 魔物が大量発生することは何も珍しい事ではないが、その地に生息していないはずの魔物が突如目の前に現れることなど、普通には決して起こり得ない。必ず何らかの原因があるはずなのだ。その原因が分からないことには、最適な対応策を用意することはできない。


「原因が分かるまで待ちたいところだけど、その間にも何らかの対処は必要よね……」


「まぁな。いつどこでガーゴイルが発生してもおかしくねえからな」


「軍はこれからどうするの?」


「とにかく一般人に危険が及ぶのだけは避けなきゃいけねえ。だから、とりあえずは街の周辺の監視を強化させるつもりだ。具体的には、何人かの兵士を組ませて街の外側の警戒に当たらせる。夜は兵士も危ねえから、朝から夕方にかけての間だけだがな」


 ステンの判断は間違っていない。薄暗い場所に生息するガーゴイルは夜目が効くため、近づけば暗くても襲ってくる。視界が悪い夜中に大群で襲われたとなれば実力者であっても相当危ない。安全を守るための行動が危険に繋がるのは避けなければならない。


「お前さんのところは何か考えてるのか?」


「たった今報告を聞いたばかりだから、具体的に何をするかはまだ言えないけど、こっちも何らかの対処はする予定よ」


「そうか、冒険者に関してはそっちの方が専門家だから任せるぜ」


 他国が戦争を仕掛けてきたなどといった非常事態であれば、軍もギルドに対して何らかの指示を出すことはできる。だが、今回は非常事態と呼べるほどの事ではない。それに、冒険者について一番知っているのはギルドなのだから、そちらに任せてしまった方が軍の負担も少なく、指示も的確なものになるだろう。


「ところで、一般人のことは軍の方に全部任せてもらって構わねえから、ギルドにもガーゴイルが発生した原因を見つける手伝いをしちゃあくれねえか? 見回りのことも考えると兵士だけじゃ人数不足でな。依頼に関してはそっちで自由に決めていいし、報酬も請求してくれて構わねえ。頼めるか?」


「引き受けても良いけど、原因が見つかるかは保障できないわよ?」


「それでもいい。何もしないよりはマシだ。ああ、それと、いざって時は冒険者も頼りてぇから、あまり酷使し過ぎんなよ?」


「するわけないでしょう。軍の仕事に一般人を護るのが含まれるように、ギルドは冒険者を護ることも仕事なのよ」


「それなら安心だな。よっしゃ、俺は戻って兵士の編成でもしてくるぜ」


 報告と今後の方針を話し終えたところで、ステンが立ち上がり扉から出て行く。


「さてと、とりあえず具体的に何をするか決めないといけないわね」


 それを見送ったシステシアも、すぐに自分の机へと移動して紙と羽ペンを取り出す。そして、そのまま迷うことなく紙の上に羽ペンを走らせ、いくつもの書類を作成し始めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ――同時刻。


 とある場所の一室に灯りがともっていた。整理整頓が成された部屋の中には、そこそこ質の良いいくつかの調度品が置かれている。


 その部屋で一人の人物が深く椅子に腰かけながら、手元にある紙の束に書かれた内容に目を通していた。


「やれやれ、予定通りに事が進めば良かったが、やはり不測の事態というのは起きるものだな」


 その人物が手に持つ紙に書かれているのは、先日起きた謎の現象――ガーゴイルの大量発生とそれに巻き込まれた商隊に関する報告だった。それはギルドからの情報や当事者からの話を基に作られたもので、商隊の被害状況や護衛に参加していた冒険者の名前とランク、それに簡単な当時の状況説明も含まれている。


「まさか金ランクの冒険者パーティが護衛をしているとはな。ガーゴイル程度じゃ話にならないのも無理はないが……それにしても被害がほとんど出ないとは、かなりの実力者ということか」


 自分の思い描いていたものと異なる結果に落胆するようにそう呟く。だが、それとは裏腹に、その表情には無理やり作ったような笑みが浮かんでいる。


「まあ、作戦自体は失敗だったが、当初の目的通りにアレの動作確認はできたのだから良しとしよう。アレが見つかる可能性もあるが、それはそれで攪乱(かくらん)になる」


 自分に言い聞かせるようにしながら満足そうに頷く。しばらくそのようにずっと独り言を呟いていたが、ふと表情が少し曇る。


「しかし、金ランクの冒険者か……報告書には銅ランクの冒険者も奮闘したと書いてあるが、それよりも一番厄介なのはやはりこの金ランクだな。これからの事を考えると、この冒険者が近くにいてもらっては困るな」


 銅ランクの冒険者の力など高が知れている。奮闘したといっても、所詮金ランクの冒険者の補助をしていただけだろう。


 そう決めつけたその人物の頭の中は、金ランクの冒険者をどうするかで埋め尽くされていた。


「次の作戦は、次の作戦だけは失敗できない……私の長年の悲願を、失敗で終わらせてなるものか……!」


 そのためには、不測の事態など万に一つも起こらないように計画を練り上げなければならない。そう判断したその人物は拳を握りしめながら、作戦の成功に必要な事――自分がこれからやらなければならない事を考え始めた。


一騒動起きそうな予感。

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