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今後の行動

「えー、それでは報酬をお渡しするので、護衛依頼を達成された冒険者の皆さんはこちらへお願いします」


 ギルド長から指示を受けた職員が即座に冒険者に呼びかけ、全員をカウンターの方へと誘導する。ガーゴイルの件に関する説明をケインスが引き受けることになり、報酬が貰えるようになった今、彼らが騒ぐ理由のほとんどがなくなったため、大人しく誘導に従って報酬を受け取っていく。


「ねぇ、これってあたし達は報酬貰ったら帰っていいってこと?」


 リアナが確認するようにクレリアへと尋ねる。


 ケインスはガーゴイルの説明のためにギルドへしばらく残ることになるだろう。普段ならばここでリアナ達もケインスを待つことになるのだが、今回は全員がかなり疲れている。それにケインスも早く休めというような発言をしていたのだから、ギルドの職員に伝言を残しておけばギルドから出て行っても問題はないはずだ。


「そうだと思いますよ。ケインスさんは説明でしばらく下りてこないでしょうし」


「よし。帰って寝るわ」


「いや、寝る前に飯と酒だ」


「ああ、お腹も空いたしそれもアリね」


「……確かに、食事も休息にはなりますけれども」


 ガンザの提案にリアナが乗る。呆れながらもクレリアはそれを止めようとしない。全員が疲れているのは事実であり、睡眠も食事も疲労回復に繋がるからだろう。もっとも、ガンザは単純に自らの欲求を満たしたいだけのようにも見えるが……


「お、何だ。あんたらもこれからどっか飲みに行くのか?」


「丁度良いじゃん。それならもういっその事、ここにいる奴ら全員で一緒にパァーっと飲み食いしないか? 依頼の達成と生きて戻ってこられた記念だ」


 そこに同じ依頼を受けていた冒険者達がやってくる。このままどこかへ行って宴会じみたことをするつもりのようだ。


「おお、いいなそれ! 俺達も行くぞ!」


 この中で一番お酒が好きそうなガンザが冒険者達の誘いに飛びつく。

 だが、ケインス達のパーティが今回の依頼を受けた目的は、何かをする前に終わってしまったフェンリル討伐に掛かった費用を稼ぐ事だったはずである。その報酬を早速お祝いに使うのはどうなのだろうか。


「エナも一緒に行くわよね?」


「え? わ、私も行くんですか?」


「おいおい、功労者がいなくてどうするってんだ。なぁ?」


「おうよ! それに、道中じゃ一杯奢るって言ったしな」


 自分も誘われると思っていなかった恵菜。思わず聞きかえしてしまうが、リアナだけでなく周りの冒険者達も恵菜が参加して当たり前だと思っているようだ。


「というわけで、エナちゃんは参加決定だな」


「は、はぁ……」


 そして、恵菜が意思表示をする前に参加が決まった。もはや断れる雰囲気でもなかったため、恵菜は報酬を受け取ってから向かう事を告げる。


「よっしゃあ! それじゃあ俺とリアナは先に行ってるぜ!」


「クレリア、報酬の受取りは任せたわ」


 ガンザとリアナ、それにその他の冒険者がゾロゾロとギルドを出て行き、クレリアと恵菜はその場に取り残される。


「……よく巻き込まれますね、エナさん」


「……言わないでください」


 クレリアの言葉を聞いて、自分の巻き込まれ体質を再認識する恵菜だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 冒険者達が報酬を貰ってギルドを出て行った頃、ケインスはギルド長室で自分が体験した事のあらましを説明していた。


「――以上が俺達と商隊が襲われた内容だ」


 ケインスの説明が終わり、今まで黙って聞いていたステンが眉を顰めながら口を開く。


「ガーゴイルがそんな場所に出てきただと? とても信じられる内容じゃねえが……」


 ステンがそう思うのも当然のことだ。ガーゴイルが生息するはずのない場所にガーゴイルの群れが突然現れたと説明されたところで、たちの悪い冗談としか思えない。この報告が信用しにくい人物によるものだったのならばステンも即座に聞き捨てていただろう。だが、報告したのが金ランクの冒険者とあればそうもいかない。


「かといって、このまま無視できる内容でもないでしょう、団長様?」


「確かにな。このまま放っておいて道が使えなくなるのは、国にとっても人にとっても悪影響だ。それに、いつ死人が出てもおかしくねえ。早いとこ対処しておかねえとマズイわな」


 道の一つが通れなくなるだけで、街と街の行き来は非常に不便になる。そんな状況が続けば、人や物の流れが滞って国の経済に影響が出かねない。国に仕える軍としては、今回の事件は早急に解決すべき問題である。


「だが、話を聞く限りじゃガーゴイルの出現があまりにも不自然過ぎる。軍を街の外へ誘き出す罠かもしれん。それ程多くの兵士を向かわせるのは避けたいところだ。でもって、ギルドにも力を借りてぇところなんだが、どうだ?」


「もちろん協力させてもらうわよ。ウチの冒険者が持ち込んできたものを、ギルドが無視するわけにはいかないわ」


「それなら、今この場で軍からギルドに対する緊急の依頼を要請する。内容は南に出現したガーゴイルの討伐、出発は日の出前だ。人数は多い程良いが、依頼のランクは銀二以上で頼む。報酬はギルドの方で適正だと思う額を要求してくれて構わねえ。見積もれたら教え――」


「その内容だと、これぐらいかしら」


 ステンが言い終わる前に、システシアが一つの紙を渡す。その紙には単純な総額だけでなく、いくつもの詳細が書かれていた。ここまでの明細をこの一瞬で出せるとは、恐るべき能力の高さである。


「どれどれ……ふぅむ、ちょっとばかし高い気もするが、まぁ妥当の範囲内ってとこだな」


「ウチのギルドにも優秀な人材はいるけど、それでも今回のは下手すると命を落としかねない危険な依頼よ。団長様が言っていたように、街から誘き出したところで殲滅してくる罠かもしれない。少しの上乗せは許してほしいわ」


「それもそうだ。よし、さっきの内容とこの報酬で依頼を出しといてくれ!」


「ええ。確かに承ったわ」


「俺も至急軍に戻って討伐隊を編成してこなけりゃならんからな。悪いがこれで失礼するぜ」


「こっちも期待に応えられるようにはするから、団長様も頑張ってね」


 システシアの言葉に、ギルド長室の扉へと向かっていたステンの足が止まる。振り向いた顔には苦笑いが浮かんでいた。


「その団長様って言うのはやめてくれよな」


「あら、だって役職的にも身分的にも、団長様の方が上じゃない? 様ぐらいつけないと恐れ多いわ」


「はっはっは! それにしちゃあ結構気楽に話してる気がするぜ?」


 演技の様な仕草をするシステシアに、ステンがにやりと口の端をつり上げる。そのまま「食えねえギルド長様だ」と言い残して部屋を出て行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後ろ姿を見ていたシステシアは、扉が閉まると同時に一枚の依頼書を取り出し、さらさらと内容を埋め始めた。


「……それで、ケインス君。一つ訊きたいこと、というより説明が不十分だったところがあるんだけど、あなた達はどうやってガーゴイルの群れから逃げてきたの?」


「どうって、普通に走って逃げてきたんだが」


「普通に走って、ねぇ……あなたのパーティならともかく、他の冒険者がただ走っただけじゃ、空も飛べるガーゴイルから逃げられると思えないのだけど?」


 システシアは先の一階での騒ぎにおいて、護衛依頼を受けていた冒険者の大まかな実力を見抜いている。下手な誤魔化しは一切通じないだろう。ケインスもそれを察して、諦めたように真実を話す。


「……魔法だ」


「魔法?」


「ああ。俺達が逃げている間に追ってこられないよう、魔法を使ってガーゴイルを足止めしたんだ」


「その魔法は誰が? 実力から考えてリアナちゃんかクレリアちゃん?」


「いや、俺達のパーティじゃない。エナという名前の冒険者だ」


 名前を聞いたシステシアの手が止まり、少し考える様な仕草を見せる。恐らく、頭の中にある記憶という名の辞書からそれらしい人物を探しているのだろう。しかし、恵菜は今日初めてランドベルサに来たのだ。流石のシステシアも恵菜のことを知っているはずがない。


「エナ……聞いたことの無い名前だけど、もしかしてさっき下にいた黒髪の女の子?」


 しかし、何故かシステシアは一発で恵菜の容姿を当ててみせた。これにはケインスも思わず驚きの表情を浮かべる。


「ああ。でも、どうして分かったんだ?」


「名前が女の子っぽいというのもあったけど、さっき私が騒ぎを治めようとした時に、あなた達とその子だけが平然としてたからかしら」


 平然と言ってのけるシステシア。あれだけ多くいた冒険者の中から一人一人の様子にまで目を光らせていたとは、素晴らしい観察力である。


「……あの子が魔法を使った瞬間、ガーゴイルの多くが地面に倒れ伏していた。リアナとクレリアが言うには闇属性のグラビティだということらしいが、正直に言って、俺はあんな広範囲且つ高威力の魔法を見たことがない。ここにリアナがいないから言えることだが、たぶんリアナよりも魔法の威力は上だ」


 ケインスの口から出たリアナより上だという評価を聞き、システシアの表情が少し驚きに染まる。しかし、その表情もすぐ元通りになり、今まで止めていた手を動かして羽ペンを紙の上で走らせる。


「なるほど、それなら逃げてこられるのも納得ね。報告感謝するわ。聞くことは以上だけど、下へ行くついでに、書き上がったこれをカウンターにいる職員へ渡してくれるかしら?」


「分かった。それじゃあ俺もこれで失礼する」


 ケインスが依頼書を受け取り、ステンが出て行ったのと同じ扉から出て行く。それを確認したシステシアは椅子に深く腰かけ、上半身を背もたれに預けた。


「リアナちゃんよりも上の魔術師かぁ……どれぐらいの有望株か、ちょっと興味が湧いてきたわね」


 優秀な冒険者はギルドの財産である。そんな冒険者がランドベルサへとやって来た事に対する喜びと、自分の知らない実力者へと興味に、システシアは頬を綻ばせていた。


リアナとガンザ、実は仲が良いのでは?

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