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魔法の可能性

「ところでよ、魔法で馬車の脱出っていっても一体どうやるんだ?」


 冒険者の一人が恵菜に魔法の事を尋ねる。自分達が何をしても脱出させることができなかった馬車を、恵菜がどのように魔法で脱出させるのか気になってしょうがないのだろう。


「土属性の魔法を使って、馬車を道の上まで上げます」


「そんな便利な魔法があるのか!?」


「いえ、元からそういう魔法があるわけじゃありません。使うのはロックウォールです」


 土属性の魔法に、そんな便利な魔法があるのかと驚く冒険者。しかし、恵菜の口から出てきたのは冒険者も聞いたことがある魔法の名前だった。


「ロックウォールって、あれだろ? あの壁で攻撃を防ぐ……」


「はい、その通りです」


 目をパチパチと瞬かせながらも確認する冒険者だったが、どうやら想像通りの魔法だったらしく、恵菜も肯定する。


 ロックウォールは土属性の中級魔法で、大抵の部分は一ランク下のアースウォールと同じである。違うところは、土の壁が岩の壁に変わったところであり、当然のことながら耐久性もロックウォールの方が高い。


「でもよ、ロックウォールでどうやって馬車を脱出させんだ? あれって確か、防御に使えるぐらいだろ?」


「それは実際に見てもらった方がいいと思います。ちょっと説明すると長そうなので」


 一応、最後尾の戦闘はまだどうにかなっているので、一分一秒を争う程時間が切羽詰まっているというわけではない。だが、より早く馬車を脱出させることで、戦闘の負担を減らすことはできる。冒険者もそれを察してか、それ以上恵菜に質問をすることはなかった。


(泥沼の大きさと深さから考えて、馬車を安全に上げるには……)


 泥沼の状態を観察し終わった恵菜は、次に馬車を無事脱出させるために、魔法を改変するイメージを構築していく。


(それに、この馬車だけじゃなくて後ろの馬車の事も考えると――)


 他の冒険者のためにも、早く馬車を脱出させて商隊を動けるようにしたいのは山々だが、今から恵菜が使うロックウォールはいつも以上にイメージに工夫が必要である。もし焦るあまり集中を乱してしまえば、魔法に失敗してしまう可能性もある。成功させると宣言した以上、失敗という結果に繋がる要因は少しでも排除しなければならない。


 徐々にイメージを固めていく恵菜。そして、ついにイメージ全体が固まる。


「……うん。皆さん、一応離れててください」


 恵菜は再度冒険者や商人へと注意を促し、一度深呼吸を挟む。そして、必要な魔力を操りながら、恵菜は魔法を唱える。


「――いきます。『ロックウォール』」


 宣告していた通り、恵菜が唱えたのはロックウォールの魔法。通常のロックウォールであれば、魔法を発動した瞬間、地面から岩の壁が一気に伸びてくるはずである。

 だが、恵菜が魔法を発動しても、壁が出現するのはおろか、目に見える程の劇的な変化は何も起きなかった。


「……何も起きねぇぞ?」


「ど、どうなってんだ?」


 周囲から上がる戸惑いの声。しかし、恵菜はそれらに一切反応せず、泥沼の方を見つめ続けている。


「お、おいあんた、もしかして失敗したんじゃ――」


「お願いします、ちょっと、静かに」


 恵菜の魔法が失敗したのではないのかと、不安になった冒険者が恵菜に確認を取ろうとする。だが、恵菜は視線を動かすことなく、その言葉を途中で遮るように途切れ途切れに言葉を発する。未だに何かに集中しており、それの邪魔をされると困るのだろう。


 何故集中し続けなければならないのかと疑問に思う冒険者達。しかし、その理由は彼らの目の前で徐々に形となって現れ始めていた。


「おい、見ろよ!」


 一人の冒険者がそれに気づいたのか、泥沼に指を向ける。その指が示す先では、問題の泥が少しずつ穴から溢れ出してきていた。

 それに異変があったのは泥だけではない。今まで泥に沈んでいた馬車も、泥が溢れてくるのに合わせて上昇してきている。


「本当に、上がってきてやがる……!」


 信じられないものを見る様な目で、冒険者が呟く。


 馬車を脱出させる用のロックウォールを発動するために、恵菜がイメージに施した工夫は三つ。


 一つ目は、ロックウォールの形状だ。真上からロックウォールを見下ろすと、その形は四角だが、それに対して泥沼の形状は円であり、大きさを変えてもそのままの形ではピッタリ当て嵌まらない。そうなると当然隙間ができてしまい、後続の馬車がそこを通過する際に、車輪が嵌まってしまう可能性がある。それを防ぐために、ロックウォールの形状を変える必要があったのだが、以前似たような事を恵菜はやったことがある。

 そう、リアナとの勝負の時に使った、円筒形状のアクアウォールだ。恵菜はあの時に使ったイメージを、今回のロックウォールにもそのまま応用することで、ロックウォールの形状を変えることに成功していた。


 そして、二つ目はロックウォールの高さである。これは一つ目の理由とほぼ同じで、ロックウォールの高さが道に一致していないと、後続の馬車が通過するのに支障が出るからだ。当然、恵菜は道の高さと同じになるようイメージを固めているが、魔法はまだ途中であるため、こればかりは最後までやってみないと成功しているか分からない。


 だが、形状や高さを変えてもまだ一つ問題が残る。それは魔法の発動速度だ。

 瞬時に伸びてくるロックウォールのままでは、発動と同時にピンボールの如く馬車が跳ね上げられ、着地の衝撃で馬車が壊れてしまう可能性がある。そこで、恵菜は魔法が完成するまでの時間を敢えて引き伸ばし、ロックウォールが少しずつ伸びてくる様に工夫を施したのだ。これこそが三つ目の工夫であり、これによって馬車を跳ね飛ばすことなく上昇させることができる。


 しかし、これらの工夫によって、魔法が完成するまで恵菜はイメージを固めつつ、魔力を制御しなければならなくなった。それが理由で、魔法を唱えた後もずっと集中を切らさずにいるのである。


「もう少しだ!」


「いけるぞ、頑張れ!」


 徐々に上昇してくる馬車を見た冒険者達から、恵菜に応援が飛ぶ。恵菜はそれに返事をすることはないが、全員の期待に応えられるよう集中し続ける。

 そして、馬車の一番低い部分である車輪が道の高さまで来た時、ピタリと馬車の上昇が止まった。


「うおおおお、すげぇ!」


「やったなあんた!」


「これでこの場から離れられるぞ!」


 馬車の脱出に成功したことを確信し、次々に冒険者が歓喜の声を上げる。恵菜も魔法が無事上手くいって、ホッとひと息つくが、まだ全てが終わったわけではない。

 泥はロックウォールによって溢れさせられたが、今魔法を消せば、その場に穴が再度出現してしまう。そうなればまた一から魔法のやり直しだ。また、脱出させた馬車だけでなく、他の馬車もこの上を通らなければいけないため、後続の馬車がスムーズに移動できるよう、恵菜はこのまま魔法を維持し続ける必要がある。


「私は馬車が全部通り過ぎるまで、魔法を維持しなくちゃいけません。早く移動を」


 一番集中力が必要となる魔法の発動が完了したことで余裕ができたのか。恵菜は威力を弱めたアクアボールで周囲に溢れた泥を道の外へと洗い流しながら、冒険者と商人に先へ進むよう促す。


「分かった! ほら、商人さんよ! 早く乗って御者を頼むぜ!」


「ああ! お嬢さん、本当に助かった! 馬車を脱出させてくれてありがとう!」


「俺達もあんたには感謝しなきゃならねえ! 今度ギルドで会ったら一杯奢らせてくれ!」


 商人と護衛の冒険者達が、恵菜に感謝しつつその場を離れていく。それに続いて、止まっていた後続の馬車も次々に移動を開始し始めた。


 何台もの馬車がロックウォールの上を通過し、ついに最後尾が見えてくる。一番後ろの馬車からさらに離れた所には、徐々に後退しながらガーゴイルの襲撃を退け続けている冒険者達の姿もある。移動できるようになったことで、少しずつガーゴイルの出現地点から離れているのだろう。

 それを見た恵菜は、この場を離れて手伝いに行きたい思いに駆られるが、それは全ての馬車が通過するのを見届けてからだ。一刻も早く飛んでいきたい気持ちを抑えつつ、恵菜は全ての馬車が通り過ぎるのを待つ。


 そして、最後の馬車が問題のポイントを通過したところで、恵菜は冒険者達が戦っている場所へと駆けだした。


あとはガーゴイルから逃げるだけ。


次話は三日後に更新予定です。

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