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罠に嵌められた商隊

 ガーゴイルは、主に遺跡や廃墟などに生息する魔物である。一説には、所有者がいなくなって放置された像に、何らかが原因で魔力が宿り、それが暴走することでガーゴイルが生まれるとされているが、それが真実かどうかは不明だ。

 

 ガーゴイルの見た目は普通の置物や石像と何ら変わらず、様々な物が散乱している廃墟では、ジッとしているガーゴイルを発見することは難しい。そのため、毎年のように探索に来た冒険者が後ろから襲われて命を落とす事故が起きており、冒険者の間でも厄介な魔物だと認識されている。 


「商隊を包囲されると危険だ! ガンザ、ガーゴイルを食い止めるぞ! リアナとエナは横から抜けて行こうとする奴らを頼む! クレリアはいつも通り後方から全体への支援と俺の代わりに指示を!」


 ケインスが持ち前の判断力を活かし、素早く全員の役割を説明してから、ガンザと共に前に出てガーゴイルを迎え撃ち始める。余程力の差があるのか、前衛の二人に襲い掛かろうとしたガーゴイルは、ケインスの一太刀で切り伏せられるか、ガンザの拳で吹っ飛ばされていく。

 だが、向かってくるガーゴイル達の数が多過ぎるのか、ケインス達でも全てを相手にすることはできなかった。一部のガーゴイルがケインス達を無視して、その横から後ろへと抜けて行く。


「あたしが右から来る奴らを相手するから、エナは左側をお願い!」


「分かりました!」


 リアナの指示に力強く頷いた恵菜は、ケインス達を無視して自らに突っ込んできたガーゴイルに狙いを定める。


『アクアバレット!』


 魔法を唱えると同時に、恵菜の正面からアクアバレットが放たれる。ガーゴイルは何とかそれを躱そうと試みるが、躱しきれずに右肩付近を撃ち抜かれ、石でできた体は肩から先が消し飛んだ。


「ギギィ!?」


 石の体であるが故に、傷口から血が噴き出るということはない。しかし、どういうわけか痛覚はあるらしく、痛みを堪えるかのように傷を庇う仕草を見せるガーゴイル。

 自らを傷つけた恵菜の事を憎々しげに睨むその目からは、戦いの意思はまだ消えていない。だが、止まった時点でガーゴイルの負けは確定していた。


『アクアバレット!』


 再びアクアバレットが飛び、今度は狙い通りガーゴイルの胸の中心へと命中する。恵菜の魔法をもろに食らったガーゴイルは上半身が崩れ、その場に倒れ込み動かなくなった。

 だが、一息つく間もなく、新たなガーゴイル達が次々とケインス達の横を突破してくる。中には翼をはためかせて空を飛んできているものまでいる。


 ガーゴイルの戦闘能力は個体によって疎らであり、基本的には本体の姿に依存することが多い。ただの人を(かたど)った像であれば、殴るか蹴るかしてくるだけだが、異形の存在を模った像の場合、爪や牙を使った攻撃をしてきたり、翼を使って空を飛び、そのまま空中から攻撃をしてきたりする。そこに武器など持っていようものなら、さらに厄介な存在となるだろう。

 恵菜達が今相手にしているガーゴイル達は、全てが悪魔を模った石像である。武器は持っていないが、長い爪によるリーチの長さを活かした腕の一振りや、翼を使った上からの急降下攻撃など、ガーゴイル厄介さランキングでは間違いなく上位にランクインするであろう存在だった。


 もはや詠唱をしている時間すら惜しいと判断した恵菜は、無詠唱で次々に魔法を発動し、向かってくるガーゴイルを次々に撃ちぬいていく。

 これが恵菜一人であれば、大量の魔法を弾幕の様に斉射するか、広範囲且つ高威力の魔法で一気に殲滅してしまうところだが、今はケインス達を巻き込んでしまう可能性があるため使うことができない。そのため、恵菜はガーゴイル一匹一匹に狙いを定め、順番に倒していく方法を取らざるを得なかった。


 だが、倒しても倒してもガーゴイルの数が減ることはなく、一定間隔であの禍々しい光が輝き、ガーゴイルを生み出し続けている。そんな中、恵菜は空中から新たに接近してきたガーゴイルをアクアバレットで撃ち落としつつ、頭の中で襲撃者の目的や行動について考えていた。


(私達が全滅するのを待ってから、馬車の積荷を回収するとか? でも、一体どうやってガーゴイルを……?)


 ガーゴイルに限らず、魔物は簡単に人が操れるような相手ではない。何も準備していないのならば、命令しようとした瞬間に覆われるのが関の山だろう。古代には、魔物を従わせることのできる従属用の魔法というものが存在したようだが、現在は失われた魔法であり、今この世で扱う事の出来る魔術師は存在しない。

 だからこそ、襲撃者も巻き添えにならないために、この場に姿を見せていないのだろうが、問題はガーゴイルをどうやって呼び出しているのかだ。


(可能性があるとするなら、転移の魔法陣? でも、言う事を聞いてくれないガーゴイルを魔法陣へと連れて行くなんて無理だろうし、できたとしても、これだけの数を一体どこから……?)


 恵菜は仮説を立てては自ら否定するのを繰り返す。次々とガーゴイルが出現している場所を調べれば何か分かるかもしれないが、そこは前衛のケインス達がいる場所からも離れた位置にあり、その間にはガーゴイルが何体もウヨウヨしている。無理に突撃しようものなら、必然的にガーゴイル達に周囲を囲まれてしまうだろう。それに、相手の意図が不透明である以上、迂闊に動くことは躊躇われる。


 あれこれと考え続けていた恵菜だったが、目の前から今まで以上の数のガーゴイルが一気に迫ってきているのを確認する。


「うん、考えるのは後!」


 今の情報だけでは、これ以上の事は何も分からないと判断した恵菜は、とにかく目の前の敵に集中することにして気合を入れ直し、押し寄せるガーゴイル達を見据える。自分に一番近いガーゴイルから優先して倒していき、時に接近を許すことはあっても、身体能力を活かしてガーゴイルの攻撃を躱し、カウンターで魔法を撃ちこんでいく。


「おーい! 俺達も加勢するぜ!」


 ふと後ろから聞こえてきた声に恵菜が一瞬だけ振り返ると、商隊の片側の護衛を担当していた冒険者達が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。よく見ると、リアナの方にも同じ様に反対側の冒険者が集まってきている。人数が全員でないのは、恐らく何人かの冒険者が馬車を護るために残っているからだろう。


「前衛ができる冒険者は前へ! 他は横から抜けようとするガーゴイルの対処を!」


「分かった! いくぜお前ら!」


「「「「「おう!」」」」」


 ケインスから指示を引き継いだクレリアの言葉を聞き、冒険者達が元気よく頷く。剣や斧を持った者達は恵菜の横を通り過ぎてそのまま前へと走っていき、弓や杖を持つ者達は恵菜と同じ後衛の位置で迎撃を始めた。

 前衛と後衛の数が増したおかげで、横から抜けてくるガーゴイルの数が減り、抜けてきたガーゴイルも他の冒険者が連携して打ち取られていく。最初に比べれば、恵菜の負担は随分と軽くなっていた。


「これなら、何とかなりそうかな?」


 一時は相手の数の多さにどうなるか分からなかったが、今は少し余裕を持って対処できている。このまま行けばガーゴイルの奇襲攻撃を退けられるのではないかと考える恵菜。


 だが、実際はかなりまずい状況だった。


 このまま戦闘が長引いた場合、前衛の冒険者達は疲労が溜まって集中力が落ち、戦線を支えきれなくなる可能性が高い。いくら屈強な冒険者達が揃っているとはいっても、彼らが人であることに変わりはなく、戦っていればいずれ体力に限界が来るのだ。後衛も魔力や矢が尽きれば何もできなくなるため、抜けてくるガーゴイルを対処することができなくなる。

 その一方で、ガーゴイルは減っては増えてを繰り返しており、新たに出現してくるガーゴイルに疲労はない。今は戦いが始まったばかりで何とかなっているが、それも時間の問題だった。


 唯一の救いは、全てのガーゴイルが商隊の馬車よりも冒険者を優先して襲ってきていることだった。金目の物に対する欲を持たず、食事を必要としない石像の体を持つガーゴイル達は、積荷が満載の馬車を襲おうとは思っておらず、目の前にいる人間達を襲うことだけを考えているからである。ちなみに、馬車には御者をしている商人もいたが、既に彼らはガーゴイル達からは見えない位置に隠れている。

 もしガーゴイルが逆に冒険者達に見向きもせず、一直線に馬車へと向かっていたのなら、冒険者達は馬車の方に注意を向けざるをえなくなり、防戦一方の戦いを強いられることになっていたに違いない。そうなった場合、相手の規模に対して護衛の数が少ない以上、どこかで被害が出てもおかしくはなかっただろう。そんな状況にならなかったのは、まさに僥倖とでも言うべきことだ。


 それでも、このままでは冒険者側がジリ貧になることは目に見えていた。ケインス達もそれに気づいているのか、次々にガーゴイルを屠りながらも表情はずっと険しいままだ。


 商隊の後方から次々とガーゴイルが湧き出てくる異常事態。このまま戦い続けても状況が変わらない以上、一刻も早くこの危険地帯を離れたいところではあるが、前の方では馬車が立ち往生している。前も後ろも詰まっている状態では、どの馬車も動くことができない。


 前方にいる馬車を動けないようにし、後方をガーゴイルで塞ぐ。規模の大きい商隊にも効果的なこの作戦は、完全に狙って行われた罠だった。


「商隊はどの様な状態でしたか!? もう動けそうですか!?」


 あちらこちらで戦闘の音が響く中、クレリアが普段と違って大声で周囲の冒険者に確認を取る。


「さっきまでは全然動きそうになかった! 思った以上にぬかるみが深いらしい!」


 しかし、一人の冒険者から帰ってきた報告は、状況が好転しそうにない事を告げるものだった。


 依然として前方の馬車はぬかるみに嵌まったままであり、何人かの冒険者が手伝って必死にぬかるみから抜け出そうとしているが、ガーゴイルの対処にも人員が取られているため、思う様に脱出が進んでいないのだ。


「クレリアさん!」


 その会話を聞いていた恵菜が、自分が手伝えば状況が改善できるかもしれないと思い、クレリアに大声で呼びる。


「どうしました!?」


「私が馬車の脱出を手伝ってきてもいいですか!?」


「エナさんが!?」


 驚きを露わにした表情で恵菜の方を見るクレリアだが、そうなるのも無理はない。先程から銅ランクとは思えない奮闘を見せているとはいえ、恵菜は魔術師、それも女性である。

 しかし、恵菜が持ち前の身体能力に加え、全身を魔力で強化した場合、冒険者の平均を軽く上回ることができる。恵菜もそれを自覚しての提案だったのだが、クレリアはその事を知らないため、二つ返事で承諾することなどできなかった。馬車の脱出は力仕事が予想されるため、恵菜よりも力自慢の男性冒険者の方が適切だと誰もが思うだろう。


 だが、恵菜自身と、二人のやり取りを聞いていたもう一人はそう思っていなかった。


「エナ! 何とかできるのね!?」


「リアナさん!? エナさんよりも他の冒険者の方に任せた方がいいのでは――」


「大丈夫、エナならやってくれるわよ!」


 リアナがクレリアに対し、恵菜を信じろと呼びかける。リアナは恵菜と勝負(その後の後片付けも含む)を行った際に、一度その身体能力の高さを目の当たりにしているため、恵菜が手伝いに行っても問題はないと思っていた。


「エナ! そうよね!?」


 そう言って恵菜の方を見ながら確認するリアナの顔には、実力者である恵菜なら何かやってくれるという期待と、友人である恵菜に対する信頼が満ちていた。


「絶対とは言い切れませんけど、やってみせます!」


「ほら、ああ言ってるじゃない! エナが抜けた穴はあたしが何とかするから大丈夫よ!」


 自信満々に胸を張るリアナ。それを見たクレリアは別の意味で不安そうな表情になったが、躊躇っている時間が勿体ないと判断したらしく、素早くリアナと恵菜を信用することに決める。


「エナさん、お願いできますか!? もし駄目なようでしたら、あとどれくらいの人数が必要か教えに戻ってきてください!」


「はい! じゃあちょっとだけ行ってきます!」


 クレリアから頼まれた恵菜は、即座に商隊の前方へと走っていく。


「ギー!」


 集団から離れる人間を見つけてチャンスだと思ったのか、何体かのガーゴイルが空へと羽ばたき、他の冒険者の存在を無視して恵菜の後を追おうとする。


 だが、そのガーゴイル達に地上から無数の火炎が襲い掛かり、断末魔を上げることなく全て撃墜されてしまった。


「あたしを無視してどこに行こうとしてんのよ! あんた達の相手はこのあたしよ!」


 今まで以上に気合を入れ、向かってくるガーゴイルの集団を見据えるリアナの目には、絶対にこれより後ろには進ませないという強い意志が宿っていた。


便利だとは思いつつも、少し自らの身体能力の高さにコンプレックスを感じる恵菜。


2月29日に更新したかったという自己満足。

次話は明後日に更新予定です。

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