訓練場
ギルドにいる冒険者の実力は様々だ。恵菜のように、冒険者となる前から戦う術を身に着けている者もいれば、戦うことができない冒険者もいる。
そして、戦うことができない冒険者は、冒険者ランクが上がってもランクの低い非戦闘系の依頼を受ける事が多いのだが、中には弱い魔物相手なら自分でも戦えると勘違いして、討伐系の依頼を受けてしまう者がいる。
だが、弱いといっても魔物は魔物。例え相手が蹴りウサギであったとしても、戦闘経験がほとんどない冒険者が舐めてかかれば大怪我に繋がる。昔は数日に何度かの頻度で、この様な戦闘経験の無い冒険者が無謀な行動に出て大怪我をする、もしくは死亡するという事故が起きてしまっていた。
いつも冒険者の人材不足に悩まされていたギルドにとって、これは無視できない問題だった。当然のことながら、ギルドも己の実力に見合った依頼だけを受けるように呼びかけはしたのだが、どれだけ注意喚起をしてもその人数はあまり変わらず、事故が減ることはなかった。
そこで、ギルドは注意喚起と共に、冒険者やギルド職員が講師となって戦闘の基礎を教えるという講習を開催するようになった。戦えない冒険者が魔物と戦って事故を起こすのなら、最初から戦えるようにすればいいという考えからの試みだった。
結果として、戦闘訓練を開催するようになって以降、初めて討伐系の依頼を受けた冒険者が死亡する事故は激減し、今では定期的に講習が開かれ続けている。
その講習の場として用いられるのが、ギルドに隣接して造られた訓練場だ。
訓練場の中は大人数でも戦闘訓練ができる程の広いスペースが確保され、周囲を囲む壁には剣や槍といった近接戦闘用の武器から、弓や投げナイフなどの遠距離武器が立てかけられている。
他にも、身体能力を鍛えるための道具が置いてある場所や、敵の代わりとなる木製の案山子がいくつも並んでいる場所があるが、建物内部に酒場を持つギルド本館が憩いの場としての役割も持っているのに対し、戦闘を行える場所として造られた訓練場にそんな要素は一切ない。
そして、訓練場の中央部はまるでステージの様に少し地面が高くなっており、そこには巨大な魔法陣が描かれている。この魔法陣は障壁を発生させるためのものであり、主に魔法の練習をする際に使用される。発生する障壁はそこそこの威力の魔法を防ぐことができ、この中で魔法を的外れな場所へ飛ばしたとしても、周囲に被害が及ぶことはない。また、障壁は魔法だけでなく物理攻撃も防ぐことができるため、腕に自慢のある冒険者同士が模擬戦を行う時にも用いられている。
訓練場の利用は冒険者の誰もが認められており、講習が行われる日以外であれば、冒険者はいつでも自由に利用することが可能である。だが、今はグランのギルド長権限によって立ち入りが制限されていた。
「これで他の冒険者が入ってくることはないだろう。思う存分、実力を発揮してくれていいぞ」
恵菜とリアナが戦っている最中に他の冒険者が入ってきては、勝負の邪魔になる可能性がある。リアナもそうだが、恵菜の実力を見たいグランからすれば、今回の措置は必要なことだった。
「……恵菜さん、リアナさん。お願いですから訓練場は壊さないでくださいね?」
「壊さないわよ! たぶん……」
「大丈夫……だと思います」
恵菜とリアナの勝負は、当然のことながら訓練場に被害を出さないように魔法陣の中で行われる。魔法陣の障壁はそう簡単に破れるものではないが、恵菜とリアナが全力で戦っても無事である保障はない。むしろ、壊れる可能性の方が高いだろう。
それを懸念したヒルデの忠告に対し、恵菜とリアナは若干目を逸らし気味だ。二人とも実力はあるので、魔法の威力を調整することぐらい簡単にできそうだが、勝負に夢中のあまり段々とヒートアップする可能性はある。二人の様子を見たヒルデは頭を抱えたくなるが、そんな事も露知らず、リアナが勝負の内容を説明し始める。
「お互いが魔法陣に入って、合図があってから勝負開始よ。勝負は一回きりの模擬戦形式で、相手が負けを認めるか戦闘続行が不可能になるかすれば勝ち。分かった?」
「はい、分かりました」
リアナが説明した勝負の内容を聞いて、恵菜はユーリエとの模擬戦を思い出す。内容もその時に行っていた模擬戦とほぼ一緒であり、特に疑問に思うところはなかった。
「では、二人が魔法陣に入った後、儂らの方で魔法陣を起動して障壁を発動する。開始の合図も儂が行う形でいいか?」
リアナの説明を横で聞いていたグランが審判役を買って出る。恵菜かリアナのどちらかがその役目を担った場合、不公平になると判断したのだろう。当然、リアナもその提案を嫌な顔一つせずに受け入れる。
「そうしてちょうだい。それじゃあ、早速始めても大丈夫?」
「はい」
「なら、魔法陣の所まで行くわよ」
そう言ってリアナは訓練場中央にある魔法陣の所まで移動する。その後を追って魔法陣の内側へと足を踏み入れた恵菜は、初めて魔法陣の大きさを見る事ができ、充分動き回れるだけのスペースがありそうなことを確認する。
「よろしくお願いします」
「こっちこそ、よろしく」
魔法陣の中で恵菜とリアナがお互いに向かい合い、勝負前の挨拶が済んだところで、グランとヒルデが魔法陣を起動して障壁を発生させる。すると、恵菜とリアナの足元にある魔法陣が輝き始め、眩しい光を放ち始めた。足元から照らされる光の強さに、思わず恵菜は目を閉じる。
光が収まってから恵菜が目を開けると、さっきと何ら変わらない光景が目に入ってきた。だがよく見ると、魔法陣の縁から透明な壁が真上に伸びている。恐らく、これが魔法陣による障壁だろう。その障壁をグランが外側から軽く叩き、魔法陣の発動が成功したかを確かめていた。
「よし、魔法陣も問題なさそうだな。二人とも、準備はいいか?」
「「大丈夫」です」
障壁の確認を終えたグランから開始前の最終確認が行われ、恵菜とリアナが同時にそれに答えた。間もなく勝負が始まるだけあって、リアナは真剣な眼差しで恵菜を見つめ、恵菜はいつでも動けるように構える。
「よし……では、勝負開始!」
グランが上から下へと腕を振りおろし、恵菜とリアナの魔術師対決が始まった。
グランがウキウキしているように見えるのは気のせい?
短めですが更新いたしました。
次話は明後日に更新予定です。




