三対一
「……はい?」
この人は一体何を言っているのだろう、という様な表情でリアナを見つめる恵菜。話の流れからしても、まさか唐突に勝負を吹っ掛けられるとは思っていなかったのだ。
「だってほら、あなたがフェンリルを追い払う実力があるかどうかが今回の重要な点じゃない? あたしもそれが信じられなかったから、フェンリルを追い払ったかどうか分からないんだし。でも、あなたがあたしよりも強いって証明できれば全部解決するでしょ!」
「は、はぁ……」
あまりにも無理やり過ぎるリアナの理屈に、恵菜は生返事をすることしかできない。
「それに、あなた、見た目からして魔術師よね? あたしも魔術師だから、お互いに職業の有利不利なんてないし、勝った方の実力が上ってことになるわ! どう!?」
リアナがどや顔で自らの提案が完璧であることを説明する。実際は、使える魔法の相性によって有利不利が多少は存在するのだが……
「どうって言われても――」
「勝負をしないって言うのなら、あたしはあなたの言う事を信じないわ。このままギルドで本物の情報提供者を探し続けるだけよ」
リアナの捨身の脅し文句を聞いて、恵菜は言葉に詰まる。他にどうすれば信じてもらえるのか、恵菜は様々な方法をあれこれと考えるが、勝負を受けるという選択肢以外に有効な方法は何も思いつかない。
「エナさん、別に勝負を引き受ける必要はありませんよ? ギルドの方でリアナさんを建物の外に強制退去させるということも可能ですので」
そこへ、これ以上二人が問題事を発展させないようにするためか、ヒルデが口を挟んできた。
「なっ、何それ! ギルドは冒険者の行動に直接関与しないんじゃないの!?」
「関与しないといいましても、今回のように他の冒険者から苦情が来るとなれば話は別です」
ちなみに、他の冒険者から苦情が来ているのは、しつこい聞き込みをしてくるリアナだけだ。相手が知らないと分かるとすぐに引き下がるケインスの方には、苦情が全く来ていない。
「う~……」
ヒルデの説明に、リアナは悔しげな表情で唸り、ヒルデは真剣な顔でその視線を受け止める。場が膠着状態になりつつあったが、ここで恵菜が口を開く。
「……いえ、その勝負、受けさせてください」
「エナさん!?」
勝負を受けるという恵菜の言葉に、ヒルデの顔が驚愕に染まる。
「正気ですか? 実力勝負ということは、恐らくリアナさんと戦うことになりますよ? フェンリルを討伐しに来たという以上、リアナさん達の冒険者ランクはかなり高いと思われ――」
「あたしのランク? 金一だけど?」
ヒルデの言葉に割り込む形で、リアナが冒険者カードを取り出して、恵菜とヒルデに見せる。リアナの言う通り、手に持つカードには金色の星が一つ浮かび上がっていた。
「――見ての通りです。ランクが金であるリアナさんが相手の勝負、小さな怪我程度で済めばいいですが、下手をすれば大怪我は免れませんよ」
少し怯えさせるような言い方で恵菜を説得しにかかるヒルデ。だが、恵菜の気持ちは変わらなかった。
「私のせいで起きた問題ですから、私が何とかしなくちゃいけないんです。それに、これ以上ヒルデさんを頼るわけにはいきません」
恵菜のその覚悟を聞き、ヒルデは何かを言おうとするが、その前にリアナが言質を取ったと言わんばかりに、前のめりになりながら恵菜に詰め寄る。
「聞いたわよ、勝負を受けるって! 後で撤回するなんて言わせないわよ!」
「だ、大丈夫ですよ、撤回はしませんから。でも、その前に一つだけお願いしたいことがあります」
「……何かしら?」
何か無理難題を吹っ掛けられることを危惧したリアナが身構える。
「ここで話した内容――私やフェンリルの事について、他の人達に言いふらさないで欲しいんです」
「へ?」
しかし、恵菜から告げられた条件を聞いたリアナは呆けた声を出す。
リアナは今回の事を他人に言いふらす気など最初から持っていない。同じパーティのケインス達に詳しく説明はできなくなるが、そっちにはギルドから最初に説明された時の様に、フェンリルがどこかに行ってしまったという説明を押し通せば何とかなる。そんなリアナからしてみれば、恵菜の示した条件はほとんど無条件みたいなものだった。
「……いいわ、あなたにも何か事情があるんでしょ? 誰にも言いふらさないって約束してあげる」
「本当ですか!」
「ただし! 勝負はちゃんと受けてよね!」
「はい!」
恵菜の条件をリアナが受け入れ、お互いに勝負の意思が固まった時、ヒルデは頭を抱えたくなった。止めようにも、二人の会話は完全に勝負をする流れになってしまい、もはやヒルデがいくら説得しようがどうしようもない状況になりつつある。
どうしようかと悩んでいたヒルデだったが、ふと一発逆転の閃きが生まれる。
「ま、待ってください。お二方が勝負をすると言っても、どこで行うつもりですか? まさか、ここで行うわけではありませんよね?」
「「あ」」
ヒルデの言葉に、恵菜とリアナは二人揃って同じ声を出す。
「……この近くに人気のない場所ってある?」
「南に行けば森がありますけど……人が来ないって保障は……」
「しかも、そこって遠いんでしょ? 魔物に邪魔されそうだし……もっと近くには何かないの?」
「う~ん……」
二人はどこか良い場所がないかを懸命に捻りだそうとするが、中々出てこない。
考え通りに二人の勝負を止める事ができそうになり、ヒルデは内心ガッツポーズをとっていたが――
「ん? ギルドの訓練場じゃダメなのか?」
しばらく空気と化していたグランが余計な事を言い、ヒルデはその場で固まってしまった。
「そうよ! 訓練場があったわ!」
「訓練場?」
「知らないの? ギルドには冒険者が戦闘訓練を行える施設があるのよ。冒険者同士が戦えるようにもなってるから、そこで勝負よ!」
お互いに勝負をする気があり、戦うために最適な場所も見つかった。もはや二人が勝負を行うのは確定的だろう。
そんな二人を尻目に、ヒルデはグランに掴みかかっていた。
「何を考えているのですかギルド長! ここは二人の勝負を止めるべきでしょう!」
「す、すまん、つい……」
「つい、ではありませんよ!」
ヒルデは両手でグランの襟首を掴んで揺さぶり、それに合わせてグランの頭もガクガクと揺れる。
「何のために私達がここにいたのですか! エナさんが問題を起こさないようにするためでしょう!」
「だ、だがなぁ……既に戦うような流れになっておったし……どうせならギルドの監視が及ぶ訓練場の方がまだマシだと思ってだな……」
「それは、確かにそうかもしれませんが……」
どこかで恵菜とリアナが戦い、それに人が巻き込まれれば、それこそただでは済まない。人気が少ない場所へ行ったとしても、そこに冒険者が来る可能性は十分あり得る。
そんな危険性があるくらいなら、いっそのこと魔法対策も成されているギルドの訓練場を閉め切って戦わせた方が安全である。
そのため、ギルド長の考えも悪くはないのだが、話し合いが始まる前に、恵菜が問題を起こさないようにすると意気込んでいたヒルデは納得がいかないらしい。
「よし! それじゃあ訓練場へ行くわよ! あ、ギルド長と職員さんも立ち会いよろしくね」
「当然だ、訓練場を壊されては堪らんからな。ほれ、いくぞヒルデ」
「……承知いたしました」
何故か少し楽しげなグランの姿を見て、ただ単に二人の戦いが見たかっただけなのではないかと疑うヒルデ。
銅ランクの冒険者が金ランクの冒険者と勝負すれば、一方的に押されるだけだろう。しかし、恵菜は金ランクの冒険者がやっと倒せるようなフェンリルを撃退し、断ったとはいえ、金ランク相当の実力があると認められている。そんな実力者同士の対決となれば、グランが期待するのも無理はない。
「はぁ……」
またしても問題事を止める事ができなかったヒルデはため息を吐きつつ、せめて最小限の被害で済むように祈りながら、部屋を出て行く三人の後に付いていくのだった。
ヒルデさん一人だと止めるのは無理。
次話は明後日更新予定です。
恵菜の台詞の一部で「リアナ」と「ヒルデ」を間違えていたので訂正しました。(2016/01/31)




