ドラゴンの卵発見
「ほ、本当ですか!?」
ケインスの言葉に驚くものの、すぐに嬉しそうな顔になった恵菜は、彼に詰め寄って口早に問いかける。
「どこにありました!? まだ無事でした!? 誰かが持っているなら譲ってもらえそうですか!? もしそうならすぐに回収しに行きましょう!」
「き、気になるのは分かるが、少し落ち着いてくれ」
そう言われた恵菜は、自分が冷静さを欠いていた事を自覚する。小さく咳払いをして、「ごめんなさい、取り乱しました」と謝罪してから、再度、ケインスに問う。
「それで、卵の状況は?」
「卵は無事だ。見た感じ、今すぐに何かされるという危機的状況でも無さそうだった」
「良かったぁ……。それじゃあ、後は所有者の人を説得して卵を譲ってもらえれば、ドラゴンの問題は解決しそうですね」
それを聞いて、ホッと胸を撫でおろした恵菜。
しかし、ケインスは困った顔をしながら口を開く。
「いや、恐らくだが、それは難しいと思う」
「ど、どうして? もしかして、法外な値段で売られているとかですか?」
「いや、売られているわけじゃない。正式な手順を踏めば手に入ると思う」
「正式な手順? どんな手順ですか?」
「それなんだが、話すとなると、色々と説明しなければいけないことがある。それよりは、見てもらった方が早いと思うんだが、どうだろうか」
そう言って、ケインスは窓の外を指差す。卵のある所まで案内してくれるのだろう。
譲ってもらうことはできないが、手に入れること自体は可能。一体、どういった状況なのか、恵菜は想像もつかなかったが、百聞は一見に如かずという言葉もある。現地へ行って見てみるのが早いのなら、そうすべきだろう。
「ステンさん。すみませんが、ちょっと外へ行ってきてもいいですか?」
「構わんが、エリステリア王女の護衛もある以上、全員で行かれるのは困るな。二人ぐらいは残ってくれ」
「では、私とガンザさんが残りましょう。ケインスさんとリアナさんが、エナさんの案内をしてあげてください」
「おう! 王女様の護衛は任せろ!」
残ってくれる二人が決まると、恵菜は「ありがとうございます」と言って、一旦部屋を出る。
そして、数分後にドレス姿からいつものローブ姿へと着替えて戻ってくると、そのままケインス達と共に外へと向かう。
「……予想はしてたが、やっぱり窓から出ていくのか?」
「正面入り口は目立つので」
恵菜がさらっとそう言うが、公爵という身分の者が窓から出入りするという行為に、ステンは少々苦い顔をしている。
もちろん、自らが貴族であるという自覚が薄い恵菜も、こういった事に躊躇いが無いと言えば嘘になる。常識的に考えて、窓から人が出入りするのは、褒められた行為ではない。ただ、今はなりふり構っていられないのだ。
「卵の状況が分かったらすぐ戻ってくるので。じゃあ、行ってきます」
そう言い残し、恵菜は窓から外へ飛び出す。
「こっちだ」
先に外へ出ていたケインス、リアナと共に、路地裏を進んで大通りへ。路地裏を進み続けるよりは、人通りの多い大通りへ出て一般人に紛れてしまった方が怪しまれない。
そのまま大通りを真っ直ぐ進んで行く。
「……あれ? こっちって、お城がある方じゃないですか?」
「そうだ。ただ、目指しているのは城じゃなく、その裏にある場所だ」
「あたし達だけで、お城に入れるわけないしね」
お城にドラゴンの卵があるのではないかと思った恵菜だったが、すぐにケインスとリアナが否定する。そもそも、お城の中に卵があったのであれば、彼らでは見つけられていないだろう。
「お城の裏って、何があるんですか?」
「あれは……広場、と言えば良いんだろうか?」
「んー、真ん中はそうだったけど、周りに建物もあったから違うのかも? でも、あたし達も、あんなものがあるなんて初めて知ったわ。街に入って即座にお城へ向かったから、ちょうど陰になってて見えなかったのよね」
どうやら、二人とも今までに見たことのないものがあるらしい。少し不安になる恵菜だったが、街中に変なものがあるとも思えない。
(もしかすると、広場の真ん中にドラゴンの卵が飾られているとか? だとすると、所有しているのは国ってことになるのかな。う~ん、それだと確かに、譲ってもらえるかどうか……)
歩を進めながら、あれやこれやと考える恵菜。そうこうしている間に、城が目の前という所までやって来た。ここで横へと曲がり、城の外側をぐるっと回り込んでいく。
城の裏側まで来たところで、視界が開けてくる。ずっと建ち並んでいた家々が、ある個所を境にして途切れたからだ。まるで、既存の街に新たなスペースを無理やり作ったかのように。
そして、開けた場所に、ケインス達が言っていたものが見えた。
それは円形をした建造物。城に比べれば低いが、さっきまで周りにあった住宅よりも大きく造られたそれに、恵菜は見覚えがあった。
ただ、この世界では初めて見るもの。……いや、元いた世界でも、実物を見たことはなく、学校の教科書に載っていた写真を見たことがあるだけだ。
「まさか、コロシアム……?」
頭の中にある記憶と比較して、所々の見た目に違いはある。それでも、見えているものがそうではないかと思えるぐらいに、目の前にある建物は似ていた。
「恵菜、あの建物を知ってるの?」
「え? あ、学校の……うん、リルシャートの学校にいた時、教科書にあった絵と似てたから、そうじゃないかなって」
「へー、やっぱり学校って色んな事を知れるのね」
一度誤魔化そうとするが、ほとんど誤魔化していない事に言ってから気づく恵菜。場所が違う以外は本当の話だ。リアナは全てを信じている様子だが、言い直さなくても特に不審がられることはなかっただろう。
「中には入れるんですか?」
「ああ、特に身分証明なんかは必要ない」
コロシアムの前まで来た三人は、そのまま中へと入っていく。入った先はロビーになっており、正面に受付の様な場所がある。
そして、その後ろに――
「――あっ、あれ!」
否応でも訪れた者の目に留まるような目立つ位置に飾られた、ダチョウの卵よりも一回り程大きな卵。鎧を着た二人の兵士が守っており、明らかに貴重な物であることが分かる。
「ああ。あれがドラゴンの卵らしい」
「あんな所にあるってことは、この建物の名物みたいな扱いにされているんでしょうか?だとしたら、確かに譲ってもらうのは難しそう……」
その言葉に対し、ケインスは首を横に振った。
「いや、そんな祭られているような扱いはされていない。あれは賞品だ」
「賞品……あっ、まさか!?」
「その『まさか』だ」
そう言って、ケインスは壁にあった張り紙を指差す。
そこには、こう書かれていた。
『サンドルク帝国武闘会』
良い子は窓から出入りしてはいけません。




