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プロローグ ~上~

~初投稿~


 見切り発車につき、おかしな所や突然の設定変更があるかもしれませんが、どうか暖かい目で見守ってください。

 森の中を一人の少女が走っていた。いや、この場合は逃げているという方が正しいか。


 舗装もされていない自然の地面は走りづらく、何度も転びそうになったが、少女は止まるわけにはいかない。


 後ろから追いかけてくるいくつもの足音が聞こえる。しかし、それらは人の足音ではなく獣の足音であった。


 後ろから迫る複数の獣に追いつかれれば、間違いなく彼らのご飯となってしまうだろう。


 そんな獣の群れは、少女から一定の距離を保ちながら、逃がすことのないように追いかけている。


「……っ! 出口っ!」


 木々の間から開けた場所が見える。森の外に出れば、獣たちも追いかけてこないかもしれない。

 それならば逃げられると期待して、彼女はその出口を目指す。


 しかし、その期待はあっさり裏切られることになる。


「嘘でしょ……」


 少女が出てきた場所は、崖の上であった。


 崖の下には海が広がり、波が崖に打ちつけられて白い水飛沫が宙を舞う。


 引き返そうと慌てて振り返るが、そこには少女を追いかけてきた獣達が待ち構えていた。


 じりじりと獣達が距離を詰めてくる。


 少女も後ろへ下がるが、すぐに崖際へと追い詰められてしまった。


 前方には獣の群れ、後方は断崖絶壁、文字通り崖っぷちの状態である。


「こんなことなら、神様にどこかの街へ送ってもらえるように頼んでおくべきだったのかなぁ……」


 そんな状況ながら、絶体絶命の少女、霜月(しもつき)()()は自らの選択が失敗だったのかと考えていた。


 何故このような状況になったのか。その原因を説明するには数時間前に遡る――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 病院の一室で恵菜は退屈そうにしながら窓の外を見ていた。


「暇だな~……」


 恵菜はベッドの上で寝ながらそう呟くが、病院の担当医からは、外出どころか出歩くことも禁止されているため、窓から外の景色を眺めることしかできない。


 しかし、毎日同じ景色を見ていると、それも飽きてくるというものだ。


 看護師の人が持ってきてくれた本もいくつかあるが、既に全て読み終えてしまっている。

 ただし、勉強も大事だと言って持ってきた教科書や参考書の類はほとんど手付かずだ。


 恵菜は勉強が好きではない。かといって学校の成績が悪いというわけでもない。

 学校での成績はトップレベルで、難関国立大学の合格者を毎年輩出する県内でも屈指の高校を受験しようかと考えていたぐらいだ。


 普段は勉強などしない性質であったが物覚えは良く、授業を真面目に受ければ復習など必要なかった。


 恵菜に対する周囲の評判も良かった。その理由は彼女の容姿にある。


 身長は女子の平均とほぼ同じだが、身体的な発育は悪くない。

 まだ幼さは残るものの同性すら羨む整った顔立ち、艶があり背中まで伸びる長い黒髪といった、多くの人が目を惹かれる美少女であり、学年を問わず、何名か告白する者もいたぐらいだ。


 もっとも、全員「ごめんなさい」の一言で撃沈したが……

 

 このままの生活を続けられたのなら、きっと充実したものになっていただろう。


 そんな彼女の生活は、原因不明の病によって崩壊した。


 春休みも終盤に差し掛かり新学期が始まろうかという頃、恵菜は自分の体に妙な違和感を覚えるようになった。


 初めは恵菜も不審に思ったが、熱が出る、体がだるいなどの症状がなかったこともあり、しばらくしたら治るだろうと軽く見ていた。


 だが数日経ってもその違和感が消えることはなく、休日に自分の部屋で読書をしていた時に突然意識を失い、気が付いた時には病院のベッドの上だった。


 それからというものの、不意に倒れたり、酷い時は血を吐いたりしたり繰り返している恵菜は、病院の中ですら満足に歩けない生活を強いられている。


「暇だな~……」


 ついさっき口にした言葉を再び吐き出す恵菜。

 呟いたところで何か面白い事が起きるわけではないと分かってはいるが、それでも口にせずにはいられない程暇なのだろう。


(何か本でも読みなおそうかな)


 そう考えた恵菜は、どうせ全部読破してしまった本だからどれを取っても対して変わらないだろうと、近くにある本の中から一冊を適当に引っ張り出す。


「あれ、こんな本あったかな?」


 恵菜が取り出した本は見たことがない本だった。


 本の表紙は真っ白で、本のタイトルも著者名も書かれていない。ブックカバーかと思ったが違うようだ。

 いつの間にか看護師の人が新しい本を持ってきてくれたのだろうか。


 勉強用の本ではないようなので、恵菜は暇つぶしに丁度良いと思い読んでみることにした。


「何かの物語ね」


 本の内容は少女が世界を旅するものだった。


 様々な困難に遭いながらも、それらを乗り越え進み続ける少女の物語を、恵菜は時間を忘れて読み続け、読み終わる頃には日が沈んですっかり夜になっていた。


「ふぅ……久しぶりに、本に夢中になっちゃったわね」


 消灯が近いため、寝る準備をしてベッドに潜り込む。


「……世界を旅する、かぁ」


 恵菜はベッドの中で、先刻まで読んでいた本の内容を思い出す。


 広大な世界で、一人の少女が逞しく生きながら旅をする。


 世界中を歩き回るどころか、病院から出ていくことすら満足にできない恵菜にとって、その生き方は羨ましく、少女に尊敬の念すら覚えるぐらいだった。


「元気になったら、私もあの女の子みたいな旅をして世界を見て回りたいな……」


 そう呟いて、恵菜は眠りに落ちた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ん? ここはどこ?」


 目が覚めた恵菜は、まるで記憶喪失の人の様な言葉を発した。


 普段なら目が覚めて真っ先に目に入るはずの病院の天井がない。


 恵菜は起き上がって周りを見渡すが、一面真っ白な床が広がっており、壁が見当たらないどころか遠くに地平線が見えている。


 日本だけでなく、世界中のどこにもこのような場所があるとは思えない。


 それに服装も病室にいた時のパジャマのような服装ではなく、何故か恵菜の通う学校の制服に変わっている。

 

 恵菜はあまりに常識はずれな現象を目の当たりにして、ついに自分がお亡くなりになったのかと考える。


「ということは、ここは天国?」


「天国とはちょっと違いますよ~」


「うぇ!?」


 いきなり後ろから声を掛けられ、女の子とは思えない声を出して驚く恵菜。慌てて振り向くと、そこには優しげな顔をした美女がいた。


(日本人に見えないけど、話す言語は日本語よね……日本に住んでるのかしら?)


「それも違いますよ~。それに、ここは日本でもないですからね~」


「えっ、何で考えてたことまで!?」


「何でと言われましても私は神ですから、それぐらいの事は簡単ですよ~」


「か、神様っ!?」


 先程から驚きの連続である。


 普通、目の前にいる人がいきなり神様だと言われても信じることができないが、あまりにも現実離れした状況に、恵菜は否定することができない。


 一先ひとまず正面にいる、妙にほわほわした人物が神様であると納得することにした恵菜は、慌てて姿勢を正そうとする。


「あ、別に畏まらなくても大丈夫ですよ~」


 だが、恵菜は正座をして頭を下げようとする前に、神様から制されてしまう。


 そう言われてしまったのなら仕方ないと、恵菜は立ったままの状態でいることにした。


「先程も申し上げましたが、ここは天国でも日本でもありません。私があなたを呼び出すために、あなたの夢の中に用意した空間、とでも言っておきましょうか」


「私を?」


 天国でも日本でもないことは、周りの状況から既に分かっている。


 しかし、恵菜は自分が呼び出される理由が分かっていなかった。


(私、何も悪い事してない気がするんだけどなぁ……)


「悪いことをしたから呼び出したわけではないのですよ~」


「あ、心を読めるんでしたね……」


 どうやら何か悪い事をしたから罰を与える、というわけではないようである。

 となると、尚更呼び出される理由が分からない恵菜。


 そんな恵菜に対して、神様は恵菜を呼び出した理由を話す。


「私があなたを、恵菜さんを呼び出したのは、提案したいことがあったからです」


「提案……ですか?」


「そうです。恵菜さん、異世界に行ってみる気はありませんか?」


「……はい?」


 神様のいきなりのビックリ発言に、恵菜は理解が追いつかなかった。


「異世界……外国ってことですか?」


「いえ、恵菜さんが住んでいる地球とは違う場所です~」


 地球とは違うと言われて、恵菜は月や火星といった他の星を思い浮かべるが、そんな場所へ行って生きていけるのか怪しいところだ。

 それに、神様の言っている異世界とは少し違う気もする。


「あの、異世界に行くと言われても、良く分からないのですが……そもそも何故私にその提案を?」


「そうですね~、まずは恵菜さんを選んだ理由から説明しましょうか」


 そう言って神様は説明を始める。


「恵菜さんを選んだ理由ですが、異世界に行く少女の物語を読みましたね?」


「確かに読みましたけど……」


 恵菜はベッドで寝る前に読んでいた本の事を思い出し、神様はそんなことまで知っているのかと思いつつも肯定する。


「あの本を置いたのは私です。あ、著者も私ですよ~」


「えっ」


 神様のカミングアウトに、恵菜は驚きを隠せない。


 見知らぬ本だとは恵菜も思っていたが、まさかそれが神様作の本だとは思わなかったようだ。


「あの本を読み終わった後、恵菜さんは旅をして世界を見てみたいと言いました。だからこそ恵菜さんに、異世界へ行って思う存分旅を楽しんできてほしいと思いまして~」


 確かに言った気がする……と思いながらも、恵菜は新たな疑問を尋ねることにした。


「でも、何で私のところに本を?」


「本を書き終わった後に、誰かに読んでもらいたくなりまして、暇で読んでくれそうな人がいないかと探していたところ、丁度よく恵菜さんがいたのですよ~」


「…………」


 予想外の答えに、恵菜は何を言っていいのか分からなくなった。


「まぁ、それは半分ぐらいの理由ですけどね~」


「それ以外に理由があるんですか!? いや、それより半分もその理由が占めているんですか!?」


 神様のマイペースな発言に、思わず恵菜はツッコミを入れる。


 だが、神様はそのツッコミをスルーして、さらにとんでもない発言をする。


「もう半分の理由は、恵菜さんが間もなく死んでしまうからです」



 プロローグが長くなりそうだったので、上、下に分割しました。

 下の方は明日投稿予定です。


2023/07/02 行間調整を実施しました。



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