シスター(魔王属性)と悪魔(奴隷属性)
むかーしむかしのとあるへんきょうのむらに、しすたーさんとしんぷさんがいました。
しすたーさんはそれはそれはざんこくなてんしのようなせいかくでありました。
しんぷさんはそれはそれはよわきなせいかくでありました。
このものがたりはそんなしすたーさんとしんぷさんのあくまたいじのおはなしであります。
◆◆◆
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム」
教会のステンドグラスを通り抜けた光によって、美しく染まった石の床に不気味な魔方陣が浮かび上がりました。
「我は求め、訴えたり」
魔方陣から血のように赤い炎が吹き上がります。
それでも神父は言葉を紡ぎ続けます。
「我が呼び声を聞け」
カッと光ったかと思えば炎が止まりました。
そしてそこから顔を覗かせるのは邪悪な悪魔です。
≪我を呼び出すは汝か……生贄を出せ、さすれば我の力を――む?≫
その瞬間、音もなく悪魔の背後に回っていたシスターが土木工事でも見ないほどの大きなハンマーを振り下ろしました。
ハンマーには鋭利なトゲトゲがそれはそれはたくさんついていました。
悪魔はなすすべなく脳天にその一撃を受け、悶絶しながら倒れました。
「さっ、次行きましょ、神父様」
シスターは倒れた悪魔をゴルフスイングで壁際にかっ飛ばすと、再びハンマーを振り上げます。
すでに教会の壁には同じようにやられた悪魔たちが積み重なっていました。
「やればやるほど特別ボーナスがでるんですから」
「し、シスターよ。もうこの辺でやめないか? いくら魔女狩りと悪魔狩りが我々聖職者の仕事とは言え……向こうからくるのではなく引きずり出して……というのは水増しではなかろうかの?」
するとシスターは夜のコンビニでたむろしているガラの悪い学生のような顔で、
「はぁ? 何言ってるんですか神父様。ここ最近冒険者たちが張り切ってるせいで私らの給料が減ってるんですよ。だからぁ、さっさと水増しでも卑怯でもいいからやっちゃいましょぅ?」
神父は心の中で神に許しを乞い、更なる悪魔召喚を行いました。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム。我は求め、訴えたり」
シスターはすぐに振り下ろせるようにハンマーを構え、ぼわっと炎が出現し悪魔が姿を現すと容赦なく振り下ろした。
ゴッガァァンッ! と床をも砕く力で、とても美しい人間の少女の姿をした悪魔を沈黙させました。
そしてぼろ雑巾を扱うように、ハンマーにひょいとひっかけて壁際に投げます。
呼び出されたまだ幼いサキュバスは、世間を知ることもなくその一生を終えました。
「そ、そろそろやめにせんか?」
「ま~だ~で~す。あと十体。せめて上位悪魔を三体です!」
「…………」
言い知れぬシスターの怖さに押された神父はさらなる召喚を行いました。
さきほどよりも長い長い詠唱、そして大量の魔力を注ぎ込みました。
すると召喚されたのは見目麗しいイケメンのインキュバスでした。
さらりとした金髪に貴族のような豪華な服装です。
「チェストーー!」
シスターはそんなイケメンに目もくれず「上位悪魔だやったぁ」と思いながら真横からのフルスイングでインキュバスの首を折って、勢いそのままに壁に打ち付けました。
今回が初めての召喚だった若いインキュバスは、女を知らぬままにその生涯に幕を閉じました。
神父はいつか自分を同じ目にあわされてしまうのではと、内心ひやひやしながら召喚を続けます。
「この調子で上位悪魔おっねがいしまーす!」
そして次に神父が呼び出したものは、
「か、」
黒猫でした。
「可愛いぃ~~!」
シスターはハンマーをごとりと落とすと、黒猫を抱きかかえました。
「ねねっ、神父様この子ここで飼っていい!? いいでしょ!」
「それはあく――!?」
パシィィンと目に見えないほどの速さで何かが振るわれました。
「いいですよね、神父様」
晴れ晴れとしたさわやかな笑顔でシスターは言います。
その聖女のごとく燦然と輝く笑顔の裏には恐怖が見え隠れしますが。
「だ、駄目じゃそれは悪魔」
「そうですか……とても残念です。さようなら神父様」
静かにハンマーを拾い上げたシスターが静かに、ゆらりと神父に近づきます。
「や、やめるんじゃシスター! 猫なら飼っていい、いいから!」
役職上はシスターより立場が上の神父ですが、どうも気の弱いこともあって簡単に折れてしまうようです。
「やった」
シスターは猫を撫でまわしました。
猫は嫌がるようなそぶりを見せ、逃げようとしましたが逃げられませんでした。
「こんなに可愛い子がほんとに悪魔なの」
「み、みやぁ~~」
嫌がる猫悪魔とシスター。
猫はいつもいつもべったりと放されることなくシスターに抱かれていました。
そんな生活が何日か続いたある日の昼下がり。
シスターは猫悪魔を抱えたまま教会の裏手で洗濯物を干していました。
「ふーんふふーん♪」
鼻歌交じりに修道着などを干し終えると、今日もいつものようにハンマー片手にお仕事を始めます。
しかし今日はいつも違って、呼び出されるのは下級も下級、人間が召喚して雑用を任せるような小悪魔ばかり。
それでも呼び出した端からぼくさ……退治したのが百を超えた頃でしょうか。
≪人間風情がぁ!! いい加減にしろ!!≫
シスターの後ろに控えていた猫悪魔が言いました。
猫とはいえ悪魔です、しゃべっても不思議ではありません。
「え? この猫ちゃんが……?」
≪貴様ら……。我輩が本気を出せない間によくも好き放題してくれたな!≫
ドス黒いオーラを撒き散らしながら、猫の姿が変わっていきます。
二足歩行で立ち上がったかと思えば一瞬にして二メートルを超える巨躯に変貌し、ねじまがった角を、黒い翼を、凶悪な爪を持つ上級悪魔になりました。
俗説では高位の悪魔の中には人に近い姿を取り、魔力がなくなると別のものになって回復する者もいるというらしい。
「可愛くないものは――――お呼びじゃないのよ!!」
ドォッッッゴォォ!! と、シスターはハンマーを振り下ろしました。
悪役はヒーローの変身を待ってくれますが、あいにくシスターには待つほど優しい心がありませんでした。
かなりの重量をもつハンマーは悪魔を床にたたきつけ、さらに大きなヒビを壁際にまで走らせました。
≪――っ!? ――か……はっ≫
悪魔は中途半端に変身した状態で意識を手放しました。
遠巻きにそれを見ていた神父は、
「高位悪魔すら一撃で……。しかも普通待つところを無視して。こ、こやつこそ真の悪魔、本物の外道……。魔王の気がしてならん、い、今のうちにヤっておくべきでは……!!」
そんなことを思ったとかなんとか。
◆◆◆
これはむかしむかしのおはなし。
きょうもどこかであくまたちを、ハンマーでたたくおとがきこえるきょうかいがあるとのことです。
そのきょうかいではたくさんのかわいいどうぶつたちがびくびくしながらくらしていましたとさ。
えー……最近おかしなものばかり勢いで書いてます。
アークラインやら遥か異界でのボツにしたシーンをそのまま流用……。