第7話
「もちろん、すべて無料です」
「っえ、タダなんですか?」
「はい」
「アンケート調査にご協力頂いたお礼です」
「そ、そうですか……」
無料か。それなら断る理由がない。
だけどなあ……。
やっぱりなんかひっかかる。
そもそも無料っていうのが、なんか怪しい。
んん、どうするか……。
「内田様、今回の件なんですが、実はですね、誰にでもご案内しているサービスではないんです」
「っえ、そうなんですか?」
「はい」
若い女は、おもむろに僕の両手をとる。
ごくごく自然に、僕の手を握ったのだ。
「基本的には、アンケート調査にご協力頂いた後、こちらの粗品をお渡しして……」
女は長方形の黒い紙袋から小さな箱を取り出し、それをテーブルの上にのせた。
「お帰り頂いてるんです」
「そうなんですか」
「……」
「……」
「じゃあなぜ、僕は無料で診察を受けることができるんですか?」
女は両手をぎゅっぎゅっとにぎり、そして僕の目を見つめる。
「内田様には、他の人にはない何かがある、他の人とはどこか違う、そんな風に思えたからです。直感です、女の勘です」
おお、おお、近い!
顔が近いぞ!
それに、胸の谷間が見える!
両乳房の間にV字状の空間があ……。
「私は、内田様にもっともっと幸せになってほしいだけなんですッ」
なんだ、この迫力は……。なんかすごいぞ。
信じていいのか……。
この若い女を、僕は信じていいのだろうか。
よし、何事も経験だ。
「――わかりました」
「行きます」
「是非、診察を受けさせてください」
「ありがとうございます!」
あっ、手が離れた。
もっともっと触れていたかったのに……。
まあいいか。
まだ一緒にいるんだし、また機会も巡ってくるだろう。
それにしてもあの胸、柔らかそうだったなぁ。
見た目はけっこう筋肉質なのに、胸は柔らかいのかな。
「内田様、会計を済ませて参りますので、どうぞお先に……」
「わかりました。ごちそうさまです」
扉を開けると、八月の強い陽射しが頭上に降りそそぎ、騒がしい蝉たちの鳴き声が僕の両耳をおおった。
ああ、暑い。なんて暑さだ。
息苦しいほど濃厚に立ちこめた熱気に押し潰されそうになる。
僕はポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。
ふと後ろを振り向くと、ガラス越しに彼女の姿を認めた。
店員から渡されたレシートのような紙と小銭を長財布にしまっている。
店の扉を開け、小走りで僕の近くへ寄り、冷菓のごとく涼しげな声で、「お待たせしましたあ」と優しく微笑んだ彼女は、なんていうか、それはそれは優美であった。