第3話
「申し遅れました」
「わたくし、株式会社ハピネスの野口と申します」
「あ、どうも」
差し出された名刺には女の顔写真が印刷されているほかに、出身地と趣味が添えられていた。
スノーボードねえ、なるほど……。
「会社、けっこう近いんですね」
「っえ、あ、はい。すぐそこの川崎ビルです」
僕は、写真入りの名刺をテーブルの隅にそっと置いた。
「では、さっそく……」
「はいッ」
彼女はコーヒーカップを端に寄せ、空いた中央のスペースにアンケート用紙を丁寧に並べた。
「全部で三枚です」
「設問を順番に読んで頂いて、頭に浮かんだ答えをそのまま、はい、いいえ、どちらでもない、のどれかに置き換えて記入してください」
「わかりました」
「あ、書くもの借りていいですか?」
「失礼しました。どうぞ、お使いください」
ブラックコーヒーを口にふくみ、僕はさっそくアンケートに取り掛かった。
はい、はい、はい、どちらでもない、いいえ、はい、いいえ。
どこにでもある心理テストみたいだな……。
どちらでもない、どちらでもない、はい、はい、いいえ。
時々、ペンがとまり、っん? となるような質問に出くわす。それは明らかに、というか露骨に僕のプライベートを詮索するような内容になっていた。
まあ、なんでもいいか……。
はい、はい、いいえ、はい、はい、署名っと。はい終了。
「あの、書き終わりました」
「ありがとうございます」
にこりと微笑み、女は礼を言う。
本当に、心から嬉しそうな表情である。
「内田様」
「はい?」
「ご回答頂いたアンケートの内容を、確認させて頂いても宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。かまいませんよ」