第22話
「あのさ、ひとつ訊いていいかな?」
「はい、どうぞ」
「この絵の解説って、つまりカウンセリングって、今日の一回だけで終わりなの?」
「……」
「……」
「その、なんていうか、五十万円で一回だけなのかなあって思ってさ」
――なるほど。
この男、完全に私が目当てなんだ。
それなら話が早いッ!
「いえいえ、そんなことはありません」
「え、そうなの?」
「はい」
「内田さんが本当の自分を見つけて、真の心を取り戻すまで定期的にこちらのお宅へ訪問させて頂きます」
「定期的ってどのくらい?」
「今日の次は、いつまた来てくれるの?」
「ええっと……」
「ちょっと待ってください」
がつがつと、この男は……。
さて、なんて答えようか。
私は手帳を開き、空白のページに視線を落とした。
まあ、もう会うこともないわけだし……。
それなら、
「一週間に一度、土曜日か日曜日に必ずお伺い致します」
「週一かあ、なるほど、それなら安心だ」
喜んでる喜んでる。
でれでれしちゃって、ほんっと単純なやつ。
さあ内田、どうする?
「内田さん、いかがでしょうか?」
「あ、うん。いいんじゃないかな」
「本当ですかあ?」
「ほんとほんと。今すぐ契約するよ」
「あ、ありがとうございますッ!」
やった……。
やった。
ついにやったわ!
これで私の勝ちが確定した。
ああ……、よかった。本当によかった。
あとは契約書にサインさせるだけ。
「内田さん、私、会社に報告の電話いれてきますね」
「うん、しておいで」
「その間に、こちらの書類に記入をお願いします」
「はーい」
っふふ、くくっく、くッく。
「内田さん」
「ん?」
「本当にありがとうございます」
「いいって、いいって」
「それより、早く上司に電話してきな」
「はい、そうします」
くくっ、くっ、っく、ふふッ。
玄関のドアを閉めた瞬間、その瞬間、胸のうちに抑えこんでいたあらゆる感情が火山のごとく一気に噴出した。
ふふ、ふふ、ふふふふふっっ。
あっはっははは、ああははっはははははははッ。
馬鹿なやつ、馬鹿なやつ、なんて馬鹿なの。
はっはっはっは、あっはっはははははぁぁぁっ。
――すべて終わった。
もうここにくることも、あんたに会うこともないだろう。
ふふっ、ふふっ、ふふふっ。
あっはっはははぁははっ、はははっはははぁ、ひぃぃぃぃッ。