第21話
「あのさ、ひとつ訊いていいかな?」
「はい、どうぞ」
「この絵の解説って、つまりカウンセリングって、今日の一回だけで終わりなの?」
「……」
「……」
「その、なんていうか、五十万円で一回だけなのかなあって思ってさ」
あゆみは僕の手を握ったまま、きょとんと眼を見開いている。
――まずい。
変に思われたかな。
「いえいえ、そんなことはありません」
「え、そうなの?」
「はい」
「内田さんが本当の自分を見つけて、真の心を取り戻すまで定期的にこちらのお宅へ訪問させて頂きます」
「定期的ってどのくらい?」
「今日の次は、いつまた来てくれるの?」
「ええっと……」
「ちょっと待ってください」
あゆみはバッグから黒い革製の手帳を取り出した。
真剣な目づかいである。
仕事のスケジュールを確認しているのだろうか。
「一週間に一度、土曜日か日曜日に必ずお伺い致します」
「週一かあ、なるほど、それなら安心だ」
やったあああぁぁぁ。
週一であゆみがうちへ来てくれる。
なんてこと、なんていい条件なんだッ!
「内田さん、いかがでしょうか?」
「あ、うん。いいんじゃないかな」
「本当ですかあ?」
「ほんとほんと。今すぐ契約するよ」
「あ、ありがとうございますッ!」
あゆみは、嬉しいっ、と叫びながら僕に抱きついた。
柔らかくて、それでいて張りのある胸がぐいぐいあたる。
ああ、幸せだ。幸せすぎる。
このままずっとずっとこうしていたい。
「内田さん、私、会社に報告の電話いれてきますね」
「うん、しておいで」
「その間にこちらの書類に記入をお願いします」
「はーい」
書類に手をつけようとした瞬間、とんっ、と肩をたたかれた。
「内田さん」
「ん?」
「本当にありがとうございます」
「いいって、いいって」
「それより、早く上司に電話してきな」
「はい、そうします」
あゆみは軽快かつ嬉々とした足取りで、リビングを離れた。
ああ、なんていい身体なんだ……。
長く細い脚、それにあの小さなおしり。
あの身体も、なにもかも、もうじき僕だけのものになるんだ。
ああ、すばらしい、薔薇色の想像が脳内に広がっていく。
年下の彼女か、うん、悪くない。悪くないぞ。
僕はペン先に小さな希望を込め、契約書に捺印し署名した。