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第20話

「けっこう高いねえ……」

「びっくりしちゃったよ」

「そうですよね、やっぱり高いですよね……」

 あんたねえ……。

 平凡なリアクションとらないでよ!

 そんなこと初めからわかってるんだから。

 だって、これは詐欺なのよ? 

 詐欺行為に市場価値も釣り合いも無いの!

 普通の人なら、これが普通じゃなくておかしいことだって、すぐにわかるはずだけど、あんたはどう? 

 高い、とかなんとか言いながらも、いろいろ考えてるじゃない。

 そうよ、あんたは普通じゃないの。

 きっと騙される側の人間なのよ。そうでしょう? 

 先週の土曜日、私に声をかけられて喫茶店までのこのこついてきたあの瞬間からもう、こうなるって決まっていたのよ。

 さあ、どうする? 

 早く決めなさいよ、男でしょ。

「あのさ、野口さん」

「――はい」

「この金額、もう少しどうにかならない?」

「……」

「わかりました」

「ちょっと、上司に相談してみます」

 そうくるかッ!

 まあ、当然といえば当然か。

「一本、電話してきます」


 さあて、どうするかな……。

 玄関の扉を閉め、通路の壁に寄り掛かり、屋根のついた駐輪場を見下ろした。

 時間はちょうど、午後三時を回ったところである。

 ――まったく。

 内田の奴、百万くらいすぐ払えっつの。

 どうせ彼女いないんでしょ? 貯金くらいあるだろ普通。

 ああ、いらいらする……。

 すううぅぅ、はああぁぁ。

 私は胸に手をあて呼吸を整える。

 百万で契約とるのがベストだけど、このまま百万で交渉を続けても埒が明かないし、話が前に進まない。

 それに下手をすると、少し考えさせてほしい、とか言い出しかねないからな、あの優柔不断男はッ! 

 それだけは絶対に避けなくては……。

 私はこの仕事から足を洗いたいの。

 今日ですべてを終わらすの。

 辞めるのよ、あの会社を! 

 だから今日、今、この場で決着をつけないと。

 この次なんてないんだから。

 ――半額。

 よし、これでいこう。五十万で落とすッ!

 私は意を固め、再び戦場へと戻った。


「内田さん、お待たせしました」

「いえいえ」

 半額の五十万。

 これなら文句ないでしょ?

「内田さん」

「はい」

「五十万円で、やらせてもらえませんか?」

 落ちろ、落ちろ、落ちろ!

「内田さん、私はなにもお金が欲しくてお願いしてる訳じゃないんです」

「先日の診察結果を正確に知ってもらい、本当の自分を取り戻して幸せになって欲しいのです」

「……」

「内田さんッ!」

 五十万だぞ、半額にしてやったんだぞ。

「五十万ねえ……」

「はい、五十万円です!」

 内田は苦笑いを浮かべ、んんんん、と唸り視線を床へ向けた。


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