第2話
ああ、私、完全に浮いてるわ。
土曜の昼下りにスーツなんか着て、こんなところで私は一体なにをしているのだろう。目の前を行き交う目的を持った人々に対して、明らかに私ひとり場違いな感じがする。
しかたない。仕事なんだから……。
給料を会社からもらっている以上、こんなのでも一応仕事なんだ。自分で選んだ会社。自分で決めた仕事。バイトでもなく、契約でもない、正真正銘の正社員。
「すみません、アンケートに協力を……」
正社員は正社員だけど、肝心の仕事内容がこれじゃあ洒落になんない。普通に考えれば、誰にだってわかること。これは、歴とした詐欺行為。
詐欺……。他人をだまして、あざむいて、金をとる仕事。正直、
「すみません、今お時間よろしいでしょうか?」
正直、こんな自分が嫌になる。四大卒のこの私が、どう間違えたら詐欺師になるわけ?
ああ、もっと真面目に就活やればよかった。バイトなんか辞めて、三年から計画的に動いていれば、今頃はきっとそこそこ名の知れた企業で有意義な仕事をバリバリしていたはず。
ああ、むかつく。腹立つ。最悪……。
「あの、すみません。アンケートにご協力頂いた方に、こちらの粗品をプレゼントしているんですけど……」
だいたいなんなのよ、あの女社長。『あなたなら、すぐうちの幹部になれるわ。眼を見れば分かるのよ』とかなんとか言っちゃって、馬鹿じゃないの、ほんと。なにが幹部よ、ただの詐欺グループじゃない。
ああ、最悪。ほんっと自分が嫌になる。
こんなろくでもない会社、すぐ辞めたほうがいいに決まってる。契約一本取ったら絶対に辞めてやる。
「すみません、アンケートに協力を……」
だめ、だめ、ぜんっぜんだめ。誰も見向きもしない。
きっと、私のからだ全体から負のオーラが出ているせいだわ。
っん? あの男……。
なんかいけそうな気がする。
見るからに気が弱そうだし、背低いし、それにあの恰好……。
明らかに非モテ系って感じ。
よしっ決めた!
あの男がだめなら、となりの駅に移動しよう。
「――あの、すみません」
「はい?」