第19話
「けっこう高いねえ……」
「びっくりしちゃったよ」
「そうですよね、やっぱり高いですよね……」
あゆみは顔を赤らめ恐縮している。
きっと、あゆみ自身これが高すぎるということを分かっているんだ。
だからこんなにも身を縮めて申し訳なさそうにしているんだ。
ああ、ふびんだ。可哀相なあゆみ。
あゆみはなにも悪くないのに……。
そうだ、悪いのはこの金額を設定したハピネスとかいう会社だ。
あゆみに罪はない。
その証拠に、ほら、こんなに落ち込んでいるじゃないか。
ああ、見てられない。
「あのさ、野口さん」
「――はい」
「この金額、もう少しどうにかならない?」
「……」
「わかりました」
「ちょっと、上司に相談してみます」
あゆみはバッグから携帯電話を取り出し、
「一本、電話してきます」
と言いながら、足早にリビングを出て行った。
ガチャッと、扉の開く音が聞こえる。
僕は立ち上がり、二人分のグラスに新しくお茶を入れるため、キッチンへとまわった。
んんんん……。
あゆみには悪いけど、百万はさすがに無理だな。
もう少し安くなれば話は別だけど。
でもなあ、これを断るとあゆみに会えなくなるかもしれないし……。
どうするか……。
冷水でジャバジャバ顔を洗いながら思案をめぐらす。
――待てよ。
かりに今日契約して支払いに応じたとして、あの謎めいた三枚の絵を彼女に解説してもらって、それで、終わりなのか?
もし、この場で契約を断ったら、たぶんあゆみは帰るだろう。
たとえば僕が契約した場合、あの絵についてあゆみは丁寧に説明してくれるだろうけど、それでもよくて数時間しか一緒に過ごせない……。
ああ、困った。どちらを選択するべきか。
契約するか、あるいは断るか……。
「内田さん、お待たせしました」
「いえいえ」
あゆみは例のごとく僕の隣に腰をおろし、
「内田さん」
と名を呼び、熱のこもったまなざしを僕に向ける。
「はい」
「五十万円で、やらせてもらえませんか?」
おおおおおおっ。
下がった。下がったぞ。半額になった。
「内田さん、私はなにもお金が欲しくてお願いしてる訳じゃないんです」
「先日の診察結果を正確に知ってもらい、本当の自分を取り戻して幸せになって欲しいのです」
「……」
「内田さんッ!」
あゆみは僕の手をにぎり、爆発寸前の恒星みたいな瞳でじっと見つめる。
「五十万ねえ……」
「はい、五十万円ですッ!」
ううう、近い、近いよ。
気を抜くと、がばっと押し倒されてしまいそうだ。