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第18話

「――それで」

「私に訊きたいことというのは……」

「ああ、そうそう」

「これなんだけど」

 内田は三枚の絵をテーブルに並べた。

 間違いない、この絵は私が選定し送ったものだ。

「いやあ、診察結果っていうから、てっきり文章でくると思ってたんだけど、封筒を開けたらこれが出てきてさ、ほんとびっくりしちゃったよ」

 さてさて……。

 ここからは、例のマニュアル通りにやりますか。

「分かりにくい診察結果で、大変申し訳ございません」

 頭を軽く下げ、謙虚さをアピール。

「いやいや」

「野口さんは悪くないよ」

「内田さん、実はですね……」

「弊社のシステム上、とゆうより今のコンピューターの技術性能では、こちらの診察結果を文章として変換することができないんです」

「っえ、そうなの?」

「はい」

「それに、理論的にも人間の無意識の世界や夢の世界を文章や言語に翻訳し視覚化するというのは非常に難しく、やはりこのような抽象画になってしまうのです」

「そうなんですか……」

「本当に、申し訳ございません」

 よしよし、なかなかいい感じ。

 ここでかよわい女を演出する。

「ああ、別にいいっていいって」

「全然気にしてないからさ」

「そういえば、大学時代の友達にこういうのにやたら詳しい奴がいたっけ」

「今度、そいつにこの絵を見せて訊いてみるよ」

「もしかしたら、なにか分かるかもしれないし」

「それでしたら……」

「――え」

 私は立ち上がり、内田のとなりに腰をおろした。

 あの絵を友達に見せる? 

 だめ、だめ、だめ、だめ、そんなの絶対だめ。

 インチキが全部ばれちゃうじゃん!

「それでしたら、是非、私に説明させてくださいッ!」

 私は、是非、に力を込めた。

 この三枚の絵を説明しないと金にならない。

「えっと……」

「野口さん、この三枚の絵、説明できるの?」

「はい、もちろんです」

「会社の研究施設で、しかるべき訓練を受けてますから」

「あ、そうなの」

「はいッ」

 あんなポンチ絵に、そもそも意味なんてない。

 なんの価値もないただの絵よ!

 私の仕事は、マニュアル通りそれっぽく適当に説明するだけ。

「それじゃあ、説明してもらえますか?」

「はい、かしこまりました」

「これで、本当の自分がわかるんだよね?」

「ははっ、なんか楽しみだなあ」

「内田さん、実はですね……」

「なに、どうしたの?」

 とうとうきた、この時が……。

 さあ内田、どうする?

 私のために百万払ってくれる?

「ここからは、その、どうしてもお金がかかるんです」

「え、そうなの?」

「はい」

「私としては、親切で優しい内田さんからお金を頂くなんて、まったく本意ではないのですが、やはり会社の規則を無視するわけには……」

「そ、そうだよね。仕事、だもんね」

「――はい」

「それで、この三枚の絵を解説してもらうのに全部でいくら払えばいいの?」

 私はバッグから契約書類一式の入ったクリアファイルを抜き取り、それをテーブルにのせた。

 あんたに払えるかしら?

 払えるわよね?

「ちょっと見せてもらうよ」

「はい、どうぞ」

 ふふ、ふふふふっ。

 驚いてる驚いてる。

 まあ、無理もないか。

 ――百万。

 あんな嘘くさいちんけな絵を三枚、専門知識や経験もない新人の小娘が説明するだけのサービスに百万。

 あんた払える?

 それとも払えない?

 残念だけど、あんたはきっと払うわよ。

 これはもう、私が決めた宿命論的決定事項なの。

 あんたには悪いけど、あの女社長の生贄になってもらうわ。


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