第15話
「――あれ」
「の、野口さん……」
「こんにちは」
「株式会社ハピネスの野口です」
「ああ、どうも……」
「連絡もせず突然訪問しちゃってすみません」
「実は今日、仕事でたまたま近くに来ておりまして、それで先日のアンケート調査の件で、改めてお礼がしたいと思いまして」
「いえいえ、そんな、わざわざご丁寧に……」
ええぇぇッ。まさかの、まさかのあゆみちゃん出現!
おおっ、すごい汗かいてる。
前髪がおでこにぺたってなってて、なんか、かわいいなあ。
それに、ブラ、ブラ、ブラッ……。
黒い超絶セクシーな下着が汗で透けて見える。
「あのお、内田様、診察結果はもう届きましたか?」
「はい、今日、届きました」
「あ、そういうえば、野口さんッ!」
「――はい」
「実はその件で、ちょっと訊きたいことがあるんですけど……」
「今、少し時間あります?」
「はい、あります、大丈夫です」
「いやあ、よかった」
僕は扉を大きく開け、一歩下がり部屋へあがるよう促した。
「どうぞ、散らかってますけど」
「失礼します」
「その辺てきとうに座ってください。今お茶出しますから」
「はい、ありがとうございます」
僕は素早くキッチンへとまわり、グラスと氷、お茶を二人分用意した。
なんてこと、なんてこと、なんてことだ。
あゆみちゃんが突然僕の家に来るなんて。
これは現実か、それとも夢か……。
奇跡だ、奇跡としか言いようがない。
お茶の入ったグラスをふたつ持ち、リビングに戻った。
あゆみはキョロキョロと部屋の中を見回し、どことなく落ち着かない様子だ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
あゆみは立ったまま、ボーっと棚を見つめている。
その視線の先には、背の高い本棚が二本並んでおり、デザイン性に富んだゲームソフトたちがずらりと整列している。
――まずい。
オタクだと思われてしまう。
「ああ、それね……」
「弟のだよ、全部ね」
「あっ、弟さんがいらっしゃるんですね」
「うん」
「四つ下の弟なんだけど、いわゆるゲームマニアでね」
「うちに遊びに来ると、必ず勝手に置いて帰るんだ。絶対おもしろいから兄貴もやってみて! とかいってね。ははははははははっ」
くそっ、最悪だ、しくじった。
あゆみが来るって事前に分かっていれば、どこかに隠すか移動するかして、こんな失態を演ずることは……。
「内田さん、兄弟仲がいんですね」
「うん、まあねえ」
ん、今なんて? 内田さん?
あれ、様からさんになったぞ……。
これはもしかして、僕たちの心の距離が縮まった証拠じゃないのか。
間違いない、きっとそうだッ!
「あの、座ってもいいですか?」
「ああ、どうぞどうぞ」
あゆみは、ぺたんと女の子座りをして見せた。
ちょうど、テーブル越しに僕と向かい合う恰好になる。
「今日は暑いですねぇ」
と、あゆみは笑みを浮かべ、バッグからチェック柄のハンカチを取り出し、細い首まわりの汗を軽くふいた。
なんて、なんて無防備なんだ……。
胸元はV字に大きく開かれ、汗のおかげで黒いブラジャーが丸見えである。
ああ、あゆみ、エロすぎるよ……。
その美しさで今すぐ僕を殺してくれ。