第13話
きた!
きた、きた、きた、きたああァァ。
株式会社ハピネス。これだ、間違いない。診察結果だ。
僕は白い封筒を集合ポストから回収し、三階まで続く階段を一気に駆け上がった。
朝から三十分おきにポストを確認し、今現在正午過ぎ、七往復目にしてようやく手に入れた。
待ちわびたぞッ!
部屋へもどり、着ていた服をベッドに投げ捨て、ローテーブルの前に腰をおろした。
無論、テーブルのうえには、あゆみちゃんの名刺が置いてある。
僕は両手で白い封筒をつかみ、しばし呼吸を整え瞑想した。
これは、ただの診察結果などではない。
この封筒は口実なのだ。電話を正当化するための材料。
正直、中身がなんであろうと、あまり興味はない。
大切なことは、この診察結果を話のネタに、あゆみちゃんに電話できるという事実、これである。
さっそく封を切り、中身を取り出す。
むむっ、これは……。
一体なんだ?
え、え、絵? 落書き?
ん、なにかの間違えか?
封筒の中には、鉛筆のようなもので薄く描かれた白黒の絵が種類別に三枚入っていた。
三枚……。これだけである。
診察結果はおろか、謝辞や説明文すら入っていない。
なんだこれ、どういうことなんだ。
僕は大いに混乱した……。
とりあえず頭の中をきれいに整理しようと、三枚の絵を手に持ったまま部屋の中をぐるぐるぐるぐるぐると歩き回ってみた。
思い出せ、彼女の言葉を思い出すんだ。
そうか、そういうことか、わかったぞ!
この三枚の絵は、きっと僕自身の夢をあらわしているんだ。
なるほど、心の奥深くに眠る無意識の世界ってわけか。
つまり、この三枚の絵に本当の自分の欲望、願望とやらを知る手がかりが隠されているってわけか。
そうだ、きっとそうに違いない。
謎めいた三枚の絵を解読、解釈することができれば、本当の自分を知ることができる、そういうことなんだよね?
僕は名刺に映るあゆみちゃんに優しく問いかけた。
よしッ!
そうと決まれば話は早い。
さっそく、解読に取りかかろう。
僕はテーブルの中央に名刺を移動させ、それを囲むように三枚の絵を並べた。
一の絵 美しい天使の羽に、男? がぶら下がっている。
二の絵 開かれた大きな絵本の中に、女? が頭から飛び込もうとしている。
三の絵 不気味な黒い渦に、人の影がたくさん描かれている。
んんんんん、これは、なんとも言えないぞ……。
非常に具体的でわかりやすい絵もあれば、抽象的で一体なにを表現しているのかさっぱりわからない絵もある。
それにこの絵、これは一体なんなんだ……。
どこが中心なんだ? どう見ればいんだ?
んん……。やっぱり難しいな。さっぱりわからん。
そもそも、絵心のない素人の僕がいくら考えてみても、わかるはずがない。それらに関する知識すら無いのだから。
だいだい、こんな意味のわからない三枚の絵で、本当の自分とやらがわかるものなのか?
心っていうのは、こんなにも単純なものなのか?
よし、保留だ。いったん保留にしよう。
飯食った後で、もう一度じっくり考えて……。
「ピン、ポン」
チャイムが鳴った。誰かがドアの前にいる。
誰だ? 宅配か?
なんにも頼んだ覚えはないぞ。
「ピン、ポン」
また、鳴った。
しつこいな……。
さては、NHK受信料の徴収員か?
誰が出るかッ!
僕は床に寝そべり、目をつむった。
「ピン、ポン。ピン、ポン。ピン、ポン」
おおおっ、なんだこいつ、しつこいぞ。何者だ?
「ピン、ポン」
「ドンドン、ドンドン」
おおっ、叩いてる。
扉を叩いてるよこいつ。
怖ええぇぇ……。
僕は起き上がり、急いで洋服を着た。
「ピン、ポン。ピン、ポン」
「ドン、ドン」
「はーい、今開けまーす」
よし、待ってろよ。今、開けてやる。
どんな野郎か、顔を拝んでやるぞ。




