第1話
「あのぉ、すみません……」
「はい?」
「今、お時間よろしいでしょうか?」
「えっと、な、な、なんですか」
僕は足をとめ、突如目の前に現れた女に目線を奪われた。
「お急ぎのところ、引きとめてしまい申し訳ございません」
「――はあ」
「もしよろしければ、アンケート調査にご協力いただけませんでしょうか?」
若い女は黒色のバイダーを両手で胸に抱え、僕の眼を真っ直ぐ見つめる。
「アンケートですか……」
「はい。五分程度で終わる簡単なものです」
「あの、それって、どういった内容のものなんですか?」
「簡単に申し上げますと、幸福度調査、というものです」
「こうふくど?」
「はい。政府の認可を受けた公式な調査でして、国民ひとりひとりの生活満足度、つまり主観的な幸福感を調査するアンケートでございます」
女は目をギラギラと輝かせ、自信に満ちた声で説明した。
「そうですか……」
「わかりました」
「ありがとうございます!」
「ただし、できるだけ手短にお願いします」
「かしこまりました」
「それでは、えっと……」
若い女はキョロキョロと周囲を見回し、なにやら探している様子。
「では、あちらのお店で」
と言い、女は軽く頭をさげる。
カツカツ、カツカツ、カツカツ、若い女はテンポよくバス停の向かいに見える喫茶店らしき建物へと歩を進めた。
僕は少し距離をあけて歩き、半袖ブラウスから透けて見える水色のブラジャーを眺めながら女のあとを追った。