1章『幼少期』執事長の嘘
どうしてこうなった。
考えろ。
考えて考えてそれでもだめならその時は無心になるんだ。
視界の先に強烈な一撃が放たれる。
避ける、いや受けるべきだ。
「っつ」
手首に強い衝撃が走った。
同時に握る木刀に力が入る。
「ってぇーくそ~なんでこんなことに」
遡る事15分前、執事たちが使う訓練場にやってきたのは数人の執事見習いだった。
5分後、その数は増え20人くらいに膨れ上がった。
その又5分後、20人は50人になり訓練場のイスはほぼ満席となっていた。
そして4分後、立ち見する執事たちの姿も見えるようになる。
「これから何が始まるんだ?」
「何かイベントでもあるの?」
「さっき聞いたんだけど、ルカ君とアルイス坊ちゃまが決闘するらしいよ?」
決闘って何だ。
俺もしかして決闘することになってるのか?
いやいやそんなはずはない。
だって俺ちゃんといったよな? 稽古をするから紹介状を持ってきたんで紹介して
って言ったよね。うん、言った。絶対言ったよ。
なのになんで決闘?
マジでどうなってるわけさ
それになんだこの続々集まってくる連中は
なんでここが知れてるわけ?
あぁぁ、わけわかんない~。
俺が心の叫びを叫んでいる時、彼は俺の前に現れた。
ふさふさの真っ赤な髪に青色の瞳。
くせ毛がいい感じに髪を乱している雰囲気の良い少年だった。
声を欠けるべきか迷っている間に、相手から声がかかる。
「えっと……僕はルカ・ディアル・ミンクスと申します。アルイス様の決闘を受けるように
執事長から命令されてここに来ました。でも、命令されたからやるんじゃなくて
えっと……前からアルイス様とは戦って見たくてえっと……本当に戦いたく思ってて
うまく言えないけど嬉しいです」
緊張しているのかそれとも嬉しすぎて震えているのか、それはわからなかった。
ただ、想像していた人柄と全然違っていて少し拍子抜けしていた。
俺が想像していたのは目がつり上がっていて、睨みを利かすと誰だって逃げていくようなヤクザさん体質の人で、こんな人見知りのオドオド少年だとは思ってもみなかった。
この子なら勝てるかも
そんな浅はかな考えさえ俺の頭をよぎる。
行ける、行ける気がする。
こんな奴に俺が負けるわけ無いじゃん。
簡単簡単、いつもの様に剣を降ってればきっと勝てる。
妹にも負けかけた俺の剣の腕だけど、きっと勝てる。
そうさ、俺は強い。俺には父さんの血が流れているんだ。
剣聖の血だ。
2歳年上だからって怯えることは無い。
こんな奴に俺が負けるわけないじゃん!
それが1分前の出来事。
そして現在、試合開始の合図と共に、一刀が俺の木刀にあたった。
その瞬間、頭のなかをかけていた愚かな俺の妄想が華々しく砕け散る。
重っも!
っておい! なんだこりゃーかなり一発が重たいじゃんか~!
どこからそんなパワー引き出されてんだよ……
おれはなんとか一発目は耐えることができた。
だが、二発目を受け止める自身は無い。
自ずとやることは限られてくる。
「っと」
「僕の一撃を止める……すごい」
なにやら相手は感動している様子。今がチャンスと剣を前へ出した。
しかし、軽くいなされてしまう。熟練した剣士はその一太刀で力量を図ることが
できると言われている。
熟練した剣士でなくてもわかることあるんだな~俺より何倍もこいつ強い。
剣を降る早さ、反応速度、対応能力。全てにおいて俺は負けている。
俺は数歩下がってまた考えを巡らせた。
今の俺には受け流すよりも避けることに集中したほうが良さそうだ。
よければあの力強い一撃を受け止めなくてもいい。痛くないし、避けた途端に
隙をついて一刀を叩き込める可能性だってある。 避けれればいいことずくめだ。
だが、避けることに失敗すればその場であの強烈な一撃を食らうことになる。
当たれば痛いんだろうな。痣とかできちゃうよきっと、でも今は
それぐらいしか手が無いんだよな。
やるしか無い、今は避けてカウンターをすることだけを考えよう。
俺は息を深く吸い込んで相手の動きから目を離さないようにした。
しばらくのにらみ合いの中、ようやく相手が動く。
俺も同時に後ろへ避ける算段をつける。
それは本当に一瞬で終わった。
俺が背後に飛んだ瞬間、俺の腹に針のように鋭利なキレの良い一撃が
吸い込まれていくのが見えた。同時に腹を激痛が襲い、俺は数歩後ろへのけぞるようにして吹っ飛んだ。 同時に力が抜けたように俺は地面に倒れこんだ。
「す、すみません」
「ばーか~何ぼっちゃんに本気出してんだよ」
「つい勢いで……」
「お前ヘタしたら首にされんぞ……」
「ど、どうしよう……僕とんでもないこ……」
俺はそんな声を聞きながら数秒で意識を失った。
俺が目を覚ましたのはそれから数分のことであった。
「いやぁー強いね~ルカ君は」
「そんな~僕なんかまだまだですよ~」
「いやぁー強いよ~」
俺は腹を氷で冷やしながら、半笑いでルカにそういった。
じんじんと痛む腹の痛み、圧倒的な実力の差で俺はまけた。
人柄だけじゃ剣の腕は測れないってことが今日十二分に分かった気がする。
執事見習いでこの強さなら執事たちの強さって途方も無いものな気がした。
父さんと執事長ってどっちが強いのかな……やっぱ父さんだよね。
そ、そうだよね。はは、ははは。
白目でフリーズする俺を心配そうに見つめる赤毛の少年。
それを壁越しから眺める白銀の髪の青い瞳した12歳くらいの
青年が赤毛の男に言った。
「謝っとけよ? ホント土下座とかしないと本気で首になるぜ?」
その言葉にあわてて地面に膝をついて頭を下げるルカ。
俺は慌ててそれを静止する。
「やめてくれよ。アレは正当な決闘だったと思うし、僕の剣がまだ未熟だったから
ルカくんの剣をいなすことさえ出来ずにやられちゃったわけだし、いくら2歳年上で
執事だからって手加減とかしてくれなくて返ってよかったともうし、ルカ君には何の罪もないよ~」
白目の状態で口をパクパクしながら言った。
その表情を見てルカくんは更に頭を何度もの下げてきた。
相当俺の顔が激しく激動しているように見えたのだろう。
内心ではかなり別にそんなことは思ってはいな、いなんて事はいわない。
執事ならもっと手加減してくれたってよかったと想う。仮にも俺は屋敷の坊ちゃまなんだからさ、それに執事たちの前で失態を魅せつける結末にするなんて、執事として最低だと
俺はおもっちゃったりしてるわけで、でもそんなこと俺は言わない。
社会人たるもの忍耐が大切だからね。俺は作り笑顔を浮かべて言う。
「もう本当に大丈夫だからさ」
「ほ、本当に?」
「うん」
深刻な顔のままルカは大きく溜息をついた。
その姿を白銀の髪の男が言う。
「いい坊ちゃまで良かったな。普通ならお前、速攻解雇処分にされるところだ
本当にいい主だよ」
透き通るような綺麗な声。
「そういえば君は誰?」
銀髪の男にいうと、
「私は見習い執事のルエル・クローガーと申します。ルカとは同期で
この馬鹿に何度か面倒に巻き込まれたことがって、いわゆる腐れ縁てやつです
かね、私のあとしますをするはめになるわけですが、それが本当に大変なんですよ」
そうルエルは語った。
それがルエル・クローガーならびにルカ・ディアル・ミンクスとの出会いだった。
俺はしばらく彼らに愚痴をこぼした後、自室へと戻った。