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1章『幼少期』執事長と不良

 

 元来、家とは住みやすいもので無くてはならない。 

 無論、バーナード家の屋敷がその条件に当てはまらないわけではないが妹や俺

 父や母、それらが住まうにはあまりにも大きく使われていない部屋も多かった。

 

 何より6つの区間でわけているのがいっそ面倒にさせる。

 屋敷は六角形状に作られ建物と建物を長い通路で結んだような作りだ。

 誰が好き好んでこんなものを作ったのか知らないが本当に面倒な建物を作ってくれた。

 

 屋敷が作られた当初は中庭へ続く道すらもなく不便さがより際立っていたとか、この屋敷を管理している執事やメイドたちにとっては地獄の日々であっただろう。

 

 俺はそんなことを考えながら、執事たちやメイドたちの住み込みスペースとして

 開放されている西の建物へと入った。

 

 一見して他の建物と同じように見えるが、この場所は見習いから熟練者まで様々な人間が住み込みで存在し日々技術の進歩に身を捧げている場所である。言うなれば専門学校に近い役割を果たしているといえるだろう。

 

 部屋のあちこちで女性や男性の声が聞こえてくる。

 しかし部屋それぞれに女性と男性できっちりわけられ男性は黒服

 女性は白服の特殊な服を着ていた。

 

 一室に一人先生と思しき人物が執事服、あるいはメイド服を身につけている。


「本当に学校みたいだな~そう思わないかい? 兵士さん」

 

 すぐ後ろを歩く赤色の軍服を着た男にそう言うと

 男は表情を一つ変えずに俺に言った。


「私は傭兵上がりの兵士なので学校という場所には行ったことが無いのです」

「そうなんだ……」

「はい」

「なんか悪いこと聞いちゃったな~ごめんね」

「お気になさらず」


 男は無表情のままにそういった。

 

 俺の生まれた世界では義務教育が徹底され中学校までは国が学問の保証をしている。しかしこの世界ではそんな保証は無いのだ。

 

 俺は自分の浅はかさを反省しながら無言のまま通路を進む。

 

 間もなくして執事長室の前に到達した。

 二度のノックと共に中へと入る。

 

「失礼します」


 部屋の中心にはソファーがありすぐ前にはテーブルがあった。

 上にはコーヒーカップとスプーンが置かれ湯気をゆらゆらと揺らせていた。

 だが、部屋の主らしき人物は見当たらなかった。


「あれ? いな……」

 

 そう口に仕掛けた瞬間扉のすぐ脇から声があがる。


「やはりそのお声はアルイス坊ちゃまでしたか」

 

 その声に驚いて俺の心拍数が跳ね上がた。

 同時に目の前に湧いて出てきた初老の男性を見て

 我に返るかのようにして息を整えた。


「あぁ~驚いた……いるならいるって言ってよね? びっくりして

心臓が止まりそうになりましたよ」

「それはそれはお気の毒に」

「っておい! コーヒー飲みながらお気の毒に、とか言うんじゃな~い!」

 

 初老の男はまたいつの間にか移動してコーヒーを美味しそうに飲んでいた。

 白髪でしかし黒服をきっちり着こなしている男。

 それはいつも目にする執事長の姿そのものだった。


「ところで、このような場所になんの御用でしょうか?」

 

 人前で足を組みながら、コーヒーを飲む男はそう言って細い眼で眺めてくる。 

 俺はそんな男にローランドからもらった紹介状を手に取ってテーブルにそっと乗せた。 

 

「これは?」

「ローランドさんに書いてもらった紹介状です」

「紹介状? 執事の試験でも受けるおつもりですか?」

「いや---僕のではなくて、とある人物を僕に紹介してほしいという紙です」

「なるほど」

 

 そう言って男はコーヒーカップをテーブルに置くと、紹介状を手に取った。

 

「これはルカ君の事ですね」

「ルカ君?」

「えぇ、間違いありません。これは見習い執事ルカのことですね。

 そうですか……アルイス坊ちゃまは稽古をご所望で」

「えっと、今すぐにでも稽古をやりたいんですが、可能ですか?」

「構いませんよ。すぐにでも手配しましょう」

「本当ですか? ありがとうございます。これで暇つぶ、いや稽古ができます!」

 

 男は再びコーヒーカップを手に取り一口、二口とコーヒーを飲み干す勢いで口にする。

 そして満足気に息を吐き出すと白銀の瞳で男は俺を見据えた。


「それでは我々が訓練によく使っている訓練場に来るように指示を出しておきます」

「訓練場……ですか?」

「あぁ~これはすみません。アルイス坊ちゃまは訓練所の場所を知りませんでしたね」


 執事長はそう言うとソファーの後部にあった机の上から小さな鈴を手に取ると軽く鳴らした。

 風鈴のような、どこか心が落ち着くような音色を奏でるそれを俺は眺めて、


「一体なんなんですか? それ」

「あぁ、これですか? これは私が用事があるとき使う鈴です」

「用事があるときに使う鈴?」

「はい、通称---執事呼びの鈴」

「もしかしてそれを鳴らしたら執事が召喚されるってわけじゃありませんよね?」

 

 執事長は頬をゆるめ、言う。


「そんな便利な魔法道具ではありません。これはただの鈴です」

「そ、そうなんですか……」

 

 俺はちょとだけ残念な気持ちになった。そんな簡単に魔法なんて代物に出会えるわけも無いのだが。

 気落ちしていると、背後で声が上がった。その声は兵士の声ではなく、若い青年の声だった。


「呼んだか クソ執事長様」


 振り返るとホストのような容姿をした美男子が立っていた。

 

 きちんと整えられた髪にシャキっとした執事服。手には白色の手袋がはめられ

 肌は白く美しい。男である俺が惚れぼれするような容姿の持ち主だった。

 俺にそっちの気があるわけではなく、本当に綺麗な顔した男だと思った。


「来たか、無駄なく仕事をしているお前には時間が有り余って仕方ないだろうから、これからアルイス坊ちゃまを訓練場に連れて行ってくれ」


 男は黄金色の瞳で睨みつけるように言う。


「あんたが自分で案内すればいいだろ? 俺をわざわざ呼び出して何のつもりだ。俺は忙しんだよ。ガキどもの面倒など誰が見るか」

 

 灰色の髪を片手で掻き揚げながら冷めた瞳で執事長を眺める。


「いいから早くご案内しろ、これ以上なめた口聞くと給料減らすぞ」

「……んだぁとこらぁ~」

 

 本当に執事なのかこの人人を噛み殺しそうな目に、執事らしからぬ口調、主の息子である俺に対してだってガキ扱い……ぜったい普通じゃない。

 

 俺がそんな風に思っている最中も討論は続く。


「5日分の給料カットな」

「ふざけんな爺!」

「10日分の給料カット」

「おい爺、本当にぶっ殺すぞ!」

「25日分の給料カット」

「ちょっとまてよ~!そこは15日だろ! なんでいきなり25日分なんだよ! ふざけんな」

「これ以上私に逆らうのであれば、残り5日の給料も無しにするぞ? いいのか?」

 

 最後の執事長の言葉に男はまゆを何度不自然に痙攣させながら、小さくこうつぶやいた。


「い、いいだろう。案内してやる。ついて来いガキ」

 

 そう言って男は反転して執事長に背を向けた。

 同時に手でついてくるように促した。

 

「あ、はい。それでは失礼します」

 

 そう言って部屋を出て行った。

 男の後をついていくと、男は歩きながら執事長の愚痴をこぼし、結局訓練場につくまでそのぼやきは続いた。 男は案内を終えると何も言わずにどこかへ行ってしまった。


「あれで本当に執事やってるのかな……でも仕事はできるみたいなこと執事長が言っていたような……人は見かけによらないんだな~愛想はすごく悪いけどね……やっぱり」

 

 俺はそんなことをいいながら訓練所を見渡した。

 

 足元は茶色の土が敷かれ、その周りには木製の囲いが置かれていた。

 囲いの外には疎らに人形に近い丁寧に作りこまれた木人形が置かれ

 それらを見渡すようにして段々にして職人の技で精密に作られたイスが並んでいた。

 まるで小さな闘技場を思わせる風景が広がっている。

 俺が使っている稽古場とは比較にならないほどの設備と言えた。

 

 俺の稽古場には誰が作った定かでない木製の人形とボロボロになった

 木の柱が置かれているだけだった。言うなればゴミだ。本当にゴミみたいな物を叩いて 叩いて、本当に今にもぶっ壊れそうな人形が稽古場には置かれていた。

 設備だけでも完全に本堂にある稽古場は負けている。


「いいなぁ~」

 

 思わず俺はそう口に漏らす。それからまもなくしてその空間に来園者が現れた。

 

 


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