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第3部 軍議(後半)


―――――佐和山城大広間―――――

 ここに集まった者たちにより、今後の方針を決めるべく軍議が進められていた。

 その前半で、現在の戦力や物資の状況などの確認、そして各々の居住区域の区割りや城内の守備の持ち場などを一通り決定すると、その議題はいよいよ悠の国に関するものに移っていった。


 「今我々がいるこの場所は、三成殿の言っていた悠の国ということで間違いないのであろうか?」

 「うむ、それは間違いないであろう」

 正家の確認するような口調に、三成が断言するように頷いた。


 「先ほど格子より外を眺めてみたが、どう見ても今まで佐和山から見てきた景色ではなかった。それに我らが関ヶ原を戦った時の季節は秋。今、表の景色を見れば春か夏のように感じる。それに左近が言っていたように、この城は佐和山城でない。これだけでもここが日の本ではないことは分かるというもの」

 三成の言葉に皆が頷く。


 「ふむ…、そうなるとまずは今我らがいる場所がどこなのかを確認する必要がありそうだな」

 吉継が顎に手を当てつつ呟くと、勝猛が三成の後ろから発言の許可を求める。


 「刑部少輔様の御言葉ご尤もでございます。実は某、先ほど城内の確認をしたときに書庫の中からこのようなものを発見いたしましてございます」

 そういうと勝猛は畳3畳分ほどあろうかという一本の掛け軸のようなものを、諸将の座の中心に広げた。


 「これは…、地図でござるか?島殿?」

 為広がその広げられた物を覗き込みながら勝猛に尋ねる。


 「は!左様でございます。おそらくではございますが、悠の国の国土を記したものと思われます」

 勝猛が言うように、それは明らかに地図であった。そしてそこに記されていたものは明らかに前世の日の本とは異なった形をしていた。

 まず、国土が北部・中央部・南部と大きく3つに分かれており、其々の間には狭い海峡が走っている。

 最も大きいのが中央部である。南北に長い形をしており、北側には山地が多く南側に行くほど平野部が多くなっているような印象を受ける。

 次に南部である。ここは九州と似たような形をしており、陸を東西に分断するように縦に山脈が走っている。ただ、桜島のようなものはない。

 そして北部である。形は西海道(四国)に似ているが、あまり山地は多くはなく西端と東端に南北に小さな山脈が走っている程度であった。そして特に注目すべきは、その西端の山脈の西側麓辺りに小さく凸の印が付けられていた事であった。


 「これは…、これが佐和山城なのか?」

 公郷がその凸の印を見て呟く。

 「おそらくは。他に城や村などを表す印が全く書かれていないことを考えれば、それで間違いないと存じます」

 公郷の疑問に、勝猛が頷きながら答える。

 「うむ。そうするとこの城は東側の山脈を背にし、西側を向いて建っていると考えるのが自然だな」

 三成が地図を覗き込みながら言い、

 「そのようだな。ではここから西側に向かえば海に出るという事か」

 吉継が三成の言葉を補足するように言葉を繋いだ。


 その後、現在の自分たちの場所を大まかにでも確認できたことで軍議は大きく進んでいく。

 まず決まったことは、この城の周辺の地形や村落等の有無を確認することである。これには北側・西側・南側にそれぞれ偵察隊を出してみることになった。

 そして次に、この城の防御態勢について再度見直すこととなった。確かに城の造りや防御拠点である曲輪や櫓などの配置は当時の佐和山城とほぼ同じであったが、念のため城が建っている山中の確認などを確認し、手が薄そうな場所には新たな曲輪などを新設することになった。なお城の呼び名は、今までと同じ佐和山城と呼ばれることが正式に決まった。



―――――佐和山城大手門―――――


 「それでは行って参ります!」

 公郷はそう言うと、三成や吉継、正家に僅かに頭を下げた。

 「小野木殿・平塚殿・戸田殿、くれぐれも無理をなされぬよう」

 正家が目の前の3人に言葉を掛ける。


 今回、佐和山城周辺の偵察に、小野木公郷・平塚為広・戸田勝成の3人がそれぞれの手勢を引き連れて向かうことになった。

 小野木公郷が、手勢100騎を引き連れて佐和山城西部方面を。

 平塚為広・戸田勝成が各々の手勢50騎を引き連れ、北部・南部方面それぞれを偵察することとなった。


 「よし!では参るぞ!!」

 為広が馬上から己の手勢のに下知を飛ばすと、北へと向かい馬を走らせ始めた。そしてそれに倣うように、公郷・勝成もそれぞれ手勢を率いて偵察へ向かっていった。



―――――佐和山城北部―――――


 「者共とまれー!」

 佐和山城を出立して5里(約20㎞ほど)あまり進んだ地点で、為広は進軍の停止を命じる。

 その理由は、目の前に巨大な湿原が広がっていたからである。


 「ほお、これは良いな」

 為広は馬から下りると、近くを流れていた小川から水を掬い口に含むと、思わず呟いた。

 その水は非常に冷たく澄んだものであり、長時間馬に揺られてきた為広にはとても美味に感じられた。


 「よし!ここで休止を取るぞ!」

 兵たちにそう命じると、為広は手近にあった平たい岩の上に腰を下した。しかし何が起こってもいい様、一部の兵に周囲の警戒をさせることは忘れない。


 どうやら目の前の湿原は東側の山脈から流れ出た湧水や、大小の川が合流して形成されたようであった。その証拠に、水の流れは山脈のある東側から湿原地帯に入り込み、そして海があるであろう西側に向かって幾筋かの川となって流れ出ていた。


 「しかし…、人が入った形跡はなさそうじゃな」

 竹筒に入れた小川の水を口にしながら為広は呟いた。


 湿原の周囲には、人の丈以上の高さに育った大量の葦≪アシ≫のような植物が自生しており、まったく刈り取られた形跡がない。また、湿原付近の平地には耕作に適した土地が多数あることが確認できるにも関わらず、耕された様子を見ることも出来なかった。


 「土地の開墾は儂よりも石田殿や長束殿の領分であろう。それにしてもこの葦のようなものは…、使えるやもしれんな」

 そう呟くと、為広は控えていた供回りの兵に葦を一本引き抜いてくるように命じる。そして運ばれてきた葦を手に取り、自分の予想が間違いでないことを確信する。

 元々葦は、簾の材料や家の屋根などの建築資材・更には燃料や肥料・そして少々質は落ちるが紙の原料として広く使われており、前世ではその利用用途の広さから葦の採取には税が課せられていた程であった。そして、ここに自生している葦は今まで人の手が入っていなかったこともあり、よく育っており質もかなり良さそうである。


 「よし!休止が終わり次第葦を少々刈り取って行くぞ!あと、弓の扱いが上手いものは近くで食糧になりそうな獣を狩っておけ!」

 そう命じると、竹筒に残った水をグイッと一気に飲み干すのであった。

 







最後までお読みいただきありがとうございます。

本当であればもう少し早く投稿しようと思っていたのですが、書き終わった内容を確認していたところ、前回の内容と丸々被って書いてしまった部分があり、修正するのに時間がかかってしまいました。

無理やり繋げたため内容に無理が出ている部分がるかもしれません。


誤字脱字・誤文などございましたら、ぜひお知らせください。


またよろしくお願いします。

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