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第1部 集い

「…むぅ………」

 耳元で囁くように聞こえる雀の鳴き声に、三成は目を覚ました。

 

 「ここは…?」

 周囲をグルリと見渡し、ここがどこなのか考える。

 自分は関ヶ原の戦の後、傷ついた身体を必死に引き摺りながら山

の中を歩き回り、そしてどこかも分からない岩窟の中に身を潜めて

いた筈であった。

 そしてそこで、天照大御神の遣いと言うアゲハという名の少女と

出会い、そしてどこか分からない場所へと導かれ、姿の見えぬ神と

対面?させられた。

 そこまでは何となく覚えている。

 しかし、そうすると今自分がいる場所があまりにも不自然であった。


 三成が倒れていた場所は、岩窟でも一面純白の世界でもなかった。

 そこは…、


 「儂の部屋ではないのか…」

 三成が身体を横にしていた場所、そこは三成にとって見慣れた己の

部屋によく似ていた。

 実直な三成の性格を表すように、飾り付けが殆どなく殺風景であり

ながら、常に領内の運営や奉行としての仕事が出来るよう、機能的に

造られた部屋であった。

 しかし、そこに三成は本来あるはずのない物を目にする。


 「これが神樹の若木、とやらか…」

 一本の自分の腰回り程度の長さの若木の苗。

 これが、三成にとってこれまでの出来事が夢でなかったということを

物語っていた。


 「すると…、ここが悠の国なのか…?」

 誰に言うでもなく呟き、立ち上がろうとしたとき。

 部屋の外の廊下を勢いよく走ってくる足音が聞こえ、そちらを振り向いた。


 「殿!御無事でございますか!?」

 勢いよく障子を開けて姿を現した男を目にし、思わず三成の表情が緩む。


 「おう、左近か。お主と再び会えたこと、嬉しく思うぞ」

 その男の名は、島 勝猛。通称、左近。

 石田家の筆頭家老にして、三成の家臣団の中でも随一の戦上手である。

 その勇名は天下に轟いており「三成に過ぎたるものが2つある。島の左近と

佐和山の城」と言われるほどの存在であった。

 そして三成と勝猛との間には、主君と家臣以上の信頼関係が築かれており、

親友以上の盟友と呼んでも差し支えない程であった。


 「流石は左近だな、主ならば間違いなく来てくれると信じておったぞ」

 そう言ってニヤリと笑った三成であったが、ふと真顔に戻り、左近の顔を

ジッと見つめる。


 「左近、お主…、少々若くなったのではないか?」

 目の前の勝猛の姿に、三成は違和感を感じていた。

 関ヶ原の戦の時、勝猛は既に齢60に達していたはずであった。

 しかし、目の前にいる姿はどう見てもそこまでの齢には感じられない。

 20後半ほどの、まさに働き盛りの好青年と見た目であった。


 「ははは、その様子ではお気づきではないのですかな?殿、某の目が節穴で

無ければ、今の殿の御姿も十分お若く見えますぞ」

 そう笑い飛ばしながら、勝猛は三成の前にドカリと腰を下ろす。


 慌てて近くにあった水桶で己の姿を見た三成は、その姿が齢20どころか、

主君である豊臣秀吉と初めて出会った頃の10代後半程になっていることに

驚いた。


 「う~む、どうやら儂もお主も、大分齢を戻して貰ったようじゃのう」

 そう思うと、身体が今までと比べて非常に軽くなったように感じる2人で

あった。


 「しかし殿、再びこのように相見えることが出来たこと、嬉しく思いまするぞ」

 勝猛が口調を改め、三成に対して胡坐を掻くように座ると、深く腰を曲げて

礼をとった。

 左近---島 勝猛は関ヶ原の合戦の際は石田三成勢の前衛として、激しく

東軍の軍勢との戦を展開した。そして、圧倒的に戦力で勝る東軍を押し返すほどの

勢いを見せていたが、何者かによって鉄砲により狙撃され、命を落としたのだった。


 「しかし…、お主がいるということは、他にも誰かおるのか?」

 勝猛がいたことで自信が出てきたのか、三成は他に誰が共に悠の国へ来たのかを

問いかけた。


 「ハッ、もちろんおられます!しかし、それは某の口から申し上げるより、実際に

ご覧になられた方が宜しいかと思われまする。皆、大広間に御集りになってございま

す!」

 勝猛の言葉に、三成は大きく目を見開く。


 「何と!皆、と言うことは1人2人ではないという事か!?こうしてはおれん!

左近!急ぎ参るぞ、着いて参れ!」

 「ハッ!」

 言うが早いか、三成は勝猛を従えると急ぎ大広間へと向かった。




---大広間---


 「おお!治部少輔殿、お目覚めになられたか」

 「うむ、石田殿も我らと同じく若返っておられた様子」

 「やはり、我らを呼んだ張本人がおられねば話が進まぬ、さあさあ、早う掛けられよ」


 大広間に入った三成に、そこに集っていた者たちから一斉に声が掛けられる。

 「おお、大蔵殿!縫殿助殿!それに摂津守殿!来て下さったのですか!」


 大蔵殿---長束大蔵大輔正家。石田三成と同じく豊臣家五奉行の一人。

    算術の天才で、財政・検地などの豊臣政権の天下統治を担ってきた

    人物である。

 縫殿助殿---小野木縫殿助公郷。秀吉旗下の黄母衣衆から福知山城主にまで

    なった武将。文武両面に優れ、小牧長久手の戦・小田原攻城戦に参加し

    武功を立てる一方で、福知山の安定した運営にも尽力した。

    正室が、島 勝猛の娘であることから三成との関係も深い。

 摂津守---小西摂津守行長。商人出身でありながら舟奉行として豊臣水軍を率    いる。朝鮮出兵では、速攻戦で漢城・平壌を陥落させるなど活躍する一方    で、三成らと共に、早期の講和に向けた和平交渉にあたるなど、外交官と    しも活躍した。


 「しかし、関ヶ原で敗れたと思えば、いきなり異世界でござるか…、未だに信じられん」

 「左様左様、小早川の小倅の軍勢に呑み込まれたと思ったら、いきなり天照大御神様を

を名乗る声が聞こえ、石田殿が呼んでいるから異世界へ来いと言われたときは、我ながら

気が触れたと思いましたぞ」


 「戸田武蔵守殿、平塚因幡守殿、関ヶ原の戦では儂の不手際で誠に申し訳ないことをい

たした。いくら詫びても足りるものではないと心得ておるが、どうか許してほしい…」

 前の3人と比べて一際体躯の大きな2人が三成に声を掛けてくると、三成は深く頭を

下げた。


 戸田武蔵守---戸田武蔵守勝成。元は丹羽家の家臣であったが後に豊臣家に仕     える。

     小田原征伐や九州征伐で武功を上げる武功者であると同時に、伏見城

     の普請を担当するなど築城の名人でもある。

     関ヶ原では、損得抜きで三成の意志に賛同して参加した数少ない人物。


 平塚因幡守---平塚因幡守為広。秀吉の馬廻出身で、戸田勝成と同じく小田原     征伐九州征伐などで武功を上げる。長年の忠勤が認められ秀吉直        属の護衛を任されるほどの忠義に厚い人物。


 「ふふふ…、だが流石は佐吉と言ったところか、神の願いを聞く代わりに豊臣の安泰を

条件に突きつけるとはな。余人ならば、神が直接目の前に現れようものなら、声すらも

出せずに卒倒しそうなものだがな」


 そして、三成と同い年くらいの整った顔立ちの青年から声を掛けられると、三成は足を

止め、そして思わず眼に涙を溜めながら声を詰まらせた。


 「紀之介…、やはりお主も来てくれたか…。」


 紀之介---大谷刑部少輔吉継。通称・紀之介。三成と共に秀吉の小姓衆とし       て、歩んできた「刎頸の友」と呼べる親友。秀吉から「百万の兵を率      いさせてみたい」と言われた軍才の持ち主であると同時に、敦賀城主      として民政にも力を発揮し、文武の天才と呼ばれた人物。


 「こら佐吉、いきなり泣くでないわ。私はこの通り生きておる。むしろ病が癒えたおかげで

前よりずっと調子が良いわ」

 自分の事で涙を流してくれた友に、若干の面映ゆさを感じながら、吉継は明るく三成に声を掛けた。


 「うむ…。しかし…よくぞこれだけ人数が来てくれたものじゃな」

 改めて大広間に集まった者たちを見回して呟く。

 『誰一人として来なかったらどうするか…』そんな不安すら覚えていた三成にとって

これだけの者たちが集まったことが信じられなかったのだ。


 「もちろん佐吉、お主の友情だけで儂らとて来た訳ではないぞ」

 三成の呟きに、集まった者たちを代表して吉継が答える。


 「お主が神をも味方に引き込んで豊家を守ろうとしたこと、ここにいる

皆が知っておる。そして、ここにいる者たちは豊臣家家臣として忠義を貫

いてきた者たちばかり。三成、お主の事、我らは尊敬しておるのだぞ?」

 そして、と告げ


 「そのお主が豊家を守る条件に神に信託を受けたと聞いたならば、その

お主を守るために参ることは、豊臣家に忠義を尽くす家臣として当然のこ

とであろう」

 吉継の言葉に、三成は再び涙を流しそうになった。

 三成の豊臣家への忠義を分かってくれた者がいる。そう言ってもらえた

ことでこれまでの苦労が報われたような気がしたのだ。


 「まぁ、しかしそればかりでも無いのじゃがな」

 そこに公郷が、小さく苦笑いを浮かべながら言う。


 「もちろん大谷殿の申されたこともある。じゃが儂はこの異世界にある

という悠の国に興味があってのう。何じゃかとても楽しそうではないか。

神の信託など誰しもが受けられるものではないからのう。石田殿、儂はむ

しろこのような楽しそうなことに混ぜてくれたことを感謝しておる」

 気軽な様子で公郷がいうと、勝成・為広などは同じだとばかりに頷いて

見せた。


 「そういう訳だ、佐吉。お主は何も気に病むことも驚くこともない。ただ

やるべきと思うことをやれば良い。儂らはお主の同志として、それを力の限り

支えていくつもりじゃ」

 締めるように吉継が言い切る。


 その言葉に、三成は大きく頷く。

 「うむ、相分かった」

 そして、広間にいる者たち全員を見回すと…、


 「よろしくお願いいたす」

 深く頭を下げたのだった。



最後までお読みいただき、

ありがとうございます。


ここから悠の国に入ります。

主要な登場人物の紹介も兼ねた部です。


誤字・脱字や誤文などございましたら、

ぜひご指摘ください。

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