第3部 異界という存在
一面純白に彩られた世界に、三成は立っていた。
隠れ家である岩窟を田中吉政の手勢に囲まれた三成は、アゲハが
時を止め三成の命を永らえさせることを条件に、天照大御神の話を
聞くことに渋々ながら同意した。
そして、そのために三成はアゲハに言われた通りに静かに目を瞑り
その場に胡坐をかくように座り込んだ。
そして数秒もたたないうちに目を開けるようアゲハから促されると、
今までの見慣れた岩窟の景色は消え去り、見渡す限り純白に彩られた
世界にたった一人ポツンと佇んでいた。
(黄泉の世か…?)
一瞬のうちに全くの異界のような場所に連れて来られたにも関わらず
三成は不思議と落ち着いていた。
確かにここがどこか分からないことへの多少の不安は無くはないが、
恐怖や焦燥は感じてはいなかった。
(まあ、本当に神とやらが来るのであれば、いきなり捕って喰われるということもあるまい…)
(---三成殿)
そのようなことを考えていると、不意に自分の名を呼ばれたような
気がし、思わず周囲を見渡す。
しかし、一面相変わらず真っ白な世界が広がっており、自分以外には
誰の姿も見えない。
(---三成殿)
また聞こえた。
今度はより注意深く周囲を見渡すが、やはり誰の姿も見えない。
そして気づく。
(---三成殿)
耳からではなく、直接頭の中に響く自分を呼ぶ声に。
(---三成殿、私の言葉が聞こえますか?)
いくら周囲を見渡しても、その声の主の姿を見ることは出来ない。
しかしその声は若い女の声のようだが、不思議と気持ちの落ち着く
温かみを感じさせるものだった。
「…うむ、石田治部少輔三成と申す。そなたがアゲハの言っておった天照大御神か?」
神かもしれないであろう相手を呼び捨てにしながら、三成は堂々と答える。
(はい、私が天照大御神と申します)
クスリ、そんな小さな笑声と共に相手‘天照大御神’は言葉を紡ぐ
(そしてここは、私の住まうべき世、神界です)
「神界?ほう、黄泉の世ではないのか…。と言うことは少なくとも
アゲハは約束は守ってくれたということか」
黄泉の世と言うのであれば自分は既に死んでいる。
しかし神界と言うことであれば、少なくとも今自分は死んではいないと
いうことだろう。
あくまでも、今のところはであるが。
(このようなところまでお越しいただいたこと、感謝いたします)
礼の言葉が聞こえた。
(そしてお願いがございます。どうか私の願いをお聞きいただけないでしょうか?)
続けて、静かにそして切実な言葉が頭に響いた。
「ふむ、しかし…、伊勢の主ともあろうお方が、儂のような一介の
人間に頼みとは…」
未だに三成は信じられないとばかりに、右手で顎をなぞる様に触りながら答える。
神とあれば万物の創造者であり、森羅万象を司りし存在である。
一人間である自分に、神の手助けが出来るようなことがあるのか?
まして自分は、神々を信仰してきた神主や宮司ではない。
そんな疑問を感じずにはいられなかった。
(三成殿の疑問はごもっともなことです。ですがご理解ください。
神であるが故に私にはどうすることも出来ないことがあるということを)
「神であるが故に…?」
(三成殿、私たち神たる存在の生みの親、伊邪那岐・伊邪那美のことを
ご存知でしょうか?)
不意に問い掛けられ、三成は僅かに首を捻る。
「伊邪那岐と伊邪那美…。確かこの日の本を創造せし存在だったかな?
そしてこの世の八百万の神々の生みの親…」
元々神々に対する信仰心が篤い訳ではない三成は当たり障りのない答えを返す。
(それで間違いはございません。ですがそれだけでもございません)
僅かに含みを持たせた答えを返し、
(2人が御造りになったものは日の本と八百万の神々、そしてもう一つの日の本なのです)
本当であれば、もうすでに異世界に飛んでいる予定でした。
書きたいことはある、しかし言葉・表現にできない。
開始早々に苦しんでいます。