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第2部 神からの使い

「驚かせてしまい、申し訳ございません」

申し訳なさそうに深々と頭を下げる童に、三成は狐につままれたような表情を向ける。

齢は10を少し超えたくらいだろうか。白粉をはたいた様な綺麗な頬を僅かに紅く染め、

細く小柄な身体をきちんと整えられた巫女装束に包んだ少女が、三成の前に立っていた。


「お主、一体ここで何をしておる?いや、寧ろいつの間にここに入り込んだ?」

三成は当然の疑問を、目の前に巫女装束の少女に言う。

この岩窟の入り口は一つだけ。すなわち、自分の後ろにいたということは自分の目の前を通ってきた

筈なのだ。

しかし、先ほど目覚めたばかりとはいえ誰かが入ってきた気配など感じなかった。

仮に寝ている間に入り込んだとしても追手に備えて気を張っての睡眠である、全く気付かない

とは考えづらい。

「とするならば・・・」

一つの可能性を思い浮かべ、思わず三成は身構える。

「お主、忍びか?」

表情を険しいものに変え、少女を睨む。

目の前の少女を、自分を捕えるために敵方が放った密偵・忍び者と考えたのだ。


「え?忍び?」

三成の言葉に、少女は少し前の申し訳なさそうな表情から、今度は小首を僅かに傾げキョトンとした表情を浮かべる。

そして、

「私は‘シノビ’ではございません。私は‘アゲハ’と申します」

こう返してきた。

「なに・・・?」

あまりにも予想を超えた答えに、三成の表情が今度は呆れた様なものに変わる。

嘘をついているにしてはあまりにも下手すぎる、というより飛んでいる。

‘忍び’を自らの呼び名と勘違いするなど、誰が想像するだろうか。

また少なくとも忍びを知らない者を、三成は知らない。

いくら目の前にいる者が年端もいかぬ少女とはいえ、甲賀・伊賀を初めとする忍び者の話を

全く知らないとは思えなかった。

そんな三成の戸惑いを余所に、少女は続ける。


「石田様、私はあなた様に天照大御神様の御言葉をお伝えするために参りました」

そう言うと今度は、静かに、そして恭しくアゲハと名乗った少女は三成に頭を垂れた。


「天照大御神?」

「はい、私の主‘天照大御神’様が石田様に是非お願したき儀があります故、是非一度お話をお聞きいただきたいのです」

頭を垂れたままアゲハが言葉を紡ぎ、それに三成は半ば呆気にとられる。

そもそも、この少女は何を言っているのか分からない。

「・・・アホらしい」

思わずポツリとこぼす。

天照大御神はその名の通り伊勢神宮に祀られている神のことであろう。そして目の前の少女アゲハは、自らのことをその神の使いと言っている。そして、そのアゲハが自分の目の前に現れた理由は、なんと天照大御神が自分に頼みたいことがあるから、とのことらしい。

とてもではないが、いきなりこの話を信じろという方が無理というものだ。


「すまぬが、儂は神を信じぬ。それにもし仮にお主の言うとおり神がいるとして、儂のような一介の人間に一体何を頼むというのだ?」

世の理・森羅万象を司る神たる存在が、一人間に物を頼むなど聞いたことがない。

そして何より、

「儂はこれより大坂に参り、もう一度兵を整え戦わねばならん」

まだ三成はこの戦いを諦めたわけではない。

関ヶ原では確かに惨敗したが、まだ自分は生きている。そして生きているうちは、何度でも徳川家の前に立ちふさがってみせる。そのために是が非でも大坂まで落ち延びねばならないと考えていた。

とてもではないが、神からの頼みなどという冗談にもならないような話に付き合ってはいられなかった。


「・・・残念ですが、石田様の命運はすでに消えかけております」

しかしそのような三成の気持ちを打ち砕くようにアゲハが語りかける。

「な!何を言うかと思えば!!戯けたことを申す出ない!!」

アゲハの言葉に三成は顔を赤く染めて声を荒げる。死ぬのが怖い訳ではない。今自分が死んでしまえば、豊臣家が徳川家に滅ぼされる。その事を何よりも恐れているのだ。

「儂は何としても大坂に参らねばならん!豊臣家の安泰こそが儂にとっての何より優先すべきこと。天照大御神の願いなど聞いている暇はない!」

そう言い放つと、三成は岩窟の外に歩き出し・・・、そして言葉を失う。

この岩窟を取り囲むように大勢の兵たちが各々の得物(武器)を手に待ち構えていたからだ。

旗印は、関ヶ原で戦った田中吉政のものである。

しかし、彼らは全く動こうとしない。ただ一点を見つめジッとしているだけである。

「今、時を止めております」

背後からアゲハの静かな声が響く。

「しかしもし、石田様が私の話を信じて下さらないのであれば・・・、やむを得ません」

静かな、そして今までとは打って変わって冷たい口調でアゲハが言葉を続ける。


「むぅ・・・!」

仮に今、アゲハの言った通りにこの者たちが動き出したなら自分は助かる術はない。

すでに敗戦から数日間、ほとんど飲まず喰わずで歩き続けたうえ、目立つからと太刀も甲冑も全て途中置いてきてしまった。

今の三成は弱り果てた文字通りの丸腰だった。


「・・・儂にどうしろと言うのだ」

僅かに迷ったのち、三成は呻くように呟いた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

文章の構成や文体の不備・誤字脱字などあると思いますが、

もしお気づきのことがございましたら、ぜひご指摘ください。


書きたいことを文章にすることの難しさを、僅か2部で実感しております。

少しずつでも前に進んでいければと考えておりますので、また次回以降よろしく

お願いいたします。

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