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第12部 国造りの討議

 ルファス侯国軍との衝突から1月後。


 戦後処理を終え、占領した砦に小野木公郷を守将とする小野木勢500を残すと、三成を始めとする他の者たちは佐和山へと戻ってきていた。

 今回の戦で佐和山南部に砦(改め山辺城(やまべじょう))という拠点を確保できたことで、佐和山城周辺がある程度安全地帯になったと判断できたため、いよいよ城下町の整備を始めとする領地経営に力を入れることにしたためである。


 そして今、佐和山城の築かれている山の麓では城へと続く大通りの整備と、城下町の住人になる者たちのための住居の建設が大急ぎで進められている。


 「山より切り出した木材は加工しやすい様、一か所に纏めて集めておけ!板も柱も足りておらん、加工場にもっと人を入れてドンドン木を削り出させろ!」

 大工衆の責任者を務める男が手下の者たちに指示を出しつつ、自らも住居となる長屋の建築に精を出している。


 「棟梁!屋根に()くための(あし)が足りませぬ!」

 「ならば長束様の手の者に聞いて参れ!北の湿地からの資材調達は長束勢が担当しておる」


 「棟梁申し訳ございませぬ!思いのほか平らな土地が少ないため整地に手間取り、通りの整備も長屋・屋敷の建設も遅れております!」

 「元々が人の手の入っておらぬ土地故、多少は仕方あるまい。あと、整地作業で出た土や砂利は集めておけ!土塀や壁を塗るのに利用できよう」


 「あの・・・」

 「ん?」


 部下の大工衆と大声でやり取りをしている責任者の男に、オズオズといった感じで声を掛ける者がいた。


 「こ、こんな感じでよろしいのでしょうか・・・?」


 そう言うと一枚の木の板を男に差し出してきた。


 「お?おお!そうだそうだ!これぐらいの厚さで丁度良い!早速この板と同じものを大量に削り出してくれ、頼むぞ」


 注文通りの板の出来に満足そうに頷くと、板を差し出した小柄なコボルドが嬉しそうに微笑むと小走りで木材の加工をしている作業場へと駆けていく。


 佐和山城の新たな城下町は、同じく佐和山の新たな住人となるコボルト族の力を合わせて急ピッチで進められていたのであった。



---佐和山城大広間---


 普段は軍議を行うための大広間に、その日は現在進行している城下町の整備計画を始めとする内政問題を話し合うべく石田三成・長束正家・小西行長の3人が集まっていた。

 そして目の前に広げられた計画書や資材の見積書、そして計画の見取り図などを確認しつつ、各々の意見をぶつけ合っている。


 「湿地帯からの(あし)の調達は今のところ順調に進んでいる。木材の切り出しも近場の山中に質の良い木々が豊富にある故、輸送に多少の時間が掛かれど概ね計画通りですな」

 資材の調達を主に担当している正家が、手元にある資料を確認しつつ言う。


 「城下町の整備作業も概ね堅調に進行しています。土地の整地作業などに若干手間取ることはあるものの、住居の建設や必要な建築資材の加工は想像以上に進んでいる様子です」

 整備・建設現場を主に担当する行長も、自身の目で確認した内容と当初の計画とに大きな齟齬が生じていないことにややホッとしつつ言葉を発する。


 「うむ、これもコボルト族の力を得られたことが大きいな。大工衆の者たちの話を聞くに手先が器用で資材の加工や住居の建設に大きく貢献してくれているそうだ」

 計画全体の責任者としての立場である三成も笑みを浮かべつつ、2人の話に頷く。




 ルファス侯国軍を撃退し佐和山城に帰城する道中、三成はコボルト族の集落に自ら足を運び、集落の長であるトクに佐和山城下へのコボルト族の移住を提案したのである。


 当初、コボルト族討滅に派遣されたルファス侯国を初めとしたベレンシア大陸連合から逃れるため、西夷国から避難する意思を三成に伝えていたトクであったが、結局のところ既に悠の国のほぼ全域がベレンシア大陸連合に抑えられており、この北州においても集落を構えている西夷国以外の地はルファス侯国の影響下に置かれていた。更に、北州に渡る際に使用した粗末な小型船も手元に残っていない以上は北州そのものからの脱出も不可能であった。

 既に逃げることも叶わない状況に思い至り、更にコボルト族の集落を最初に尋ねその境遇に深い同情を寄せていた戸田勝成の熱心な口添えもあり、コボルト族の佐和山城下への移住が実現することになったのであった。


 もちろん三成としては、完全な善意ばかりで今回の移住を提案した訳ではない。


 以前トクの娘であるハクから聴かされた余りにも厳し過ぎる悠の国の現状が、三成を始めとする佐和山の首脳部に大きな衝撃を与えていた。


 ハクから聴かされた話がすべて真実であるとするならば、悠の国を守護するという天照大御神との約定を果たす上で、悠の国を占領したベレンシア大陸連合諸国と三成たちは間違いなく敵対することとなる。むしろ、大陸連合諸国の一角であるルファス侯国と刃を交えている以上、既に敵対していると言ってもいい。


 しかし三成たちには、そのベレンシア大陸連合と対峙するための軍事力・内政力・外交力・情報力等の国力が絶対的に不足している。

 現状では三成が関ヶ原合戦の為に佐和山城に備蓄し、天照大御神がそれに加えて用意してくれた軍事物資や食料・資材などがあるため今日明日で窮にすることもないが、何もしなければやがてそれらの物資は食い潰してしまうことは間違いなく、早急に国力の強化を図ることが急務であった。


 そしてその国力強化を図る一環として三成が行ったことがコボルト族の取り込み、もといコボルト族を領民としてその支配下に置くことだったのである。



 「領民としてコボルト族を組み入れることが出来たのは確かに大きかったですな。人数は集落にいた者で300人程でしたが、今の我らには貴重な存在と言っていいでしょう」

 正家が相好(そうごう)を崩して言う。


 「うむ、これも(ひとえ)にトク殿とハク殿が集落の者たちを説得して回ってくれたため、お二人には誠に感謝いたす」

 三成も穏やかな笑顔で大広間の端に控えていたコボルト族の長であるトクとハクに声を掛ける。


 すると2人は恐縮そうにやや俯く。

 「いえいえ、とんでも御座いません。寧ろ行き場を失った我々に新たな居場所を御造りいただき、本当にありがたいことでございます」

 隣に控えているハクも小さく頷き、トクの言葉を肯定する。


 因みに、トクは引き続き城下に住まうことになったコボルト達の長としてその纏め役を担うことになり、コボルト達の中で最も博識であり文字の読み書きも問題なくこなすことが出来るハクは十数名の女子のコボルと共に佐和山城に雇われることとなった。


 「しかしコボルト族が農地の開墾まで出来るとは、正直私には予想外と言いますか…」

 そう言いながら行長が若干の苦笑いを浮かべる。

 北部の湿地帯周囲では、建築資材として葦の刈り取り作業と並行して水田や耕作地の開拓が進められており、その現場においてもコボルト達が力を発揮していた。その光景を目にした行長は、本来肉食のイメージが強い犬の姿をしたコボルトが稲や野菜を育てている姿を思い描き、今一つ似合わないと感じていた。


 「小西様、私たちは確かに悠の国では犬族と呼ばれておりますが、食に関してはほぼ人と変わりはございません」

 ハクがやんわりと自分たちが普通の犬と同じイメージを持たれるのは心外だと行長に告げ、それに行長はややバツが悪そうに更に苦笑いを浮かべると頭を掻いた。


 「ハク殿、ハク殿、摂津守(せっつのかみ)殿には決して他意はございませぬ。それと話は変わりますが、捕虜300の処遇については現状のまま当面山中からの木材の切り出しに従事してもらうということで宜しいですかな?」

 ハクと行長の間に入りつつ、正家が捕虜の処遇について確認してくる。


 山辺城から引き上げる際、吉継から捕虜の処遇について丸投げされた三成と正家は、当面は捕虜奴隷として城下町整備の労働力に当てることに決めた。当初は奴隷とすることに三成や行長は反対したが、かと言って敵兵である以上コボルト族と同格の領民としての身分を与える訳にはいかない。更には解放しても再度自分たちに刃を向けてくる可能性を考えると現実的ではない旨を正家に指摘され、結局は奴隷とすることで意見は落ち着いた。もちろん三成は、奴隷に対する虐待や劣悪すぎる環境での使役を禁止する指令を出しており、厳しい労働と監視下に置かれつつも奴隷となった者たちにはある程度の衣食住と安全は保障されていた。


 「それでいいだろう。あと現状ではあまりコボルト族と捕虜たちが過度に接触しないよう、現場を明確に分けておいた方が無難だろう」

 「承知した」

 「それと城周囲への狼煙台(のろしだい)の設置はどうなってますかな?」

 「それは山辺城に入った縫殿助(ぬいのすけ)殿が佐和山城との間から順次設置していく手筈ですな」

 「資材の調達については?」

 「あくまで資材の調達加工は佐和山で一括で行い、山辺城へは加工済み資材を荷馬車で搬入いたします。数少ない職人や大工衆を分けるは得策ではない故…」

 「街道の整備はいかがいたしますか?」

 「とてもではないが手数が足りん。土地が平らなのが幸いだが、雨でも降れば移動が難しくなるかもしれない。出来るだけ急ぎ手を付けたいところだが…」


 とにかくやるべきことが多い、と言わんばかりにいつの間にか自分たちの事もそっちの気で話し始めた三成・正家・行長の様子に、その場に呼ばれていたトクもハクも呆気に取られた表情になる。


 「いやはや何と言いますか…、皆様誠にお若いのによくぞそこまで難しいことをお考えになりますな…」


 トクがポツリと零した一言に、3人ともキョトンとした表情を浮かべる。


 「はて?何かおかしいことを申しましたかな?僭越ながら皆様方、まだハクと差ほど年端は変わらないとお見受けしましたが…?」

 トクが言うと、ハクもやや不思議そうに3人を見つめる。


 「あ~、まぁ何と申しますか…」

 お互いの顔に視線を向けつつ行長が曖昧な表情を受べ、三成も正家も思わずといった様子で苦笑を浮かべる。

 3人とも前世では既に30代後半であり、年寄りとは言わないが決して若くもない年齢であった。しかし悠の国に転生後は一様に若返ったようであり、どう見ても10代半ばといった見た目をしていた。


 (そう言えば口調も態度も徐々に年相応になってきた様な気もするな…)


 何の気なしにそんなことを思っていた三成であったが、トク達の視線を感じ改めて真面目な表情を作る。


 「我らは皆、とあるお方に国造りとは何たるかを一から叩き込まれてきたのだ。トク殿、それからすればまだこの程度のことは序の口でしてな」

 三成の言葉に、他の2人も笑みを浮かべつつ頷く。


 「国造り…、でございますか?一体そのお方は…」

 どなたでございますか?と問い掛けようとして、言葉を飲み込む。


 (深い詮索は無用)


 目の前の3人、特に三成の表情がそれを物語っていることをトクもハクも敏感に感じたのである。


 「まあトク殿、ハク殿。そのうちお話しすることもあるかもしれません。それまでの楽しみと思っていてください」

 行長がやんわりと話を切るように言う。


 そして改めてこれからの方針について、トクやハクの意見も交えつつ討議を再開するのであった。



久々の投稿です。


文字数が少なく、内容も物足りないですが、次回から最低文字数5000文字を目指して投稿したいと思います。

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