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四章 再戦!怪盗ノーフェイス!(5)

 ぐったりとした大沢は目覚める気配がない。魔術を使えても肉体は常人と変わらないのが〝術士〟だ。これが相楽とかだったら遠慮なく攻撃できたのだが、悔しいことに手が出せなくなってしまった。

 前衛である稜真が守らないといけなかったのに……。

「コラァー! 人質なんて怪盗がすることじゃないデスヨ!」

「怪盗なんて人間がすることじゃねえがな」

「こんな時にブーメランしないでクルッち!?」

 今枝と侠加が漫才している間にもノーフェイスは一歩ずつ黒水晶へと近づいてくる。味方の応援を期待したいが、なにかトラブルでもあったのかまだ駆けつける気配がない。

「大沢を放せ――って言っても聞いてくれないよな?」

「……」

 せっかく取った人質をなにもせず解放するような馬鹿はいない。日本でのボディガード時代に何度か人質を救出したことはあるが、その相手はだいたいが常人だった。非常人は己の力に自信を持っていることが多く、人質を取るような行動は余程追い詰められでもしない限りはない。

 怪盗ノーフェイスは稜真たち基準では非常人の領域だ。加えてなにをしてくるかもわからないトリッキーさを持っている。そこに人質までいては迂闊に手を出せない。

 説得は無意味。

 なにか手は――

「おい、てめえらちょっと聞け」

 と、こんな状況なのに落ち着いた様子の今枝がノーフェイスから目を逸らさず囁いた。

「ウチは元公安零課だ。人質を取った犯人なんて腐るほど見てきた」

「まあ、クルッちはそうだろうけど……」

「手があるのか?」

 稜真が小声で訊ねると、今枝はニヤリと口角を吊り上げた。

「あるもなにもウチの能力を前に人質なんて無意味だろ」

 ハッとする。今枝の念動力はなにかを動かしていない限り不可視だ。犯人から人質だけを引き剥がすことなど造作もないだろう。最強のステルス・エントリーである。

「だが、奴も馬鹿じゃない。ウチのことは最大限に警戒してやがる。少しでも予兆を捉えられたらアウトだ」

「じゃあ、どうするんデスヨ?」

「てめえらが奴の気を引け」

「どうやって?」

「なんでもいい。攻撃と思われなきゃいいんだ。そうだな、突然裸踊りでもすりゃ奴も怯むだろ」

「頭おかしくなったと思われるな。間違いなく」

 人質のためなら恥など捨ててもいいが、裸踊りをやるなら稜真一人だろう。一応かろうじて恐らくは女性かもしれない可能性のある侠加にさせるわけにはいかない。

「一瞬でいい。その後はウチがなんとかしてやる」

 絶対の自信を感じさせる今枝は、物凄く頼もしく見えた。

「リョウマっち、打ち合わせてる時間ないからアドリブで合わせて」

「え? 裸踊りをか?」

「野郎の裸なんて見たくないデスヨ」

「お、おう」

 なにをするかわからないが、侠加が一歩前に出たので稜真をそれに続く。警戒したノーフェイスは歩を止めて大沢のこめかみに指を強く押しつけた。

 侠加がすぅーっと空気を吸い込む。

 そして――


「侠加ちゃんとリョウマっちのショートコント! 学校!」

「!?」


 本当に打ち合わせなんてなかったからぎょっとする稜真。アドリブは苦手だから合わせられるか不安になってくる。

「……」

 ノーフェイスは無言。稜真たちがなにをする気かわからないといった様子だが、即座に大沢を殺そうとはしない。悪くない反応だ。

 ショートコントが始まる。テーマは『学校』だったな。


「キンコンカンコーン! 今日は休日です」

「学校が主題なのに休日かよ!?」

「授業を始めまーす」

「休日だよな!?」

「リンゴが3つ、ミカンが2つあります。たかしくんが198円のバナナを買い足そうと時速50kmで歩いて出かけました」

「くっそ速いなたかしくん!?」

「ですが途中で信号無視したトラックに撥ねられ、たかしくんは異世界に転生しました」

「たかしくん!?」

「ちなみに転生したのはトラックを運転していた方のたかしくんです」

「紛らわしい!? てか元のたかしくん絶対〝超人〟だろ!?」

「この時の点Pの感情を答えなさい」

「わかるかぁあッ!? もうええわ!?」

「はい、チャンチャン」



 しーん。



 地下なのに冷たい風が吹き抜けていく感覚に襲われる。上手くツッコミできたと思っていたが、稜真は羞恥で死にそうになった。

「……」

 ノーフェイスも沈黙。無表情。ピクリとも表情筋は動いていない。

 だが――


「死ぬほど寒かったがいい隙を作ってくれた!」


 今枝が念動力でまずノーフェイスの腕を弾き、大沢をこちらへと引き寄せる。さらに追撃でノーフェイスの身体を背後の壁まで吹き飛ばした。

「――ッ!?」

 壁が陥没するほどの威力で叩きつけられたノーフェイスは、バタリとその場に崩れ落ちる。

 ピクピクンと痙攣するノーフェイス。けっこうなダメージを与えられたようだが、なんとも腑に落ちない展開だ。

「えっと、こんなお馬鹿な勝ち方でいいのか……?」

 アレほど苦戦していたのに、と稜真は毒気を抜かれてしまった。

 と――

「ん?」

 なにかが空中で青く光った。

「……まずい」

 まだ意識のあったノーフェイスがバッと顔を起こす。放物線を描いてこちらに飛んできているアレは、ノーフェイスがルルンの街で盗んだ青真珠だ。

 このままの軌道では黒水晶と衝突してしまう。


「……君たちそこを離れろ!」


 ノーフェイスが初めて叫んだ。


 次の瞬間――ピカァアアアアアアアアアアッ!


 衝突した青真珠と黒水晶が、凄まじく強烈な禍々しい光を放った。


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