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四章 再戦!怪盗ノーフェイス!(4)

 紗々の姿が深い霧に包まれる。

 その霧はすぐに晴れたが、そこには紗々ではなく白面レーシングスーツ――先程まで侠加が変身していた怪盗ノーフェイスと同じ姿があった。

 今度は本物だ。そして、ここからが本番だ。

「さっき偽物にした質問を改めてするぞ。お前は『睡蓮の黒水晶』を盗んでどうするつもりだ?」

「……」

 稜真が質問するが、やはりノーフェイスは答えない。だがその代わりにゆっくりと片手を自分の仮面へと持っていく。

 なんの模様もない真っ白な仮面は外され、夜色の瞳をした整った女性の顔が現れた。艶やかで綺麗な黒髪。なにを考えているのか読めない無表情。思わず見とれてしまいそうなミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 仮面を外した意味も不明だ。本気を出す、ということだろうか?

「……勇者」

 まるで鈴を転がしたような澄んだ声が彼女の口から紡がれた。

「……お前たちが真に勇者であるならば、その問いに答える必要はない」

「どういう意味だ?」

「……答える必要はない。守ってみせろ、勇者」

 ノーフェイスが五人に分身する。アレは実態ある幻というだけではなく、破壊するとなにかしらの魔法が発動する初見殺しの罠だ。最初の戦闘で相楽たちはこれにやられていた。

 知ったからと言って油断もできない。逆に警戒しすぎた隙を突かれる可能性もある。いきなりこの手を使ってきたということは、ノーフェイスも本気のようだ。

「魔法に気をつけろ! 破壊する時は充分に距離を取るんだ!」

 稜真の指示に全員が頷き返す。五人のノーフェイスは三々五々に散ると、様々な角度から同時に黒水晶を狙ってきた。

「盗らせるかよ!」

 今枝が黒水晶の周囲に念動力のバリアを張る。弾かれたノーフェイス五人は猫のような軽やかさで着地するが――全員の頭上から強烈な水流が落ちてきた。

 大沢の魔術だ。水圧で動きを封じることが狙い。悪くないタイミングだったが、身体能力の高いノーフェイスには僅かに掠っただけでかわされてしまった。

「ああ、惜しい!」

「ヒカリっちはそのまま奇襲を狙って!」

 飛び退いたノーフェイスの一人に侠加が切迫。大きく振り上げた右足が鋭い大鎌へと変身する。ノーフェイスは魔法で氷の盾を生成してそれを防いだ。

 分身自体が魔法を使うことはない。ということは、奴が本体のようだ。

「侠加は本体を引きつけてくれ! 今枝は黒水晶の防衛! 大沢は適宜魔術で援護を! 分身は俺が処理する!」

「ガッテン承知の助デスヨ!」

「言われなくてもやってるよ!」

「任せて霧生くん!」

 分身は四体。その全員が稜真を狙ってくれるなら簡単だが、それぞれが自分の意思を持っているかのようにバラバラに動き回っている。

 先に潰すべきは……防衛の要である今枝を襲撃しようとしている奴だ。

 稜真は自身を吹き飛ばすように床を蹴る。瞬時に今枝と分身の間に割って入ると、左手の拳銃の銃口を向けて引き金を引く。

 乾いた発砲音と同時に分身が後ろへと下がった。だが、発砲音は二つ。一つは避けられたが、もう一つの弾丸は奴が避ける先を予想して撃ち込んでいた。

 結果、眉間に直撃する。

 破壊された分身を中心に巨大な氷の花が開花するが、一発目の牽制で距離を取らせていたため被害はゼロだ。

「次!」

 分身が一体やられたことで他の二体が稜真を挟撃する。左右から放たれる鋭く重い拳打と蹴打を日本刀と拳銃で防いで受け流し、分身のバランスが崩れたところに回し蹴りを放って大きく吹き飛ばした。

 空中で体勢を立て直す分身の一体が銃弾で撃ち抜かれる。もう一体には稜真自身が切迫し、すり抜け様に日本刀を一閃して両断した。

 水柱が噴き上げ、青い魔弾が花火のように爆発する。

 だが、仕込んでいた魔法は稜真たちに届かない。

 同じ手はくらわない。

 だから――

「全員気をつけろ!」

 稜真は叫ぶ。周囲一帯に不自然すぎる霧が発生していた。分身が戦っている間に大がかりな魔法を準備する。迎賓館で戦った時もそうだった。

 霧が渦巻き、凍てつき、雹の嵐となって稜真たちを襲う。

 常人なら一瞬で挽肉にされてしまいそうな威力。しかし、常人ではない稜真たちは異能や魔術、超人的身体能力で凍てつく暴力を見事に防ぎ切った。

 無論、防いだだけじゃない。

「とぉおおりゃあああああああッ!!」

 空気に変身していた侠加が嵐を利用してノーフェイス本体の背後に回り込み、腕を巨人のように変えてその無防備な背中を殴り潰したのだ。

 床に減り込んだノーフェイスの本体が――砕け散る。

「およ?」

 間抜けた声を上げる侠加の目の前で、冷気が爆発した。白い靄が一瞬にして侠加の身体を呑み込む。

「魔法が仕込まれていた!? 奴が本体じゃなかったのか!?」

「チッ、魔法を使って防御したのはブラフだってことかよ……」

 稜真と今枝は周囲を警戒しつつ分身だと思っていたもう一体を探す。侠加の心配は、たぶんしなくても大丈夫だ。あの程度でやられる奴じゃない。

 と――

「うわっ!?」

 大沢の悲鳴が上がった。

「大沢!?」

 見ると、気絶させられたらしく脱力する大沢のこめかみに、ノーフェイスが銃の形にした指を突きつけていた。

「……動くな」

 人質を取ったノーフェイスが、冷酷にそう命じた。


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