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四章 再戦!怪盗ノーフェイス!(3)

 部屋の壁を蹴って走り回る怪盗ノーフェイスを、稜真は拳銃で威嚇しながら追従する。相手からの反撃はない。様子見しているということだろう。

「どいてろ霧生!」

 今枝が念動力で固めた空気の槍を射出。ノーフェイスはギリギリまで引きつけてからそれらをかわすと、一気に跳躍して黒水晶へと手を伸ばした。

 だが、そこに水柱が噴き上がる。

「させないよ!」

 スマートフォンを握った大沢が電脳魔術で術式を発動させたのだ。怪盗ノーフェイスは水柱に弾かれてやむなく距離を取った。

 すかさず紗々が爪を立てるが、それも見切っていたようにノーフェイスは再び疾走して回避する。

「怪盗ノーフェイス! お前は『睡蓮の黒水晶』を盗んでどうするつもりだ! これは魔王の力の結晶だぞ! まさか魔王復活のために必要だとか言わないだろうな!」

 拳銃で牽制しつつ稜真は訊ねた。返答がどうあれ絶対に守り抜くことは決定事項であるが、もし稜真の言った通りのことを考えているのならノーフェイス自体も見逃すわけにはいかなくなる。

「……」

 ノーフェイスは答えない。

「まあ、そりゃだんまりだよな」

 拳銃を発砲。弾丸を跳躍で飛びかわしたノーフェイスに稜真は日本刀の刃を閃かせる。だがそれも虚空を切り裂くだけで終わった。

「なんで避けてばかりで反撃しないんだろう?」

「ハン、ウチらを舐めてんだろ」

「……にゃ」

 大沢の術も、今枝の念動力も、紗々の爪も悉くかわされる。こちらが疲労するのを待っているのか、それとも別の狙いがあるのか。

「やりにくいな」

 稜真は立ち止まり、ノーフェイスを目で追っていく。ここには護衛しなければならない『睡蓮の黒水晶』がある。かわされるのは雑に攻撃を仕掛けることが難しいからだ。それをわかっているためか、ノーフェイスは黒水晶を盾にするような位置取りをしてくるから余計に厄介だ。

「チッ、場所を変えるぞ。隣にでかい部屋があったろ。そこに奴を追い出す」

 同じやりにくさを感じていただろう今枝がそう提案する。隣の部屋とは稜真たちが巨大ゴーレムとドンパチやっていただだっ広い空間だ。確かにそこなら思う存分戦える。

 壁くらいなら破壊してもいいだろう。

 稜真は目の前から迫ってくるノーフェイスを可能な限り引きつけ――日本刀を奴ではなく壁に向かって閃かせた。

「――ッ!?」

 壁が角切りにされたのを見てノーフェイスが仮面の下で驚愕する気配。

「今枝!」

「ああ!」

 その一瞬の隙を突き、今枝が大出力の念動力を放つ。

「は? ちょ――」

 ドゴォオオオオオオオン!!

 念動力はなんか慌てた声を漏らしたノーフェイスを巻き込み、稜真が刻んだ壁ごと盛大に吹き飛ばした。

「よし、うまくいった! いくぞみんな!」

 頷き合うと、稜真たちは隣の大部屋へと素早く駆け込んだ。


        †


 その様子を、彼女は後ろから眺めていた。

「……」

 正直な話、事態はあまり呑み込めていなかった。なにせ()()()()()()怪盗ノーフェイスが現れ、あれよあれよという間に戦いが始まってしまったのだ。

 どう考えてもおかしい。

 だが、このまま動かないわけにはいかなくなった。彼女は隣の大部屋には移動するフリをしつつ、振り返って『睡蓮の黒水晶』を見上げる。

 彼女がいないことに彼らが気づくまでほんの僅かだろう。その間に、これを盗み出す。

「……」

 そっと手を触れようとした、その時だった。

「そこまでだ!」

 チャキリ、と。

 霧生稜真が破壊した壁の向こうから拳銃を彼女に向けていた。手を止めた彼女はゆっくりと振り返る。そこには霧生稜真と今枝来咲、そして――

「正直、あんたが一番戸惑っただろうな」

「てめえの目の前で自分じゃない怪盗ノーフェイスが現れたんだからな。罠だと気づいちゃいただろうが、あのまま戦っていたらいつか必ずボロが出る」

「だから早々に盗みを実行するしかなかったわけデスヨ。ヤハハ、目には目を、歯には歯を、変装には変装を。侠加ちゃんたちの作戦勝ちィ!」

 今の今まで戦っていた怪盗ノーフェイスが、夜倉侠加の姿に戻っていた。

「……」

 なるほど、彼女の変身能力で変装した怪盗のフリをしていたということか。

「俺たちは別に合言葉なんて決めちゃいない。会議の後で相談したのは、この偽の襲撃を計画するためだ」

「怪盗が誰かに変装するならもっと早い段階がセオリーってもんデスヨ」

「てめえが入れ替わったのはこのダンジョンを探索して全員がバラバラになった時だ。後からこっそり尾けて来てたんならいくらでもチャンスはあっただろうな」

 完全に嵌められた。もし変装していた人物が入口の警備に回されていたとしても、彼女はこちらの誰かもしくは夜倉侠加に化けていただろう。彼らの言う通り、戦闘を続けていても必ず正体はバレていた。

「誰かに化けてるとはわかっていても――」

 そう呟いて腕を組む霧生稜真の背後から、なにも聞かされていなかったらしい大沢光が困惑した様子で顔を出す。


「まさか、紗々に化けてるのは意外だったな」


 黒水晶の青黒い光が彼女を照らす。

「……及第点」

 怪盗ノーフェイスは、獅子ヶ谷紗々の顔のままニヤリと笑みを刻んだ。


        †


 ダンジョン入り口――裏庭の学園長像前。

「獅子ヶ谷!? てめえ、どうしてここから!?」

「はみはみが……はみはみが襲ってくる……にゃ」

 がくっと力尽きる紗々。

「大丈夫ですか紗々ちゃん!?」

「すぐ医務室に連れて行くのよ!?」

「……ッ!」


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