三章 魔王の遺産(7)
ゴーレムの肩に装着された砲台から魔法弾が射出される。
稜真は左右に飛びながらそれをかわし、一気に間合いを詰め――一閃。ゴーレムの左足が膝から切断され、ぐらりと巨体が揺らぐ。
だが、手応えがなかった。
「くっ」
稜真は即座に飛び退る。斬り落としたはずの左足が変形し、戦車となって砲弾を放ってきたのだ。斬ったのではなく、稜真の攻撃に合わせて分離したらしい。
本体の方も土塊が追加されて足が再生している。どうやら見た目の巨大さ以上に厄介なラスボスのようだ。
「チッ、まるで最上クラスの錬金術師が操ってやがるみてえだ」
今枝が舌打ちする。
「おい霧生! どっかにゴーレムを形成している核があるはずだ! そいつを壊せ!」
「わかってるが、簡単にはいかねえぞ!」
斬ったとしても再生する。落とした部分が別の兵器となって襲いかかる。戦力を削ぐどころか増やしてしまう以上、下手に攻撃はできない。
今枝が念動力で戦車を吹き飛ばす。稜真はゴーレムの拳を聖剣で受け止める。その隙に侠加がゴーレムの頭へと飛び乗り、右手をドリルに変身させて容赦なく穿った。
「頭は空っぽデスヨ!」
「侠加に言われちゃお終いだな」
「それどういう意味クルっち!?」
ガコン! と歯車が切り替わるような音。
咄嗟に侠加が頭から飛び退く。するとゴーレムの体が変形し、人型から豹のような獣型へと姿を変えた。
「ムムム、変身は侠加ちゃんの専売特許デスヨ!」
侠加が負けじと両腕を大砲に変えて砲撃。だが獣型になって機動力の上がったゴーレムはそれを難なくかわし、背中の砲台から魔法弾を連射する。
「ハッ、だからどうした? 多少素早くなった程度でウチから逃れられると思うな!」
ガシャアアアアアン!!
今枝が念動力で捕えていた戦車が獣型ゴーレムの真横から衝突した。
横転したゴーレムにすかさず稜真が聖剣で斬りかかる。狙いは心臓部。頭にコアがなかったとすれば、次はそこである可能性が高い。
だが――
「こっちも空っぽか」
切り開いた獣型ゴーレムの胸部は空洞だった。コアは別の場所か、それとも逐次移動しているのか、そもそも存在していないのか。
再び歯車が組み換わる音。
獣型ゴーレムと戦車が融合する。今度は下半身が戦車、上半身が人型となり、全身から現れた砲台が全方位に魔法弾を撒き散らす。
「くっそぉ、合体変形なんてロマンを出してくるとは卑怯デスヨ!?」
「だから言ってる場合か!?」
「霧生、侠加、敵の数が増えても構わねぇ! 再生が間に合わないくらい全力で奴を解体しろ! 増えた有象無象はウチが全部抑えてやる!」
稜真たちは頷き合うと、今枝だけその場に残して左右に散る。稜真が右、侠加が左から魔法弾をかわしながらゴーレムとの距離を詰める。
触手のように生えた腕が稜真たちを捕えんと伸びてくる。
それを稜真は左手の拳銃で撃ち弾き、まずは戦車との接合部に一閃くらわす。ぐらりと傾いた上半身に、侠加が巨大回転カッターへと変身させた腕を叩き込む。
ギャリギャリギャリリリィッ!!
火花が散り、ゴーレムの四肢がバラバラに切断された。すぐに再生力が働くが、その前に稜真がさらに細かく斬り崩す。
飛び散った破片が戦車や戦闘機へと姿を変える。が、それらが稜真たちを襲う前に今枝の念動力が捉える。戦車や戦闘機はまるで互いが磁石化したかのように一箇所に集められ、力技でぎゅっと丸められた。
「……冗談じゃない」
思わず稜真は毒づく。分解されたゴーレムの体には、どこにもコアらしきものは存在しなかったのだ。
今枝の念動力が破られ、戦車や戦闘機が寄り集まってまたゴーレムの姿を形成する。
「まさか、奴は不死身なのか?」
「いやクルっち、そりゃゴーレムなんだから不死身デスヨ。生きてないんだもん」
ゴッ!
念動力のゲンコツが侠加の頭に落ちた。
「ていうかやっぱりアレだよアレ! さっきの部屋にあった伝説の剣じゃないと倒せないとかそんな感じデスヨ!」
頭に大きなタンコブを拵えた侠加が喚きながら隠し階段を指差した。もしそれが本当だったのなら、取りに戻るのは正直かなり手間だ。
稜真は天井を見上げる。
「あっ」
そして、気づいた。
「今枝! 念動力で俺を打ち上げてくれ! 侠加はその間ゴーレムを頼む!」
「あぁ? なんで……」
稜真に言われて天を見上げた今枝が、憎たらしそうに舌打ちする。
「チッ、そういうことかよ」
「なになに? 侠加ちゃんにもわかるように説明してほしいデスヨ!」
今枝が無言で天井を指差す。それを見た侠加は「あー」と納得したように苦笑いをした。
天井には青白い光を放つ巨大な宝石が埋め込まれていた。その周囲には複雑な魔法陣が描かれている。
要するに、アレがコアだ。
この部屋自体がゴーレム。稜真たちがいくら目の前のゴーレムを倒したとしても、それは単に本体の一部にしか過ぎなかったということだ。
「いくぞ霧生!」
今枝が稜真に念動力を使い、一気に天井へと打ち上げた。それに気づいたゴーレムが魔法弾を放つが、巨大スライムに変身した侠加が全て受け止める。
「これで終わってくれよ!」
稜真は日本刀を構え、コアの中心へと突き刺す。
ピキリと罅が入ったコアは、一気にパリンと砕け散った。天井から青白い輝きが降り注ぐ中、動きの止まったゴーレムがガラガラと自壊していく。
着地した稜真は、もうゴーレムが復活しないことを認めると聖剣をカードへと戻した。
「リョウマっち、やったデスヨ!」
「ああ」
へーいとハイタッチしてくる侠加にタッチを返すと、稜真は大部屋の先にあった扉を見る。
「見ろ、扉が開くぞ」
耳の奥に響くような重低音。ずるずると扉が内側へと開いていく。
そして、その奥から――コツコツ。
何者かの靴音が聞こえてきた。
「なっ!?」
「ほわっ!?」
「おいおい、どういうことだこりゃ?」
扉の奥から現れた者を見て稜真たちは驚愕した。
燃えるような赤い髪に、胸元を大胆に開いた服。両腰に三角定規を装備した彼女は、パチパチと稜真たちに拍手を送った。
「大迷宮クリアおめでとう。あなたたち三人が一番乗りね」
彼女――舞太刀茉莉は稜真たちの反応を楽しむようにニコッと微笑んだ。




