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三章 魔王の遺産(6)

 侠加に連れられて行った場所は、幻術の壁で隠されていた通路の奥にある小部屋だった。

「なんだ、これは?」

 隠し通路と隠し部屋も驚きだったが、それよりも小部屋の奥にあるものを見て稜真は困惑した声を上げた。

 そこは小さな祭壇のようになっており、豪奢な装飾が施された一本の剣が『勇者よ力が欲しいか?』と言わんばかりに突き刺さっていたのだ。

「いやいやリョウマっち、その質問はおかしい。どこからどう見てもエクスカリバー的な伝説の剣デスヨ!」

「まあそうなんだが……でも明らかに罠だろこんなん」

「罠ならこんな隠し部屋に置いてないデスヨ。侠加ちゃんの嗅覚が言ってます。これはモノホンのお宝デスヨ」

 剣は見た目からしてかなり強力なものだとわかる。見かけ倒しでないことも、感じる力の圧が聖剣にも劣らないことから間違いない。

 だが、罠だろう。

 絶対に罠だ。

 あからさまに抜いたらなにかが起こりそうなシチュエーションだ。今までだって肉体的にも精神的にも攻めに攻めた罠が仕掛けられていたわけで、流石にここで楽観的に考えられるほど稜真は馬鹿ではない。

「なんにせよこいつが『魔王の遺産』ってわけじゃねえだろ。聞いてた話とは違いすぎる」

 今枝が剣を上から下まで慎重に観察しながら言う。稜真たちが聞いている『魔王の遺産』は、『睡蓮の黒水晶』という名前の魔力結晶だ。それを加工して剣の形にした可能性もなくはないが、魔族や魔物が放っていた禍々しい気配は感じない。

「きっとここまで辿り着いた侠加ちゃんたちへのご褒美(ボーナス)デスヨ! ささっ、リョウマっち、すぽんと抜いちゃって抜いちゃって」

「お、俺が抜くのか?」

 嫌すぎて一歩後ずさる稜真である。

「実は既に一回侠加ちゃんが抜こうとしたんだけど抜けなかったんデスヨ」

「こんな怪しいもんを不用意に抜こうとすんな! 罠だったらどうするんだ!」

「だから侠加ちゃんの怪盗センサーには引っかからなかったんだよ! ところでこんだけ『抜く』って連呼してたらエロく聞こえてきましたグヘヘ」

「黙れ見た目は女頭脳はオヤジ!?」

 こいつは早めにどうにかしないといつか取り返しのつかない馬鹿をやらかしそうだ、と稜真は真剣に思った。

「罠なら罠だったでぶっ壊せばいい。てめぇらは下がってろ」

 今枝に言われ、稜真たちは小部屋の入口まで下がる。それから今枝は異能力を発動させ、剣を持ち上げようと試みるが――

「……あぁ? チッ、侠加の言う通りだ。ウチでも引っこ抜けねえぞ」

 ダメだったようだ。彼女の念動力の出力でもダメだとすると、恐らく魔法的なプロテクトが祭壇自体にもかけられているのだろう。となると稜真が祭壇ごと踏み砕くこともできないはずだ。

「たぶん職業『剣士』じゃないとダメなんデスヨ。もしくはSTR値が足りないんデスヨ。ほら、リョウマっちはかろうじて剣士だし〝超人〟だしピッタリ」

「ゲームじゃねえんだから……」

 今枝と交代で稜真は剣の前に立った。もしも罠なら簡単に抜けてしまうはずだ。そうじゃないということは、侠加の勘が正しい可能性も出てきた。

 稜真は剣の柄を握り――

「ふんッ!」

 思いっ切り引っ張ってみたが、ビクともしない。

「か……が……なんだよこれ……」

「フレーフレーリョウマっち! 頑張れ頑張れリョウマっち!」

 服装をチアリーダーっぽく変身させた侠加が際どく足を振り上げて応援してくる。稜真はさらに力を込めた。

「く……そ……かってえ……」

「それいけファイトだリョウマっち! いけいけゴーゴーリョウマっち!」

 両手をポンポンに変身させてダンスを踊る侠加。稜真は柄を両手で握るとダイコンを引き抜くように両足に踏ん張りを利かせるが。それでも剣は抜ける気配もない。

「ぬ……け……ねぇ……」

「かわして右フックだリョウマっち! 十万ボルトだリョウマっち!」

「できるか!? さっきから気が散るわ黙ってろ!?」

 ガチャン、と。

 稜真がツッコミのために後ろを振り向いた瞬間、剣が九十度回転した。

「は?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 小部屋の床が開き、下層へと続く階段が現れた。

「……」

「……」

「……」

 罠ではなかった。

 なかったが、三人の視線が階段と剣の間を無言で往復する。

「――ってこの剣ただの鍵かよ!? こんだけ攻撃力高そうな見た目してんのに!?」

「侠加ちゃんはてっきりダンジョンのラスボスキラーになると思ってたのに残念デスヨ!?」

「ハッ、まあいいじゃねえか。状況的にたぶんこいつはショートカットだろ。ありがたく使わせてもらえばいい」

 今思えば、大迷宮の入口だった銅像と同じである。アレも稜真や相楽がいくら押しても微動だにしなかった。

 稜真たちはどこか釈然としないながらも、出現した階段を下っていく。無論、罠を警戒して慎重に。

 だが、隠し階段では矢の一本も飛んでくることもなく終点まで辿り着いてしまった。少々拍子抜けだが、裏ルートなのだからこれでいいのかもしれない。

「オウ! なんかそれっぽい扉がある部屋に出たデスヨ!」

 そこは大迷宮内でよく見たドーム状の大部屋であり、奥には五メートルほどの高さがある扉――いや、門と呼ぶべきものが泰然と構えられていた。

「扉に対して部屋が広すぎる。気をつけろてめぇら、なにかあるぞ」

 今枝が警戒を指示したその次の瞬間だった。

「下がれ!」

 稜真は咄嗟に今枝と侠加を両脇に抱えて飛び退った。

 さっきまでいた場所に天井が崩れ、地面が隆起し、壁が砕けて噴射。それらの瓦礫が意思を持っているかのように一箇所に集い――巨大な人型を形成する。

「こいつは……」

 稜真は組み上がった瓦礫の人形を見上げて戦慄する。『瓦礫の人形』と呼ぶには金属的な光沢のある装甲によってフォルムが整っており、魔法世界とは思えない超科学な雰囲気を醸し出している。

「か……」

 これには流石の侠加も声を詰まらせ――

「かっくいい! 機動戦士的なロボットの登場に侠加ちゃんの少年心がビンビン反応してるどうしよう!」

「言ってる場合か!?」

 稜真は反射的に〈抜剣(シュウェート)〉した聖剣(ハリセン)で侠加の頭をしばいていた。

「魔導で動くロボ……いや、この場合は異世界らしくゴーレムか。チッ、このでかさ、並の〝術士〟が十人単位で動かすもんだぞ」

 今枝が面倒そうに舌打ちする。神凪緋彩クラスの〝術士〟なら一人でも動かせるかもしれないが、逆にそのレベルだとすれば確かにこれは稜真としても相当に厄介だ。

 なんだろうと、倒さなければあの扉は開かないだろう。

「こいつが最後の関門――ラスボスってことか」

 稜真は〈目覚め(ウェイク)〉を唱え、聖剣を覚醒させた。


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