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三章 魔王の遺産(5)

 大迷宮――二つ目の大広間。

「うぁあああああああああ大量の黒光りするカサカサしたヤツがッ!?」

「キッモ!? 浩平くんなんとかしなさいよ!?」

「いや無理だろ!? 部屋中真っ黒だぞ!?」

「め、め、め……」

「おい、緋彩の様子が変だぞ」

「滅却ですぅ!? 黒光りするカサカサは一匹残らず焼き尽くしてやりますぅ!? 汚物は消毒しないといけないんですぅうううううううううううッ!?」

「ヒイロっちが壊れた!?」

「やべーぞ全員逃げろ!?」

 神凪緋彩、脱落。


        †


 大迷宮通路――高速で動く床。

「みんな走れ! はぐれるんじゃねえぞ!」

「床に立てないなら飛べばいいんデスヨ」

「ほら頑張れボンクラども」

「おのれ〝異能者〟め!?」

「うわっ!?」

「大沢がこけた!?」

「もう無理よ一瞬で流れて見えなくなったわ!?」

 大沢光、脱落。


        †


 大迷宮――三つ目の大広間。

「落とし穴だと!?」

「ちょっと浩平くんなにあたしのスカート掴んでいやぁああああ落ちるぅうううっ!?」

 相楽浩平、龍泉寺夏音、脱落。


        †


 そして、生き残った稜真たちは現在――なんとか罠が発動しない空間を見つけて一休みしていた。

 もはやどれくらい進んだのかもわからない。通路も大部屋も罠のオンパレードだったのだ。常に走り続けていたため、マッピングなんてやっている余裕などあるわけがない。この大迷宮を創った連中の正気度が疑われる。

「……ああ、わかった。そっちも気をつけろよ」

 大迷宮内の壁にもたれかかった稜真は、緋彩から渡された通信用の護符を下げて短く息を吐いた。

「大沢も無事だってさ。辻村と合流したから別の道を進むそうだ。なんだかんだでみんな丈夫だよなぁ」

 脱落していった仲間は全員無事だ。護符があってよかったと本当に思う。それぞれ合流できるところから合流して後を追うので、稜真たちは構わず先に行ってくれとのことだ。

 だが、流石に休憩を挟まないと厳しい。

〝超人〟の稜真が、ではなく。

「悪ぃな、霧生。もう少しで回復する」

 今枝と侠加の〝異能者〟組のための休憩だ。〝異能者〟とて無限に能力を使い続けることはできない。迷宮の罠を回避するために出力し続けていれば当然疲労は溜まっていく。

「いや、休める内に休んだ方がいいからな。寧ろ、ここまで能力を使い続けられたことが驚きだ」

「ハッ、当たり前だろ。そうでもなけりゃ、あの化け物揃いの零課で化け物相手に立ち回れねえよ」

 今枝はかつての仲間の顔でも思い出したのか、どこかニヒルに口元を緩めた。

「そういや、侠加の馬鹿はどこ行った?」

「ん? 侠加ならそこに――あれ? 静かだと思ったらいねえぞあいつ!?」

 夜倉侠加、脱落(?)。

「まさか一人で先に進んだのか? くそっ、追いかけないと!」

「待て霧生」

 慌てて追いかけようとした稜真の腕を今枝が掴んで止めた。

「あの馬鹿なら大丈夫だろ。それよりウチが回復するまでここを動くな」

 言うと、今枝は壁を背にしてヤンキー座りでその場にしゃがみ込んだ。稜真としては侠加も心配だが、今枝を一人置いていくわけにもいかない。

 となると――

「なんなら担いで行こうか?」

「ふ、ふざけんな! んなことされて堪るか恥ずいだろうが馬鹿野郎!」

 全力で拒否られた。おさげが逆立つほど嫌だったらしい。

 仕方なく稜真は今枝の隣に腰を下ろす。

「……もしかして、一人になるのが怖いとか?」

「あぁ? 能力が使えないとウチは常人と変わらねえんだ。だから肉壁が勝手にどっか行ったら困んだろ! あんまふざけたことぬかしてっと搾るぞゴラ!」

「す、すみません」

 雑巾を絞るジェスチャーをする今枝に稜真は思わず頭を下げてしまった。今枝の念動力なら人間雑巾絞りくらいわけがない。言葉には気をつけよう。

「……」

「……」

 それからはひたすらに無言が続いた。

 気まずい。非常に気まずい。

 そもそも今枝と二人で話すような機会など一度もなかった。だから、こういう時なにを話せばいいのか稜真には皆目見当もつかない。話しかけんなオーラが凄い相手にぐいぐい攻められるほど稜真のコミュ力は高くないのだ。

 かと言って無言の時間が苦にならないほど低くもない。

 なにか話題を――

「そ、そうだ。特務零課って他にどんな奴がいるんだ?」

「なんだ? 情報収集か? 霧生家は裏でウチらに睨まれることでもやってると?」

「違う! 家名に誓って警察のお世話になるようなことはしてな――」

「銃刀法違反に過剰防衛による殺害、悪徳な奴らの護衛……ほーん?」

「け、警察のお世話になるようなことは、非一般的にはしてない」

「言葉が怪しいな」

 ニヤリと笑う今枝につい稜真は萎縮する。なにもやましいことなんてないのに、蛇に睨まれた蛙のような気分になってしまう。これがお巡りさんパワーか。

「だ、だいたいここは異世界だぞ! 零課のことを知ったところでなにもできねえよ!」

「まあ、それもそうだ」

 わかっていてからかったのだろう、今枝は笑いを堪えるようにそっぽを向いた。

「ただの興味本意だ。守秘義務があるなら、無理に聞くつもりはない」

「いや、ぶっちゃけ別に構わねえよ。要は暇潰しがしてぇんだろ?」

 稜真の意図も全部お見通しのようだった。

 今枝は思い出すように天井を仰ぎ、片手の指を一つずつ立てていく。

「零課の面子といやぁ、そうだな。他人に幻覚を見せるレベルの念話能力者(テレパシー)に、ざっくりとした未来を九割当てる占星術師。ぬりかべの〝妖〟に抜刀術が得意な〝超人〟とまあ、いろいろだ」

「本当にいろいろだな……」

 聞いただけでも噂通り小国くらいなら簡単に滅ぼせそうだ。

 と、今枝がじっと稜真を見詰めてくる。

「なあ、霧生、お前は元の世界に帰るつもりはあるのか?」

「なんだ藪から棒に?」

「いいから答えやがれ。てめぇの質問には答えただろうが」

 これも暇潰しということか。そういえば、夏音や大沢以外とそういう話をしたことはない気がする。

「可能ならってところだな。俺たちは向こうじゃ死んでる可能性の方が高い。こっちの体のまま向こうに行く必要がある」

「フン、なるほど。無理だったらこの世界に勇者として骨を埋めてもいいってことか」

 今枝はつまらなそうに鼻息を鳴らした。

「ウチは、なんとしてでも帰るつもりだ」

「というと?」

「向こうでやり残したことがあんだよ」

 そう言うと今枝はまた天井を見た。その横顔には決意めいたものが窺える。恐らく、彼女が特務零課に入った理由なのだろうと稜真はなんとなく察した。

 彼女が特務零課でやっていたことと言えば――

「怪盗ノーフェイスを捕まえることか?」

「そりゃこっちでもできるだろ。二重の意味で」

 侠加と、この世界のノーフェイスのことだ。確かにそれなら帰る必要なんて全くない。

「ウチは――」


「リョウマっち! クルっち! ちょっちこっち来てみてよ! 面白いものを見つけちった!」


 今枝がなにかを言いかけた時、通路の向こうから侠加が元気よく手を振ってきた。

「侠加てめぇ! 勝手に行動すんじゃねえよ!」

「ヤハハ、ごめんごめん。でも侠加ちゃんの怪盗の勘がビビビっと来たんだからしょうがないデスヨ」

 頭の両側で指を立てて角、いやアンテナを模してピコピコする侠加は、なんというかこれっぽっちも反省の色が見られない。一度酷い目に遭った方がいいのではないかと稜真は思った。

 よいせ、と立ち上がる。

「行くか。今枝、もう大丈夫そうか?」

「ああ、それなりに回復した。チッ、なんか侠加に負けてるみてぇで癪だな」

 同じくらい能力を使っているはずの侠加がピンピンしているのを見て、盛大に嫌そうな溜息を吐く今枝だった。


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