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三章 魔王の遺産(1)

【異世界より召喚されし者に告ぐ

 白き月の光が闇に染まる頃

 義勇の学び舎に眠る魔王の遺産を頂きに惨状する

 見事これを退けたならば

 蒼の秘宝をあるべき場所に返すと約束しよう

               怪盗ノーフェイス】


 茉莉先生から受け取った怪盗ノーフェイスの予告状にはそう書かれていた。

「長い! 予告状は長くて四行にまとめるのが怪盗のセオリーってもんデスヨ!」

「どこにツッコンでんだてめえは!?」

 ゴッ! と念動力で圧縮された空気の塊がゲンコツよろしく夜倉侠加の頭に落ちた。今枝來咲の激しいツッコミに変身能力でわざとらしいタンコブを拵えた彼女は――

「ヤハハ、クルっちってば一体ナニをドコに突っ込んだって? まったく、これだからムッツリさんは」

「もう二、三十発くらい叩かねえとその腐った頭は治りそうにねえな」

「え、あ、ちょ、冗談デスヨ冗談!? そんな空間が視認できるくらい歪んだもので殴られたらタンコブできるだけじゃ済まなぶごぉおッ!? い、今、今ゴキッ! って頭から鳴っちゃいけない音が聞こえたんですがッ!?」

 ドゴン! ドゴン! と戦場と化している教室の隅は放っておいて、稜真は改めて手元の予告状に目を通す。

「最初と最後は俺たちに向けた文でいいとして、問題は二行目と三行目だな」

 クラスに集合した面々もそれぞれ思案顔になって考え始めた。どうでもいいが女性陣と辻村は風呂上りでさっぱりしていて、稜真たちお説教組は揃って解せない顔だった。

「二行目は普通に考えて時間でしょ? 月が闇に染まるってことは」

「新月のことでしょうか?」

「でも昨日が満月だったよね? そんなに時間を空けるかな?」

「馬鹿ね、大沢くん。ここは異世界よ。満月の次の日が新月だったとしても不思議はないわ」

「にゃ。それはない。周期は地球と変わらない。いつも見てるからわかる」

「てこたぁ、月蝕が近々あったりするんじゃねえか?」

「……」

 今、教室にはこの世界に詳しい人間はいない。まだ地球の常識が染みついている勇者たちだけではそれ以外の答えには辿りつけそうになかった。

 と、教室の隅で乱闘していた〝異能者〟たちが戻ってきた。

「時間については悩む必要ねえ。最悪毎晩見張ってりゃいい。それよりウチが気になってんのは獲物の方だ」

「『魔王の遺産』ってなんなんデスヨ?」

「あの、侠加さん、頭がサボテンの植木鉢みたいになっていますが大丈夫ですか?」

 心配そうに訊ねる緋彩だったが、侠加は「ヤハハこれは失礼」と笑うだけで頭のボコボコを引っ込めた。変身能力者の怪我の具合はどこまでが本当なのかわかりにくいから困る。

「稜真くんたちは先生からなにか聞いてないの?」

 夏音が稜真に話を振る。

 無論、あの場で予告状を読んだ稜真たちがその疑問を見逃すはずはない。

「ああ、実は魔王城の宝物庫にあったやばいアイテムがこの学園に封印されてるらしいんだ」

「『睡蓮の黒水晶』って名前で、魔王の莫大な魔力が結晶化したものなんだって」

「地下にあるらしいが、封印が厳重でよ。オレたちでも近づかねえ方がいいって茉莉ねえは言ってたな」

 なんでも自然の地底洞窟を魔改造して大迷宮(ダンジョン)化しているらしい。モンスターが湧いたりすることはないが、トラップ満載で魔改造した当人たちも最奥部まで辿りつけなくなったのだとか。アホである。

「ダンジョン、ね。ふふふ、面白そうじゃない」

「待て夏音、またなんかよからぬこと考えてないだろうな?」

 ピクニックとか言って森を探索した時は酷い目に遭ったのだ。今回もそのノリで突撃されるといよいよ稜真たちも命の危機になりそうで怖い。

「大丈夫よ。あたしだって反省してるんだから。前みたいな軽はずみな行動はしないわ」

「ならいいが……」

 反省している人間はそんな目をギラギラさせていないと思うが、黙っておく。

「とにかく『魔王の遺産』を狙ってるってことは、やっぱり怪盗ノーフェイスは魔族と繋がってると見ていいわね」

「あの、夏音さん、決めつけるのは早くありませんか? 魔族の仲間ならわざわざ予告状なんて送らないと思います」

「チッチッチ、ヒイロっちはわかってないデスヨ。怪盗と言えば予告状。これは切っても切れない関係なんデスヨ」

「威張るな。なんだろうと結局コソ泥だろうが」

「んなにぃ!? おいこらクルっち! 温厚な侠加ちゃんでも今の発言は見逃せねえデスヨ! 怪盗をその辺のコソ泥を一緒にするんじゃねえ! コソ泥は辺り構わず散らかして金目の物全部盗っていく! 怪盗は芸術的に獲物だけを頂く! 美しさが違うんデスヨ美しさが!」

「おう、わかってんじゃねえか夜倉。そうだぜ。テロリストだってその辺の暴徒とは違ぇんだ。やってることが似てるからって同じにしてもらっちゃ困る!」

「流石サガラっち! ロマンのわかる子!」

「どうでもいい。にゃ」

「あはは……」

「……」

 ガシっと握手を交わす侠加と相楽に白い視線を送りつつ、稜真は夏音に問う。

「それで、どうする? 一応封印の場所は聞いているが」

「決まってるでしょ。実物を見ないことには警備プランも立てられないわ」

 夏音はギラギラした目にさらに勢いを増し――


「『魔王の遺産』とやらをこの目で拝みに行くわよ!」


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