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五章 魔王の襲撃(7)

 場所は戻って、勇者棟。

 睡蓮の花弁を思わせる姿の魔王が、その全身からオーラをガトリングガンのように射出した。鳥肌が立つほど悍ましい魔力の弾丸を稜真は聖剣を振り回して弾き飛ばす。

「リョウマ様!?」

「シェリルは俺の後ろにいるんだ!」

 騎士槍を盾にしてかろうじて凌げている学園長に代わって稜真がシェリルを庇う。オーラの弾幕は勢いを落とさないまま数十秒も続いた。屋上テラスの崩れた勇者棟がさらに蜂の巣と化す。建物の損害はもう考慮しない方がいい。

 と、稜真の全身が白い輝きに包まれた。心なしか体が軽くなったような気がする。

「身体能力向上の白魔法です! リョウマ様!」

 シェリルの魔法だ。肉体強化の魔術は常人が〝超人〟や〝妖〟に対抗するために編み出されたため稜真には効果ないが、魔法は違うようだ。〝超人〟の力をさらに底上げしてくれる。これは嬉しい。

「助かる! あとは任せろ!」

 足下で爆発が起こったかのように稜真は疾駆し、刹那の間に魔王へと接敵する。だが魔王はその速度にも対応した。オーラを触手のように伸ばして稜真を捕獲しようとする。

 触手を銃弾で牽制し、日本刀を一閃。

 放たれた斬撃の風圧が魔王の巨体を切り刻みながら吹き飛ばした。勇者棟から落下する魔王は、途中で浮遊力を取り戻して地面との激突を回避する。

 だがそれも束の間のことで、崩れた屋上テラスから飛び降りた稜真が踏みつけて魔王の体を地面に減り込ませた。

「壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す!!」

 呪詛を吐きながら魔王が無数のオーラの触手を乱舞させる。触手の先端が鋭利な刃へと変化し、触れる物は植木も建物も地面もことごとく斬り裂いた。

「面倒な!」

 稜真に襲いかかったオーラの刃を日本刀で受け止める。シェリルの魔法で強化された〝超人〟の肉体でも押されてしまう膂力に稜真は顔を顰めた。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」

 理性など微塵も感じられない喚き声。殻咲が死んだことで魔王の力が暴走したのだろうが、殺戮の意志だけは気持ち悪いほど伝わってくる。

 魔王とは破壊者だとベルンハードは言っていた。

 壊し、殺し、奪うことが本能にして根本。アレを見ていると嫌でも納得してしまう。当たり前だが、こんなのを野放しにしておけない。

 シェリルの魔法がいつまで持続するかわからない。蹴りは早めにつけなければ……。

 ――焦るな。

 花の魔物と同じ、攻撃は強力だが単調だ。慎重に捌き続ければ必ず隙を見つけられる。

「壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す!!」

 オーラの刃の尖端から黒い光線が射出される。ビュイン! と一閃された光線は学園を取り囲む白い城壁を穿ち大爆発を引き起こした。

「くっ!」

 攻撃パターンが変わった。どうにかしゃがんで光線は避けたが、赤々と燃え広がる後方を見ると流石に聖剣でも受け止められる気がしない。

 殻咲が生きていた時よりも確実に今の方が厄介だ。


「オレに勝ち逃げしてる奴がこんなバケモンに苦戦してんじゃねえよ!」


 苛立たしげな声が聞こえた。

 次の刹那、魔王の体がなにかに薙ぎ払われたようにぶっ飛んだ。今の今まで魔王がいた場所に上半身裸の少年――相楽浩平が立っていた。

 肩に巨大で無骨な戦鎚を担いだドヤ顔で。

「相楽……その武器は?」

 誰かが援軍として来ることは想定の範囲だったが、稜真は相楽が持っている武器――ウォー・ハンマーがその辺から拝借したものではないと直感で悟る。

「おうよ。オレの聖剣だ」

 夜倉侠加が聞いたらまたいらん部分で反応しそうな台詞を口にして、相楽はニヤリと笑った。

「さっき魔物を三十体ばかし潰してウォーミングアップが済んだところだ。困ってんなら手ぇ貸すぜ、霧生」

「ああ、助かる」

 相楽がどうやって聖剣を覚醒させたのか知らないが、稜真が少々手こずっていたのは事実のため非常に頼もしい援軍である。

「ゲヒャ!」

 空中に浮かぶ睡蓮の花弁、その中心にある殻咲の顔面が醜悪に嗤う。相楽の一撃が全く効いていないわけではなさそうだが、相当な耐久力に文句の一つでも飛ばしたくなる。

「殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す!!」

 無数のオーラの刃が雨となって稜真たちに襲いかかった。それらを聖剣で捌き、かわし、時々放たれる暗黒光線は直感で回避する。

「チッ、こりゃ確かに面倒だな。殻咲のクソ野郎もまた妙な感じに狂ってやがるしよ」

「だろ」

 オーラは斬っても潰してもすぐに再生してしまうのだ。魔王の魔力が無限とは思いたくないが、このまま続けばいつか必ず稜真たちの体力が先に限界を迎えるだろう。

「おい霧生! 一秒ありゃ奴のとこまで行けるか!?」

「それだけあれば充分だ!」

「てめえに美味いとこ持っていかれるのは癪だが、作ってやるよその時間!」

 襲い来るオーラを打ち返していた相楽は、隙を見て戦鎚を思いっ切り地面に振り下ろした。瞬間、大量の地雷が一度に爆破されたような圧倒的な破壊が前方方向にだけ撒き散らされた。巻き込まれたオーラが地塊の弾丸を含んだ爆風で吹き飛び全滅する。

 次のオーラが魔王から放たれるまで約一秒。

 稜真は全力で跳躍し、半秒で魔王の懐まで到達した。

「終わりだ!」

「プヒャッ!」

 日本刀を振るおうとした稜真に、殻咲の顔が邪悪に嗤った。稜真と殻咲の間にオーラの触手が割り込む。

「なっ!?」

 触手が掴んでいた蒼銀のツインテールをした少女を見て稜真は驚愕した。

「リョウマ様……申し訳ございません……」

 いつの間にかシェリルが捕まっていた。幻覚の可能性もあったが、それでも稜真は手を止めざるを得なかった。

 オーラが鞭となって稜真を叩き落とす。地面に背中から叩きつけられた稜真に次は刃が殺到し、咄嗟に転がって回避した。

「霧生!?」

「リョウマ様!? リョウマ様!?」

 さらに追撃をかけるオーラの刃は相楽が防いでくれた。本気で心配そうな悲鳴を上げるあのシェリルは幻じゃない。本物だ。

 魔王は稜真たちと戦いながら触手を勇者棟の崩壊した屋上テラスまで伸ばしていたらしい。

 せっかく巻き込まないように魔王を勇者棟から遠ざけたのに、これでは意味がない。勇者棟で学園長が済まなさそうにしているのが見えた。必死に守ろうとしてくれたのは傷だらけの姿を見ればわかる。

「人質を取る知能はあるんだな……」

 破壊するだけが能ではなく、破壊するためには手段を選ばないということか。普通にやって壊せないものをどう壊すかを、魔王も戦いながら学習している。

 これはまずい。

 非常にまずい。

 相手が人間なら人質救出の方法はいくつかあるものの、触手付き人面怪奇花弁だと対処法は今考えなくてはならない。

「リョウマ様!! 私のことは気にしないで魔王を倒してください!!」

 捕らわれたシェリルはそう叫ぶが、そんなわけにはいかない。

 護ると約束したのだ。絶対に助ける。

「おい霧生!? どうすんだこの状況!?」

「どうにかして隙を作るしかない!」

 再びオーラの刃に対処する状況へと戻ってしまった。それも最悪の形で、だ。さっきと同じように魔王に近づいても、シェリルを盾にされては攻撃できない。

「せめて誰かが奇襲をかけてくれれば……」

 そう呟いた時だった。

 シェリルを掴んでいたオーラの触手が、パァアン!! と盛大に破裂した。

「「――ッ!?」」

 稜真と相楽は同時に目を剥く。魔王はなにが起こったのかわからないのか、動きがずいぶんと鈍くなった。

「ひゃああああああああああああああああああああっ!?」

「シェリル!?」

 稜真はオーラの刃を掻い潜り、落下するシェリルをキャッチする。そのまま瞬時に跳躍して魔王から距離を取り、シェリルを地面に下ろした。

「あ、ありがとうございます、リョウマ様。でも、一体なにが……?」

「いや、なんとなくわかった」

 稜真はちらりと遠くを一瞥する。魔王の触手を撃ち抜いた弾丸・・が飛んできた方角には、開けた空間が広がっているだけだった。

 近くにはなにもない。

 だからこそ、その先にあるどこかからの狙撃が可能だった。


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