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五章 魔王の襲撃(1)

 黄昏色に染まるフォルティス総合学園を、新たに誕生した魔王は上空から俯瞰していた。勇者とその仲間を育成する学園は彼にとって反抗者の溜まり場。邪魔者以外の何者でもない。

 故に壊す。殺す。奪う。

 たとえ邪魔者でなくても同じようにする。有害無害に関係なく万物を圧倒的な力で蹂躙する存在が魔王だ。

 もっとも、殻咲にとってそんな定義などどうでもいい。壊し、殺し、奪うことは至高の快楽なのだ。そう感じるように魔族に改造されたようなものだが、殻咲は今の自分になんの不満もなかった。元々そういう気はあったのだ。


 殻咲隆史は東京の高級住宅地に建つ裕福な家に生まれた。

 兄が二人と姉が一人。末っ子だったが、大手企業の社長と副社長を務める両親の愛情は客観的に見ても優秀な兄姉に偏っていた。

 なんとかして見返したい。殻咲は幼いながらも独占欲に駆られ、自分より上の人間を引き摺り下ろして抜き去ることばかり考えていた。

 中学校ではあらゆる邪魔者を陰で排除し、一年生で生徒会長にまで上り詰めた。これは兄姉にも成せなかったことだ。

 そうなってくると快く思わない者も当然出てくる。当時二年生で会長に立候補していた次兄と、その取り巻きだ。

 次兄は気づいていた。脅迫、暴力、賄賂。小狡く汚い手段を躊躇いなく使う弟にトップを任せることは危険だと。

 何度も辞任するように説得しにきた次兄を、殻咲は聞く耳持たず突っぱねた。自分より上だった者が必死になる様はとても滑稽で愉快だった。

 だが、あまりにしつこかったので弱みを握って黙らせた。次兄は同学年の少女と付き合っていたのだが、中学生にして体の関係まで発展してしまった場面を激写したのだ。

 次兄はそれで大人しくなったが、ある日彼の恋人だった少女に殻咲は呼び出された。

 場所は学校裏にある川原の橋下だった。

 少女は写真の消去と、既に教師すら丸め込んで独裁体制を取りつつある生徒会の解体を殻咲に命じた。頼んだのではなく、完全に上から目線の命令だった。

 気に喰わない。いずれは次兄から奪って自分の物にしようと思っていた少女に、殻咲は殺意に近い怒りを覚えた。

 命令を拒むなら容赦はしない、少女はそう言って掌の上に炎を灯した。

 発火能力者パイロキネシス。少女が〝異能者〟だったことに殻咲は腰が抜けるほど驚愕した。殻咲の実家は裏の世界にも通じているため存在は知っていたが、非常人を見たのはこの時が初めてだったのだ。

 少女は殻咲を燃やしにかかったが、殻咲とてただのこのこと呼び出しに応じたわけではない。

 父親が裏の世界で入手した実銃のコレクションを一つくすねておいたのだ。

 銃を撃った経験はなかったが、恐怖に任せて我武者羅にトリガーを引くと少女の右足を貫通した。悲鳴を上げて倒れた少女は、力の制御ができなくなり自らの炎で燃えて灰となった。

 殻咲は一目散に逃げた。心臓はバクバクと長距離をマラソンした以上に脈打っていたが、銃を綺麗に拭いて父親のコレクションに戻すほどには冷静だった。

 人を殺した恐怖はあった。だがそれ以上に心は高揚していた。恐らく当時最大級の邪魔者となっただろう存在を完全に排除できたのだ。常人の自分が〝異能者〟に勝ったのだ。

 発火能力者の少女は行方不明として報道された。一般家庭に生まれた突然変異の〝異能者〟だったが、遅咲きの覚醒で中学一年までは常人と変わらない少女だった。能力のことは親にすら隠していたようで、裏世界も彼女をマークする前の段階だったため事件は迷宮入りした。

 元から壊れていた殻咲のネジがさらに吹っ飛んだ事件がそれだ。

 その日からも、殻咲はただ自分の欲求に従って思うように動いている。ついには魔族とかいう連中と接触し、異世界まで来た。勇者ではなく魔王として、だ。

 最高だ。殻咲は幼い頃から勇者や正義のヒーローなどではなく、世界征服を企む魔王や悪の組織にこそ憧れを抱いていた。

 日本は捨てる。支配できるならどこの世界だって構わない。従わない者はこれまで通り排除する。

 魔王として正道だろうが邪道だろうが関係ない。

「さあ、カラザキ様、勇者どもが追って来る前に混乱と恐怖と絶望を撒き散らしましょう」

 隣に浮かぶ白髪青肌の魔族が促す。ベルンハードに言われるまでもなく、殻咲はとっくに最初の標的を決めていた。

「そうだな。手始めに、あの目立つ建物から破壊してやろう」

 悪魔の笑みを刻み、殻咲はドス黒いオーラの波動を目立つ建物――勇者棟へと放った。


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