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四章 精霊の泉の大騒動(4)

「まったくヘンタイなんて絶滅すればいいのよ! シェリルさんもそう思うでしょ?」

「は、はあ……」

 イライラオーラを全身から滲ませて先頭を行く夏音に、シェリルは困り顔で生返事をした。

 男性陣は彼女たちから五メートル後ろをついて歩いている。プンスカしている夏音をジト目で見ながら三人は声を潜めて――

「(オレが思うに龍泉寺もドSだろ)」

「(亀甲縛りができる時点で疑う余地もないな)」

「(う、うん、かなり慣れてた感じだったね)」

「はいそこシャラップ! 全部聞こえてるから!」

「「「すいませんでしたッ!?」」」

 夏音が超地獄耳だということを失念していた三人は笑顔を引き攣らせてさらに三メートルほど下がるのだった。

 とその時、稜真たちの前に緑色に輝く球体が飛んできた。見覚えのあるそれは案の定、蝶の羽と触覚を持つ白百合のドレスを纏った女の子へと変化する。

「あ、君、ボクの方に来ちゃったんだ」

 ニッコリと可愛らしく笑った妖精――もとい風の精霊は、しばらく稜真たちの周囲を飛び回った後、そこが特等席とでも言うように大沢の頭にちょこんと腰かけた。

「そういえばまだ紹介してなかったね。この子はボクと仲良しさんの風の精霊で、名前はリリちゃん」

 嬉しそうに笑顔を輝かせて大沢が頭に乗った精霊を紹介する。

「悪い大沢、俺にはちょっと区別がつかないんだけど……」

 フロリーヌが連れている風の精霊はみんな同じ姿をしているため、単体でいる時はいいが混ざってしまうと個体を識別できそうにない。

「姿は同じでも性格とかは違うからね。霧生くんもそのうち区別できるようになるよ」

 そう言って大沢は風の精霊――リリを指で撫でる。リリも気持ちよさそうに目を細めて大沢の指に頬ずりしていた。

「フロリーヌの方に行かなくていいの? ボクと遊びたかったの? あはは、しょうがないなぁ♪」

 妖精と戯れる少女の図がそこにあった。いや大沢は男だが。

「遊びたかったというより……」

 妖精少女を見据えつつ、相楽。子供のように無邪気な笑顔を見せていたリリが、一瞬だけギロっとものすっごい敵意を込めた視線で稜真と相楽を射抜く。

「オレらを監視してるだろ、そいつ」

「フロリーヌの差し金だろうな」

 あと一歩でも近づけば噛みつかれそうな勢いだった。

「ちょっと男ども!? ちゃんと真面目に謎生物探してるの!?」

 夏音から叱咤が飛んできた。今まさに大沢の頭の上に謎生物が乗っているが……これで見つけたことにならないだろうか? ならないか。

「つーか龍泉寺、てめえが探索してりゃオレらが探す意味ねえだろ」

「はぁ? あたしだけ働けって言うの? 疲れるから嫌よ!」

「おいコラ」

 なんとも頼もしいリーダーだった。

「謎生物って言われてもなぁ。具体的な特徴もわからないんじゃ、そんなすぐに見つかるとはおも……」

 偶然視界に入ったそれに、稜真は言葉を詰まらせた。

 道の脇に一輪の花が咲いていたのだ。ただ、どう考えても普通じゃない。優に一メートル半を超える高さの茎に、チューリップのような形をした赤く巨大な花弁。そこには牙にも見える白い刺が並び、涎としか思えない液体を垂らして野犬のようにはぁはぁと息を荒げている。

「なんかいた!?」

 それは土管の中から出て来そうな怪植物だった。

「あ、それは『はみはみ草』と言います」

「なにその可愛い名前!?」

 シェリルが当たり前のものを見るように教えてくれた。

「この花の粘液は魔法薬の材料になるのです。こんな道端に生えてることは珍しいのですが、もっと奥に行けば魔法薬学科が管理している花畑がありますよ」

 この奇怪な花が大量に咲いている光景は絶対見たくないと思う稜真だった。

「てこたぁ、これモンスターじゃねえのか? こんな姿なのに?」

「ち、近づいたら危ないよ相楽くん」

 不用心に怪植物に近づく相楽を大沢が止めようとするが、

「大丈夫だろ。あのシェリルが怯えてねえんだ。別に危険は――」

 ――バクン!

 一口だった。

「相楽が喰われたぁあっ!?」

「だ、大丈夫です! はみはみ草は近づいた人を甘噛みする習性があるのですが」

「あ、ホントだ全然痛くねえ」

「粘液で肌がかぶれて三日三晩死ぬほど痒くなるだけですから!」

「ぎゃああああああああああああくっそ痒いぃいいいっ!?」

「なんて残酷な!?」

 稜真と大沢で引っ張って助け出した頃には、相楽のお肌は大変なことになっていた。シェリルが白魔法で痒み止めを施さなければ今ごろ第一の犠牲者として探索からリタイアしていたかもしれない。

「ねえ、シェリルさん。その花は魔法薬の材料になるんだっけ?」

 と、稜真たちに背を向けている夏音がはみはみ草について確認した。またなにか変なことでも思いついたのだろうか?

「あ、はい。主に消毒関係の薬に使われます」

「じゃあ、あの花はなにに使われるのかしら?」

「えっ?」

 訊ねた夏音が指を差した先には、全長五メートルは越えようかという毒々しい色の花弁をした巨大フラワーがあった。

 はみはみ草よりも鋭い牙を剥き、根っこを動物の足のように動かして地上を猛スピードで駆けている。

 稜真たちの方に向かって。

「あ、リリちゃん!?」

 と、精霊リリが逃げるように大沢の頭から飛び立った。あっちの怪植物は精霊にとってよろしくない存在なのかもしれない。

「異世界には動く植物がいっぱいあるんだなぁ」

 どんどん近づいてくる自立歩行型巨大植物を見上げて感嘆する稜真だったが、ふとシェリルを見ると、彼女は今にも失神しそうなほど目を見開いて顔を青くしていた。

「ど、どうして……こ、こんなところにいるはずがないのに……」

 呟く声が初めて稜真に会った時よりも震えている。死が近づいていると自覚してしまった時の恐怖。シェリルの様子はまさにそれだった。

「ゆ、勇者様逃げてください! あ、アレはこの森の植物じゃなくてま、ま、ままま」

 勇気やらなにやらを振り絞ったように彼女は大声を上げる。


「魔物です!?」


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