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一章 ようこそ異世界学園へ(1)

 染み一つない白い天井があった。

 どこかの一室。天井に電灯は見当たらないが、開けっ放しの窓から差し込む日差しのおかげでずいぶんと明るい。そよ風が入り込んで肌を撫で、霧生稜真は自分がまだ生きていることを実感した。

 ――俺は……?

 護衛対象だったはずの殻咲にトラックで撥ねられたところまでは覚えている。あのような失態は初めてだった。思い出しただけで腹が立つ。守るべき相手に裏切られたことではない。トラックに撥ねられた程度で意識を失った自分の未熟さに対してだ。

 ――ここは?

 ふかふかしたベッドの感触が背中から伝わる。それに独特な薬品の臭い……あの後で誰かが病院に運んでくれたのだろうか? だとすれば普通の病院ではあるまい。刃物やら拳銃やらを所持している稜真が搬送されるとしたら裏に通じた病院に限られる。

 とにかく、寝たままでは状況分析に限界がある。そう判断した稜真は上体を起こし――

「?」

 なにも痛みを感じなかったことに疑問を覚えた。

 自分自身の体を検める。怪我らしい怪我は見当たらなかった。それどころか戦闘中に破れたはずのブレザーも綺麗なままの状態に復元している。

「どういうことだ……?」

 元々怪我はたいしたことなく、服は誰かに全く同じものに着替えさせられた。無理やり自分を納得させるならそうなる。でも入院服ではなく高校の制服に着替えさせる意味がわからない。

 それに――

「ここは、病院じゃないな」

 ベッドが三つ並び、それぞれにカーテンの仕切りがある。そこまではいい。問題は薬品やら書籍やらが置かれている棚があったり、誰かが作業するような事務机が入口の正面に設置されていることだ。

 見覚えはない。だが似たような空間を知っている。

「学校の保健室?」

 である。とはいえ、稜真が昨夜戦っていた付近に学校はなかったはずだ。そうなるとここはどこなのか? 稜真は頭に入っている地図や昨夜の状況、心当たりの記憶を徹底的に浚ってみることにした。

「……」

 考える。

「……」

 考える。

「……どこだここ?」

 わからないという結論に達した。とりあえず起き上がって散策しないことにはなにも情報は得られないだろう。このまま変化をただ待つことは性分じゃない。それにテロリストのアジトという可能性もある。せめて自分の置かれている状況が『良』か『悪』かだけは把握しなければならない。

「――てー」

 と、窓の外から声が聞こえた。よく聞き取れなかったが、誰かが慌ただしくなにかを追いかけているような雰囲気だった。

 稜真は咄嗟にベッドから飛び降りた。床に揃えてあった靴を引き寄せて履き、窓の横の壁に張りつく。そして慎重に窓の外を見ようとして――視界に緑色の光が灯った。

「え?」

 保健室(?)に飛び込んできた光は、テニスボールほどの大きさをした球体だった。それは部屋の中心で止まったかと思うと、徐々に輝きを失い、中から一人の女の子が現れた。

 正確には、女の子の姿をしたなにか。掌サイズの身長に白ユリの花をそのまま着たようなドレス。背中からはアゲハチョウみたく鮮やかな羽を生やし、緑色に輝く鱗粉を振り撒いていた。

 幼く可愛らしい顔が呆然とする稜真を見てニコッと笑う。頭から生えた二本の触覚がピコピコと揺れていた。

 ――妖精? ……いや、〝術士〟の使い魔か?

 裏の世界には俗に『魔術師』やら『陰陽師』やらと呼ばれる人間が存在していることは稜真も知っている。それらは総じて〝術士〟と分類され、中には『使い魔』や『式神』といった術式を組み込んだ自動人形を使役する者もいる。

 だがそれらは心無い人形でしかない。少なくとも稜真がこれまで見てきたモノはそうだった。今みたいに人間のように笑うことなどできやしない。

「待ってー! どこ行ったのさー!」

「!」

 再び窓の外から先程の声が聞こえた。少年か少女か判然としないソプラノに妖精の女の子が反応し、慌てて保健室の窓から飛び去ってしまった。

 謎しか残らなかった。

 窓の外の声も遠ざかっていく。

「だぁーくそっ! 意味がわからん!」

 いい加減に痺れを切らした稜真は、いてもたってもいられず妖精を追って窓から外に飛び出した。


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