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四章 精霊の泉の大騒動(3)

 魔法学部の敷地を素通りすると、そこには別世界のように深い森が広がっていた。

 この森には魔法薬の材料となる薬草や木の実、白魔法の媒体となる植物が自生しているため、精霊魔法科以外の学科にとっても馴染み深い場所らしい。白魔法科のシェリルに案内が務まるのか不安だったが、その心配はいらないようだ。

 森は普段から人が立ち入っているだけあって道はきちんと整備されている。だが入口から既に三つに分岐していることからわかる通り、道は広い森の中で複雑に絡み合っているそうだ。ガチの遭難者が年に一人か二人は出るのだとか。

 稜真たちはチームごとに別々の道を進み、標的の謎生物を探す。そして最終的には精霊の泉で合流するという寸法だ。

「……納得いきませんのよ」

 森の入口でフロリーヌがプルプルと震えながらポツリと呟いた。しばらく待っても他のお世話係は来なかったので、稜真たちは九人と二人をくじ引きで二チームに分けたのだが――

「どうしてわたくしがヒカリ様と同じチームじゃないんですのよぉおっ!?」


【Aチーム】 

 リーダー 龍泉寺夏音

 メンバー 霧生稜真・相楽浩平・大沢光・シェリル

【Bチーム】

 リーダー 今枝來咲

 メンバー 夜倉侠加・神凪緋彩・獅子ヶ谷紗々・辻村・フロリーヌ


 なにかの陰謀を感じさせるチーム分けだった。

「なあ夏音、やっぱり俺と大沢は分けてチーム組み直さないか? Aチームが〝超人〟ばっかりになってるし」

「やーよ。勇者とお世話係をペアにしたら、そこだけ固定になって面白くないじゃない。別に偏っててもいいでしょ? 寧ろ意外にバランスが取れてると思ってるわ」

 稜真も進言してみたが、夏音にやり直す気はないようだった。ちなみに彼女が背負っている狙撃銃のケースにはティーセット一式が詰め込まれている。なにが目的でなにが建前なのかわからなくなってきた。

「ハッ! よく考えたら!」

 と、なんともなしにBチームを眺めていた相楽が唐突にカッと目を見開いた。

「そっちハーレムじゃねえか!? おい辻村そこオレと代われ!?」

「……」

 どうでもいい発見だった。辻村も黙ったまま頷かないから満更でもないのかもしれない。

「夏音、そこの駄犬がウチら追いかけて来ないようにちゃんと手綱握っとけよ」

「ええ、リーダーの言うことを聞かない馬鹿がいたら風穴開けてやるわ。來咲さんこそ――」

「白魔法科のあなた! わたくしはヒカリ様とご一緒がいいのでそこ交代するのよ!」

「ひえっ!? ご、ごごごごめんなさい私もこっちがいいですぅ!?」

「フロリーヌさんをよろしくね♪」

「……ていよく押しつけられた気がする」

 ガクッと脱力した今枝には既に疲労の色が見て取れた。それでも慣れている様子で、リーダーらしく皆を先導する。

「じゃあ、Bチームは左側の道から泉を目指すってことで」

「ほいほい、了解であります。ほらフロリっち、アタシたちはこっちデスヨー」

「フロリッチって誰ですのよ!? わたくしはフロリーヌってあああああああヒカリ様ぁあああああっ!?」

 三つに分岐した道の一番左を選択してBチームが進んでいく。頑として動かなかったフロリーヌは侠加に無理やり引きずられていくのだった。

「そちらもお気をつけてくださいね」

 最後に緋彩が会釈をして、Bチーム全員が出発した。

「さあ、あたしたちは右側から行くわよ!」

「了解したよ、マイマスター」

 張り切る夏音に返事をしたのは、Aチームの誰でもなかった。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 五人だったこの場に、いつの間にか六人目が増えている。

 赤みがかった金髪の美少年。青い制服に黒いマントの黒魔法科生徒。

 勇者カノンの召喚者。

 シルヴィオ・デ・ロス・アンヘレス。

「ぎゃあああああなんでヘンタイがここにいんのよ!?」

「マイマスター、女の子が『ぎゃあ』だなんてはしたないよ。僕が代わりに言ってあげるから……是非そのおみ足で踏んづけて……はぁはぁ……うぇへへ♪」

「もうやだコレめっちゃキモいッ!?」

「し、シルヴィオ様、どうしてここに?」

 三歩ほど引いたシェリルが変な物を見るような目で訊ねると、シルヴィオは持っていた赤いバラを自分の胸ポケットに挿した。

「それはもちろん、マイマスターたちが魔法学部を歩いていたからだよ」

 そこから尾行されていたらしい。だが、おかしい。少なくとも稜真はそういう気配を全く感じなかった。

「よく俺たちに気づかれなかったな」

「ははっ、気配を隠す黒魔法の付加呪文(エンチャントスペル)――〈隠蔽の衣(オックルターレ)〉は僕の得意魔法の一つなのさ」

「最悪のヘンタイだった!? なんでヘンタイはどいつもこいつもそういうの得意なんだ!?」

「ボクが言うのもなんだけど、龍泉寺さんのお世話係も相変わらずだね……」

「オレもエリザがかなりマシに思えてきたぞ」

「やめて!? 同情の目であたしを見ないで!?」

 掻き毟るように頭を抱えて蹲るAチームのリーダーだったが、すぐにキッと目を吊り上げて狙撃銃のケースからロープを取り出した。

「本当は謎生物を捕まえるためだったけど仕方ないわ」

「あふん♪」

 シルヴィオを蹴り倒した夏音は手に持ったロープをピンと張り、

「ふふふ、ヘンタイにお似合いの縛り方してあげるから大人しくしてなさい」

 荒んだ目で彼を見下ろしながら、三秒で亀甲縛りにして蹴り転がした。

「あん、マイマスターは天才か! この体中に食い込むギッチギチ感! 思うように体を動かせないもどかしさ! なんて新鮮な感覚だ! とても癖になりそうであへあへ……おや? みんなどこに行くんだい? 僕は? 僕は置き去り? え? ちょっとそれは酷いと思うよ!?」

 陸に打ち上げられた海老のようにぴょんぴょん跳ねるシルヴィオは見なかったことにし、稜真たちは何事もなかったかのように森の奥へと進んでいくのだった。

「あ、でもマイマスターに放置されるもなかなか……」

 最後の言葉も当然聞こえなかったことにした。


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