表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/77

三章 聖剣は簡単に使えない(1)

 翌朝。

 勇者召喚によりこの世界に喚び出された稜真たち勇者は勇者寮で勇者当番が作った朝食を食べた後、真向いにある勇者棟の勇者クラスで第一回目の授業を受けていた。『勇者なんとか』がこれ以上ないことを祈る。

 今日から勇者クラスは本格的に授業を始めるとのことだったが、なにをするのかと思えば午前中は主に地理や歴史の勉強だった。教壇に立ったのは初代勇者であり担任でもある舞太刀茉莉――ではなく、その分野を専門に扱う別の教師だった。

 この世界――リベルタースは三つの大陸からなっている。中でもフォルティス総合学園のある中央大陸は最も大きく、五つの国に分かれていた。

 中央大陸最大の国土を誇る北国――ノールシャール王国。

 魔法工学の著しい発展を見せる東国――アルポリア帝国。

 女神の生誕地と言われる歴史ある南国――聖オーソニア教国。

 精霊や幻獣が多く住まう西国――ガリアス王国。

 海産資源の豊富な島国――ウェルズス連邦。

 それらの国に囲まれた(正確にはウェルズス連邦以外の四国)、どこの国家にも属さない緩衝地域がこのフォルティス総合学園のある学術自治州である。

 この学園には様々な国や身分の人間が集まっている。昨日出会った人々を思い返すだけでも明らかだ。貴族だ平民だなどと言っていたが、この学園では基本的にそういう身分は関係ない。貴族も平民も同じ教室で授業を受けている。創立当初は割と諍いもあったそうだ。

 そんなフォルティス総合学園が創立した理由――魔王が現れたのは今から十一年前。どこからともなく現れた魔王は魔族の軍勢を率いて各大陸を侵略、滅べとばかりに貪り始めた。

 なんともありきたりな創作物臭い展開ではあるが、それがこの世界の事実で史実なのだから仕方ない。

 その魔王は十年前に初代勇者と『勇者の仲間』によって屠られ、魔族の残党も今では恐らく狩り尽くされている。

 あとは最初に聞かされた通り、復活の可能性を残した魔王に対抗するため世界中の国が同意した上でこの学園が建てられたのだ。

 だいたいこんな感じで、地理と近代史はざっくりだが午前中の授業だけで頭に入った。抜き打ちテストをされても高得点を取れると思う稜真である。

 だが結局、自分がこの世界でどうすればいいのかはわからなかった。


        †


 そして時間は平和に過ぎていく。

 昼食は男子グループで固まり、大沢の案内でガッツリ食べれる系の食堂に向かうことにした。男子グループで集まったのになぜ女子の大沢が……? いや男子だった。

「てか、なんで女子がいんだ?」

「酷いよ相楽くん!? ボク男の子だよ!?」

「はぁ!? 嘘つけ!?」

「ホントだよ!?」

「なら証拠見せろよ」

「え? 証拠だなんて……そんな、恥ずかしいよ……」

「これ男子の反応じゃねえだろ!?」

「いや相楽、どうやら本当らしい」

「マジか……」

「……」

 辻村は一言も喋らなかった。


 武芸部内にある学食――『にこまん食堂』。

 体を動かすことがメインの武芸部なだけあって、出てきた料理の量たるや単位をキロで表せるレベルだった。もっとも、燃費の悪い〝超人〟が二人もいるのだからたいしたことではなかったが……。

「なあ、ここの金ってどうなってんだ?」

「そういえば、俺も昨日魔法学部でタダ飯食わせてもらったけど」

「えっとね、ボクたち勇者はこの世界のお金なんて持ってるわけないから、食事に限らず必要な物は全部学園が負担してくれるんだって」

「あー、この制服も学園が何着も用意してくれたんだよな。わざわざ同じの複製しなくてもいいのに」

「服飾科の生徒が『異世界の服』ってことで気合入れちゃうみたいだよ」

「へえ、そんな学科まであるんだな」

「うん。『勇者の仲間』とは違うから、ここからはちょっと離れた学区になるけどね」

「つかよ、大沢、お前男ならそんなチビチビ食ってんじゃねえよ。ガッツリ食わねえと力つかねえぜ?」

「ボクは〝超人〟じゃないもん! これが普通だよ! ていうかこんなに食べられないよ!」

「……」

 辻村は黙々と食べ続けていた。


 午後一の授業は自習になった。

 早速放置プレイとは、勇者クラスの授業内容はほとんど定まっていなかったらしい。自習と言われてもやることはなく、普通の学校の休み時間みたいに好きな者同士が固まってワイワイガヤガヤと駄弁っているだけとなった。

「大沢、この世界の文字を教えてくれないか」

「うん、いいよ。ボクもまだ覚えたてだからあんまり自信はないけど」

「おいおい、てめえらはなんだ? 優等生か? せっかくの自由時間は遊ぶだろ普通」

「相楽、言葉はわかっても文字が読めなきゃこれから大変だぞ?」

「んなもん暮らしてりゃ自然に覚えんだろ。それより昨日から思ってたが、ここの女子ってレベル高くね?」

「いきなりなんだよ中学生か?」

「特に神凪緋彩だな。見たかあの胸? アレはやばいぜ」

「おお、やっぱサガラっちもわかりますか。ヒイロっちのオッパイは魅惑の凶器デスヨ」

「うおっ!? 夜倉侠加、てめえいつの間に!?」

「ヒイロっちのオッパイの揉み応え聞きたい? 聞きたいかいボウヤ? おいちゃんが教えてあげるとね、こうむにゅっとしててふわっとした感じでそれでいてずっしりとした確かな重みがゲヘヘヘヘ」

「なななななななに話してるんですかやめてください侠加さん!?」

「やべー、話を聞くだけですげーってわかる。な、霧生?」

「こういう感じで主語述語が並んで」

「なるほど、英語と日本語の間を取った感じだと思えばわかりやすいかもな」

「――って無視かてめえら!?」

「サガラっちサガラっち、侠加ちゃんの魅力はどう? 悩殺される?」

「は? いやまあ、てめえも見てくれはいいけど……中身がオヤジだろ?」

「ヤハハ、そんな誉めたってなんも出ないデスヨ! ポロリもないよ!」

「すげえ、どうやって誉め言葉に聞こえたんだ今の……」

「ササっちも可愛いよね」

「獅子ヶ谷は三年後に期待だな。ガキは守備範囲外だ」

「……にゃ? 呼んだ?」

「関わんじゃないよ、紗々。ありゃバカの会話だ」

「クルっちは大人っぽいよね」

「大人っつうかヤンキーの姐御――」

「あぁ? テメーにだけはヤンキー言われたくねえんだが? シメるぞコラ?」

「発言がもうヤンキーじゃねえか!?」

「それでね、ここで接続詞がこうなって」

「大沢教えるの上手いな」

「そ、そうかな? えへへ」

「じゃあさ、カノンっちはどう? 侠加ちゃんから見てもかなりの美人さんデスヨ?」

「あー、ありゃダメだ。女の皮を被ったゴリラだあいつは。まだオレの召喚者の方が可愛げがあるってもん――ん? あれ? 夜倉の奴どこ行きやがった? なあ、霧生……って霧生も大沢もいねえ!? なんだ!? 神隠しか!? 異世界から異世界にぶっ飛んだのか!?」

「はぁい、浩平くん♪ 誰の可愛げがどうなのかしら?」

「――殺気ッ!?」

「今日は暑いわねー。季節的には春らしいんだけどねー」

「おい龍泉寺、なんで窓を開け――」

「ユーキャンフラーイ?」

「の、ノー」

「イエース♪」

「のわぁああああああああああああああマジで四階から突き落としやがったあのアマぁあああああああああああああああっ!?」

「あら? こんなところに銃術科の狙撃銃が。追撃は基本よね♪」

「鬼だ……鬼がいる……」

「……」

 そしてやっぱり辻村は喋らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ