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二章 お世話係はいりませんか?(2)

 フォルティス総合学園は午後の授業に突入していた。

 しかし勇者クラスの本格的な講義は明日からとなり、稜真たちは午後から自習という名の自由行動と相成った。

「ごめんな、大沢たちにまで教室の掃除手伝わせてしまって」

 本学舎を出て少し歩いたところで稜真は隣に並ぶ大沢光に謝った。ほとんどの者が教室を去っていく中、大沢光と神凪緋彩だけが残って部屋の掃除を手伝ってくれたのだ。

「あはは、気にしなくていいよ。ボクも神凪さんも自主的に手伝ったわけだし。それに人数は多い方が早いでしょ?」

「けど壊れた机の交換までやってもらわなくてもよかったんだけどな。女の子には重かったんじゃないか?」

「うん、それ神凪さんのことだよね? ボクは含まれてないよね?」

 細枝のように華奢な腕を伸ばして稜真の袖をくいくい引っ張る大沢。そういえば彼女、もとい彼は男だった。顔も声も仕草も普通の女子より女子然としているから、気をつけないと認識を書き換えられてしまいそうだから困る。

「相楽の奴、どこ行ったんだろうな?」

「ちょ、話題の変え方が急なんだけど!?」

 意識を取り戻した相楽はバツが悪そうに軽く挨拶を済ませると、さっさと掃除を始めて気づけばいなくなっていた。この世界に来たばかりなのは稜真と同じはずだが、一体どこに行ったのやら謎だった。

「まあ、相楽のことはいいや」

「自分で話題振っといて!?」

 なんか愕然としている大沢がそこにいた。

「それより学園の案内まで頼んじゃったけど、迷惑だったら断ってもよかったんだぞ?」

「ううん。迷惑だなんて思ってないよ。勇者クラスって女の子ばっかりだったから、ボク、ずっと同年代の男の子といっぱいお話したいって思ってたんだ」

「辻村は?」

「辻村くんはほら、あんまり喋ってくれないから……」

 本当は辻村とも楽しく会話したいのだろう、大沢は少し寂しそうに苦笑した。その表情はとても儚げで、とても同年代の男子には見えなかった。一瞬、ドキリとしてしまうくらいには女の子に見えた。いかんいかん。

「霧生くんてさ、向こうじゃボディーガードしてたんだよね?」

「ああ。といっても、昼間は普通に学校行ってたけどな」

「なんだかカッコイイね! 霧生家の人ってすごく強いって聞いてはいたけど、さっき教室で見た時はビックリしちゃった」

「やっぱ俺のこと気づいてたのか?」

「うん、ボクもこう見えて裏じゃいろいろやってたからね」

 それ以上は立ち入るな。大沢の曖昧な返答にはそういう意味合いがあった。自分で踏み込んでおいて、と思いかけたが、よく考えたら稜真は自分からバラしている。大沢も深入りするつもりなんてなく、ただ確認するためだけに訊いたのだろう。

「ねえ、霧生くん」

 スキップのような軽快さで前に出た大沢は、後ろ歩きをしながら上目遣いで稜真を見詰めてきた。

「なにかあったら、その、ボクのことも護ってくれる……かな?」

 ちょこんと小首を傾げる大沢。見詰めてくる瞳が捨てられた仔犬のように潤んでいた気がしたが……たぶん幻術の類だ。大沢は男。大沢は男。惑わされてはいけない。だから稜真は素っ気なく言う。

「自分のことくらい、自分で護れるんじゃないのか?」

「あはは、それもそうだね」

 太陽のような眩しい笑顔を咲かせて稜真の隣に戻った大沢だが、一瞬、その表情に陰りが見えた気がした。

「あ、そうそう、霧生くんはこれからどうするつもり?」

 思い出したように大沢は胸の前で手を合わせた。

「ん? この学園を見て回るつもりで案内を頼んだんだけど……?」

「そうじゃなくて、この世界でこれからどうしていくのかなって。やっぱり元の世界に帰りたい?」

 茉莉先生が最後に言ったことだ。この世界での自分の未来。それをどうするのかを選べ。

「ぶっちゃけると微妙だな。あっちの世界に帰っても、どうせ糞みたいな人間の護衛ばかりやらされるし」

 殻咲隆史の下衆な顔が脳裏に浮かんだ。

「向こうでやりたかったことも特にないしなぁ」

 一応、帰る方法を探すつもりはある。ここは異世界だ。なんの目的もなくのほほんと過ごせるほど稜真の神経は図太くない。なんでもいいから『やるべきこと』が必要だった。

「まあ、まだなんとも言えない感じかな。大沢はどうなんだ?」

「ボクも同じかな。帰りたい気持ちはあるけど、いざ帰る方法が見つかった時、自分がどうしたいのかが大事だと思う。漫画や小説でも、異世界に飛ばされた主人公は最初こそ帰る方法を探すけど、最後は結局残ったりするよね」

 住めば都。そういう主人公たちは慣れてしまったんだ。

 異世界の生活というものに。


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