だって・・・ダブルデートしたいんだもん
『ただいま、おかけになった電話番号は現在電波が』
スマホから聞こえる繋がらないことを示す平坦な声が聞こえた途端、わたしは通信を切った。
ファミレスの出入り口近くでスマホに向かって、
「くそっ! 着信拒否しやがったな」
少々言葉の乱暴な悪態をつく。
最初は出てくれたのに断られ、2度目は呼び出し音は鳴ったものの無視され、3度目は無残にも電源を切られた。それ以降、何度電話しても一向に繋がらない。
わたしじゃなくて優太に電話させればよかったかな? 失敗したなぁ。
仕方なく、待ち人のいる席に戻った。
「遠野君と連絡ついた?」
「ついたのはついたんだけどね。ごめんね。大事な用事があるらしくて今日来れないんだって」
わたしを見上げるようにして問いかける彼女に答える。ショートカットに男装が似合いそうなすっきりとした顔立ち。学年に1人か2人はいる、女子に人気のある女の子。目の前の西川さんもそのタイプだ。
「それじゃ、仕方ないね。今日は諦めるわ。次、期待してるから、話だけでもさせてね」
「うん。今度ね」
絶対といいたいところだけど、今日の態度じゃ、次があるかどうかも怪しいから、無難に答えておいた。
彼女は、案外サバサバとした様子でさっと立ち上がると、店を後にした。
その後ろ姿を見ながら、わたしはため息をつきながら席に着いた。
「よさそうな感じの女の子だったのにな」
ねちねちとしつこくないところとか、話だけでも、ていう控えめなところとか。
「美人系、かわいい系でダメだったから、ボーイッシュ系にしたけど、これはあたりだったんじゃないの? こんな時に何で来ないのかしら、亮のやつ」
「大事な用があったんだろ? だったら来るわけないじゃん」
非難めいた声が目の前からする。背もたれにどっかりと体重を預けて、腕組みに足まで組んで、機嫌がよろしくないのは一目でわかる。
何がそんなに不満なんだか。
わたしはベルを押し、店員に勝手にケーキセットを2つ注文した。
「優太こそ、ちゃんと伝えてくれてれば、亮だってきてくれたのに」
「それはさっき謝っただろ。うっかりしてたんだよ」
「それはまあ、そうだけど」
これ以上、口を開くと大ゲンカになりそうなので、とりあえずは黙った。
ケーキが運ばれてきたので、飲み物をとりにいくことにする。
「優太は何がいい?」
「炭酸なら、何でも」
「わかった」
わたしはドリンクバーへと歩いていった。
まったく、亮ってば頑ななんだから。
優太と付き合い始めてから、そろそろ1年。
その間、合コンしたり、クラス会したり、部活でも交流会やったり、いろいろしたけどどれも無駄だった。大勢が無理なら、個人的にと思って、チャンスを作ったのに、前回の2回は来てくれたんだけど、お気に召さなかったようで、だまし討ちみたいなもんだったから、亮は怒っていたしね、2回目の今日に至っては、すぐにピンと来たんだろうな。速攻断られたしね。
優太にはコーラとわたしはオレンジジュース。
テーブルに置いて席に着いた。
「オレンジジュース。珍しいね」
優太が穏やかな顔で聞いてくる。機嫌は直ったみたい。普段の顔だ。亮ほどのイケメンではないけれど、わたしは彼の穏やかな雰囲気が好きだ。亮とは打てば響くような会話ができて、それはそれで楽しいんだけど、一緒にいて安心できるのは優太だ。
「そう? たまにはいいかなっと思って。なに? もしかしてオレンジジュースがよかった? 取り替えてもいいわよ」
優太がオレンジジュースをあまりにも凝視しているので、こっちの方がよかったのかと思い言ってみた。
「いやいや、そうじゃなくて、おれは炭酸の方がいいから、何でもないから」
なんでもなさそうな顔で、コーラを口にした。
変な反応? 何か思い入れでもあるのかしらとは思ったけれど、詮索することは止めた。問い詰めたら、きっと碌なことにならない。彼女としては黙っておこう。
「ねえ、優太、もう一度セッティングできないかな? 今日がダメになった代わりに」
手を合わせてお願いしてみる。
「無理だよ。本人にその気がないんだから、諦めたら?」
「諦めきれないから言ってるんじゃない。亮って、モテるくせに浮いたうわさ一つないし、もしかして女がダメとか?」
「おい、本人に言うなよ。激怒するぞ。言っとくけど、ノーマルだから。それに本人にその気がないものを他人が進めてもな、そのうち、彼女できるんじゃないの?」
優太は呑気にいう。いつまで待てばいいのよ。そのうち卒業してしまうわよ。心の中で舌打ちする
「だったら、今でもいいじゃない? わたしはね、ダブルデートがしたいの。みんなで楽しく遊びたいの」
「・・・・」
「もちろん、優太とふたりの方が一番楽しいわよ。当たり前でしょ」
優太が複雑な顔をしたので、すかさずフォローする。優太とはいつでも二人きりになれるからね。それよりも。
「亮って、休みの日ってなかなか会えないじゃない? 忙しいって、いっつも断られるし、優太とわたしに遠慮していることもあるかもしれないけれど」
わたしたちが付き合っているから、邪魔しては悪いと思っているのか、本当に忙しいのか、休みの日って何をしているのかしら?
邪魔して悪いと思っているのであればなおさら、ダブルデートっていいと思うのよね。お互いに相手がいれば気をつかなくて済むし。
「マジで、やめといた方がいいと思うな。本人の自由にさせといたら?」
「優太、なんか隠してる? 亮に何か聞いてるの?」
「なんで?」
「最初のころは乗り気で、一緒に考えてくれてたじゃない? でも、最近じゃ特に、妙に亮の肩を持つし、もしかして、すでに彼女がいるとか?」
「彼女がいるんだったら、香織にも教えるだろ?」
「それもそうね」
そこは納得するんだけどね。優太は平然として答えているけれど、引っかかるものは感じるのよね。うーん、なんだろう。
「一緒に遊びたいのよね。亮も勉強と部活とそれだけの生活って虚しくないのかしら? 高校生らしくみんなで遊んで、これぞ青春ってね」
「香織って、亮のこと好きなんだな」
しみじみするような表情をされた。やきもち焼いているわけではなさそう。
「高校生になって初めて友達になった人だからね。それなりに思い入れがあるのよ。それに男友達っていうのも初めてだしね」
入学式の日、教室に知り合いのいないわたしに初めて声をかけてくれた人。それがとても嬉しかった。恋愛感情抜きに付き合いができる人。優太の親友で、ダブルスのパートナーで。たくさんの共通点を持つ人。
だから、一緒に思い出を作りたいと思う。そのためにはダブルデートが一番だと思うのよね。何度もいうけど。
「この際だから、とっかえひっかえでもいいから、なんだったら、日替わりでも」
「段々、過激になってるし、お願いだから、亮にはいうなよ」
優太はさすがに青ざめている。
「それっていい方法かも。女の子たち喜ぶんじゃない? 亮とデートしたい子はたくさんいるしね」
優太の言葉は耳には入らなかった。我ながら、名案だと思う。色んな子と付き合えば、そのうち、好きな子が現れるかもしれないし、いいんじゃないかしら?
「思うだけにしとけよ。亮を失くしたくなければね」
優太から重低音の声で大きな釘をさされた。
わかってるわよ。亮がチャラ男な性格だったら、とっくにしてるわよね。
「何か、いい方法ないかしら」
亮と遊びたーい。ダブルデートしたーい。
なおも諦めないわたしの顔をじっと見ていた優太は、やがて大きくて長い溜息をついたのだった。




